空港施設の株主総会で代表取締役社長の取締役選任議案が否決。株主にはどんな思惑があったのか?株主によるガバナンスが効いていたと言えるのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

空港施設の株主総会で、JAL出身の乘田代表取締役社長を取締役に選任する議案が否決されました。その結果、空港施設生え抜きの代表取締役社長が就任し、JALとANA出身の2人の代表取締役副社長が新たに就任することになりました。

2023年3月30日付の朝日新聞が、国交省元事務次官が国交省OBの副社長(当時)を社長にするように求めていたと報じたことで、国交省による人事介入問題として注目されていました。

乘田社長は国交省元事務次官からの人事介入を拒絶し役員人事の独立性・透明性を確保した当事者です。それなのに、何故に取締役に選任されなかったのでしょうか。

今回の取締役選任議案を否決した株主の思惑はどこにあるのか。株主ガバナンスが効いていたと理解していいのか。推測しながら整理してみたいと思います。

空港施設の人事介入問題の概要

空港施設の人事介入問題について、全体像をあらためて整理しておきます。

  1. 空港施設は羽田空港などの空港施設を管理している。
  2. 空港施設の株式は、JALとANAがそれぞれ21.02%、日本政策投資銀行(DBJ)が13.82%を保有。
  3. 1970年の設立以来、7代連続して国交省OBが社長を続けていたが、2021年6月から、ANA出身の稲田会長、JAL出身の乘田社長の体制に。
  4. 2021年6月、国交省OBの山口取締役が、多くの反対がある中、自薦により代表取締役副社長に就任。
  5. 2022年12月頃、国交省本田元事務次官が、稲田会長と乘田社長に辞任を求め、国交省OBの山口代表取締役副社長を社長にするように要請。
  6. 2023年3月30日、朝日新聞が国交省OBによる人事介入を報道。他社も後追い報道。
  7. 2023年4月3日、山口副社長が退任
  8. 2023年4月28日、独立検証委員会の検証結果報告書公表。
  9. 2023年5月23日、国交省本田元事務次官が東京メトロの会長を任期満了により退任を公表。
  10. 2023年5月29日、稲田会長が6月定時総会終結の時を以て任期満了により退任を公表。国交省出身の取締役候補者もゼロに。
  11. 2023年6月26日、国交省航空局長が3月28日に国交省元事務次官から供応接待を理由に戒告(国家公務員倫理規程違反)。翌27日、航空局長辞職。
  12. 2023年6月29日、株主総会にて乘田代表取締役社長の取締役選任議案否決。

国交省出身の取締役候補者がゼロになること、独立検証委員会の検証結果報告書については、以前書きました。

乘田代表取締役社長の取締役選任議案を否決した株主の思惑

乘田社長は国交省元事務次官からの要請を拒絶したのに、なぜ取締役に選任されなかったのでしょうか。

本来なら、稲田会長(当時)と乘田社長は、国交省元事務次官からの人事介入を跳ね返したのですから、空港施設の独立性・役員選任の透明性を守ったといえます。

しかも、今回の定時株主総会では国交省出身の取締役候補者をゼロにし、空港施設の独立性をより一層強固なものにしようとしていました。

コーポレートガバナンスの観点からはその姿勢や手腕は評価されて然るべきです。

しかし、大株主であるANAは人心一新を理由に反対票を投じたことを明らかにしました。JALは「個別の議案の賛否は答えられない」とコメントしていますが、反対票を投じたと報じられています。

今回の登場人物のうち稲田会長は退任、山口副社長は辞任、国交省本田元事務次官は東京メトロの会長を退任、国交省航空局長は戒告の末辞職と、乘田社長を除く全員が何らかの形で身を引くかたちになっています。

稲田会長以外はそれぞれに非があるので当然ですが、それでもANA出身の稲田会長が退任するのに、JAL出身の乘田社長はその地位に残るのはバランスが悪い気はします。

乘田代表取締役社長の取締役選任議案を否決することで、新体制での取締役はANA出身者とJAL出身者は各1人(生え抜き3人、JAL、ANA、DBJ各1人)とバランス良く収まります。

バランスはJAL、ANA、DBJ、生え抜きが相互に牽制しあう力関係を担保するものなのでコーポレートガバナンスの観点からも見逃せないポイントです。

そこで、ANAの立場からすれば、一連の問題に関わる人物を一掃することに加え、ANA出身の稲田会長が退任するのだからJAL出身の乘田社長も一蓮托生で交代することを含めて、「人心一新」と表現したのではないかと察することはできます。

JALは反対票を投じたことを明らかにしていませんが、ANAやDBJとのバランスに配慮して否決票を投じたのではないでしょうか。

報道やネットの投稿では、国交省に配慮/忖度したのではないかとの見方もあります。

しかし、この状況で国交省に配慮/忖度して否決したのであれば、コンプライアンスやコーポレートガバナンスのセンスが相当欠けています。そんなことをすれば、むしろ、ANAやJALに火の粉が降ってくるのですから、それはないと思います。

そうした見方を避けるためには、大株主であるJALは、世の中の人たちが想定してない内容の議決権行使をした後に、その理由や目的を対外的に公表・説明したほうが良いと思います。

法的な義務としてではなく、JALに対する信頼を維持する目的での危機管理広報としての公表・説明です。

株主によるガバナンス

国交省OBによる人事介入で問題になったのは、空港施設のコーポレートガバナンスです。今後の空港施設のコーポレートガバナンスを左右するのは、取締役らによるガバナンスはもちろんのこと、JAL、ANA、DBJといった大株主によるガバナンスです。

大株主によるガバナンスの方法には、今回のように株主総会で議決権を行使するなど株主の権利を行使するほか、空港施設のコーポレートガバナンスを確保できる人物を取締役に選ぶこともあります。

稲田会長と乘田社長が国交省OBらによる人事介入を拒絶し、空港施設の独立性、役員選任の透明性を確保できたのは事実です。この点は評価されるべきです。

稲田会長・乘田社長体制を終えた後も、空港施設の独立性、役員選任の透明性は確保し続けることが必要です。

そのためには、大株主は、国交省からの不当な介入を拒絶できる腹が据わった者を取締役に選任することが不可避です。通常の社内人事の延長で、空港施設の取締役にする者を選ぶのではなく、取締役候補者の資質の見極めが今まで以上に重要になるということです。

今回の定時株主総会で取締役に選任されたJAL、ANA、DBJの出身者3名がどのような方かは存じ上げませんが、腹の据わった者であることを願ってやみません。

スカイマークにも問題は波及するか

国交省による人事介入と空港施設の独立性、役員選任の透明性がこれだけ報じられている中、スカイマークが2023年4月から7月にかけて国交省OB3人を社外取締役、非常勤顧問、シニアアドバイザーに再就職させることが報じられています。

空港施設が3月以降に注目される前から決まっていたのかもしれませんが、このタイミングで選任するのは、問題意識が低い印象を受けます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。