東洋建設取締役会対YFOに決着。招集通知発送後にリリースを連発したものの、その内容はある程度は具体的だけれども、全体的には定型文的な文章が多くて効果が薄かった印象を受ける。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年6月27日、東洋建設の定時株主総会が行われ、取締役会側が提案した取締役候補者は11人中6人の選任に留まったのに対し、任天堂創業家の資産運用会社YFOが提案した取締役候補者は9人中7人が選任され過半数を占めることになりました。

6月28日には、取締役会側が提案した大林取締役に加え、YFOが提案した候補者であった吉田取締役が代表取締役会長に就任することも発表されました。

2022年5月にYFOが友好的TOBを提案したことから始まった東洋建設との対決の第一段階が決着した形です。今後はTOBを行うのかどうかについて、取締役会内の議論が活発に行われるはずです。

TOBに巡るYFOと東洋建設の意見の応酬も面白いのですが、今回は、定時株主総会の前後を通じてYFOと東洋建設が取締役候補者を巡ってリリース・見解を応酬していた珍しいケースなので、この点を取り上げます。

YFOによる取締役候補者の株主提案

YFOは、2023年4月17日に、取締役9人、監査役1人などの株主提案を行いました。

ここに至るまでには、まず、両社の意見の対立がありました。

  1. YFOが2023年3月1・2日に東洋建設の企業価値・株主価値の向上案についてリリースを公表したところ、東洋建設は3月3日に反対意見を公表。
  2. これを受けて、YFOが、同日、TOBを巡る現任取締役の不適切な対応、東洋建設のガバナンス上の問題点についてリリースを公表すると、東洋建設は、4月4日にTOBを巡る対応とガバナンス上の問題点についての反対意見を公表していました。

この流れの延長で、YFOは、TOBを巡る現任取締役の不適切な対応と東洋建設のガバナンス上の問題点を理由にした取締役等候補者の株主提案をおこなったのです。

株主総会前に機関投資家が既存の取締役会と経営に関する協議したものの意見が対立したことの結果、株主提案に至るのは最近の株主総会では良くみられます。先日のコスモHDが大規模買付行為に対する買収防衛策を導入するための株主意思確認総会を行うに至ったケースも同じ手順です。

YFOによる株主提案後の東洋建設取締役会の対応

YFOが取締役候補者らを株主提案した後の東洋建設取締役会とYFOの対応は定石どおりのものでした。

  1. まず、東洋建設取締役会が4月18日に反対意見を公表
  2. 次いで、YFOが4月20日に「東洋建設に提案する取締役・監査役候補者について」と題する資料を公表。
  3. すると、東洋建設は4月21日に「株主提案の役員候補者に対する役員指名・報酬委員会による面談要請について」と題するリリースを公表しました。

東洋建設は「指名・報酬委員会における適正な手続の一環として」からYFO提案の取締役候補者らに対する面談をYFOに取り次ぐように要請したのです。

その際、YFOが候補者らに指名報酬委員会との面談を取り次がないのは役員選任の適正手続を無視する、コーポレートガバナンスの根幹に反するものと批判しています。

現在、上場会社では、コーポレートガバナンス・コードの要請もあり、指名報酬委員会を設置している会社が増えています。

この目的は、役員選任手続の独立性・透明性を確保するために、指名報酬委員会という第三者に人事権を握らせるところにあります。

役員選任手続の独立性・透明性とは、要するに、現任の一部の役員や大株主だけが密室で後任候補者を決められないことです。

これに対し、役員候補者を株主提案して株主総会に諮ることは、現任の一部の役員や大株主だけが密室で後任候補者を決めることとは相反するので、役員選任手続の独立性・透明性は確保されているように思います。

指名報酬委員会には取締役候補者を選任する絶対権限はないのですから、東洋建設の指名報酬委員会からの面談要請を、YFOが候補者たちに取り次がなかったとしても、それが適正手続に反するか、コーポレートガバナンスに反するかは疑問です。反しないように思います。

東洋建設の取締役会による取締役候補者らの提案

候補者に選任した理由の説明

以上に対して、東洋建設の取締役会は、5月24日、会社提案の取締役候補者らを公表しました。

その際、東洋建設の取締役会は、会社提案の役員候補者らが企業価値・株主価値の向上に貢献できることなどについて詳細に説明すると同時に、YFOの提案に対する反対意見も公表しました。

その際、社内取締役の誰が何の事業を行ったかなどを個別具体的に書かれてはいます。ただ、もっと具体的に書き下しても良かったようにも思います。

東洋建設は6月12日にも選任理由を公表していますが、こちらは抽象的すぎる印象を受けました。出しても出さなくても影響度は小さかったように思います。

これに対し、6月21日に公表した資料では、より見やすく図表化して説明しています。

ぱっと見では詳細が書かれているようにも思えますが、よく読むと、招集通知によくある誰にでも使えそうな定型文だなという印象も受けます。

取り繕わずに本音をもっとズバズバ書けたら、株主・投資家に与える印象は違ったのではないでしょうか。

社外取締役の選任理由が説得材料に欠けた印象

結果から言えば、東洋建設が提案した社外取締役は半数が否決されてしまいました。

なぜこの社外取締役を候補者にしたのか、その選任理由について、もっと自分たちの言葉で、説得的な材料を記載してもよかったのではないでしょうか。

6月21日に公表した資料には指名報酬委員会のコメントも添えられていましたが、官僚出身なら誰にでも当てはまるような文章にしか読めませんでした。

これは東洋建設の話しではありませんが、社外取締役に女子アナウンサーを選んだり、スポーツ選手、YouTuberを選んでいる会社は、なぜ女子アナウンサーやスポーツ選手、YouTuberを会社の経営判断、意思決定に関与させることにしたのか、なぜ女子アナウンサーやスポーツ選手、YouTuberが監視監督義務などガバナンスに貢献することが期待できると判断したのかについては、もっと説得的に公表するべきだと思います。

まとめ

経営権が争われているときのリリースは、公表することによって株主・投資家を説得するための材料だと思えば、もっと頭を使ったオリジナルの文章にできるのではないでしょうか。

「おじさん構文」ならぬ「招集通知あるある構文」では説得力は薄いと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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