富士通子会社とドミノ・ピザの価格表示に消費者庁が景品表示法に基づく措置命令。有利誤認表示の基本を確認しよう。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

消費者庁が、2023年6月23日に富士通子会社の富士通クライアントコンピューティングに対し、6月27日にドミノ・ピザジャパンに対し、それぞれ、景品表示法の有利誤認表示を理由として措置命令を発しました。

そこで、今日は、景品表示法の有利誤認表示に関する基本の再確認と対策について、です。

富士通クライアントコンピューティングに対する措置命令

消費者庁は、2023年6月23日に、富士通クライアントコンピューティングに対して有利誤認表示を理由とした措置命令を発しました。

有利誤認表示と指摘されたのは、以下の2つの表示です。

  1. 二重価格表示
    2022年10月4日から同月5日までの間、12商品について、「WEB価格(税込) 187,880円、キャンペーン価格(税込) 148.425円21%OFF(10/5 14時まで)」と表示するなど、あたかも、キャンペーン価格が通常販売しているWEB価格よりも安いかのように表示していたが、WEB価格で販売した実績はなかった
  2. 期間限定表示
    二重価格表示した12商品は10月5日14時以後もキャンペーン価格で購入できた
    また、遅くとも2022年10月4日から同月26日までの間、8商品について、「“まとめ買いキャンペーン実施中”買えば買うほどお得! 対象商品のお買い上げ数量に応じて割引額がアップするお得なキャンペーンです。3台以上のお買い上げ→1台につき3,000円OFF!5台以上のお買い上げ→1台につき5,000円OFF!」及び「[期間:2022年10月26日(水)14時まで]」と表示していたが、2022年10月26日14時以後、キャンペーン価格よりさらに値引きした価格で購入できた

消費者庁が公表した資料に掲載されている実例は次のとおりです。右上の赤字部分が二重価格表示、ページ真ん中のグレーの枠部分が期間限定表示です。

消費者庁「富士通クライアントコンピューティング株式会社に対する
景品表示法に基づく措置命令について」

二重価格表示に関するルール

富士通クライアントコンピューティングの二重価格表示は、販売実績のないWEB価格を比較対象として表示していたことが景表法違反と判断されました。

では、アリバイづくりのために一瞬でもそのWEB価格での販売実績があれば許されるのでしょうか?

答えは、許されません。

価格を比較する二重価格表示について、消費者庁は「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」とのガイドライン(ルール)を出しています。

通常の販売価格など過去の販売価格等を比較対照価格とする二重価格表示については、

  • 同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはない
  • セール(キャンペーン)開始時点から遡って過去8週間(販売期間が8週間未満の場合には、その期間全部)の過半を占めているときには「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえる
  • その価格での販売期間が通算して2週間に満たない場合や、その価格で販売した最後の日から2週間以上経過している場合には、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」にはあたらない

とのルールが定められています。

日頃からあらかじめキャンペーンやセールを想定した価格設定にしておくか、キャンペーンやセールを計画している場合には日頃の価格での販売実績をキチンと記録に残しておくことが必要です。

期間限定表示に関するルール

富士通クライアントコンピューティングは、期間限定表示も景表法違反と判断されました。

期間限定表示の良くある例は、期間を定めたキャンペーンのほかには「今だけ」などです。このほか、「好評につきキャンペーン期間延長」などと表示してキャンペーンを繰り返す例もあります。

期間限定表示が有利誤認表示にあたるとして措置命令が出たケースとしては、以下があります。

キャリアカレッジジャパンに対する措置命令

キャリアカレッジジャパンは、通信講座の受講生を募集するに当たり、自社サイトに、2010年5月25日から7月24日まで「特別企画 受講生応援キャンペーン」「全講座 1万円割引!」「今がチャンス! 大幅利益還元のこの機会に、ぜひ大好評の通信講座で一生ものの資格を手にしてください!」「キャンペーン期間 2010年5月25日▶7月24日まで」と、あたかもキャンペーン期間中に申し込めば受講料が1万円引きになるかのように表示していました。

しかし、キャンペーン期間終了直後の2010年7月25日から9月24日まで「受講生応援 サマーキャンペーン」として、ほぼ同様の表示を行い、これを2014年 7 月31日までの間、44日を除き、繰り返していました。

そのため、2015年3月20日に公正取引委員会(当時の監督官庁)は有利誤認表示として措置命令を発しました。

フィリップ・モリス・ジャパンに対する措置命令・課徴金納付命令

フィリップ・モリス・ジャパンは、2016年1月1日から5月31日までコンビニエンスストアに設置したフライヤーに「アプリ・Webで会員登録すれば4,600円OFF」「iQOSキットメーカー希望小売価格9,980円(税込)▼5,380円(税込)」「会員登録キャンペーン期間:2016/5/31まで」等と、期間内に会員登録すれば5,380円値引きされるかのように表示していました。

しかし、実際には、2017年6月20日までほとんどの期間で同額が値引きが適用されていました。

そのため、消費者庁は、有利誤認表示を理由として、2019年6月21日に措置命令を発し、かつ、2020年6月24日には5億5,274万円の課徴金納付命令を発しました。有利誤認表示に対する課徴金納付命令としては、現在も国内最高額です。

なお、優良誤認表示については、大幸薬品のクレベリンに関する表示に対する6億0744万円の課徴金納付命令が国内最高額です。

ドミノ・ピザジャパンに対する措置命令

消費者庁は、2023年6月27日、ドミノ・ピザジャパンに対し、景品表示法の有利誤認表示を理由に措置命令を発しました。

例えば、2022年10月3日から11月6日まで、「アメリカン」と称する料理について、「\お持ち帰り/半額 \毎日、いつでも、どのピザでも、好きなだけ/ お持ち帰り」「\お持ち帰り/半額 Ⓜ¥950(税込) Ⓡ¥1249(税込) Ⓛ¥1550(税込)」及び「デリバリー Ⓜ¥1900(税込) Ⓡ¥2499(税込) Ⓛ¥3100(税込)」となど、あたかもお持ち帰り時にはデリバリーの半額で購入できるように表示していました。

しかし、実際には、「サービス料」と称して、「お持ち帰り」又は「デリバリー」と称する表示価格に、同表「料率」欄記載の料率を乗じて得た額が、299円を上限として加算されていました。

これが有利誤認表示と判断されたのです。

このようなサービス料も、消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」には

  • 通常他の関連する商品や役務と併せて一体的に販売されている商品について、これらの関連する商品や役務の対価を別途請求する場合に、その旨を明示しないで、商品の販売価格のみを表示すること。

は、不当表示に該当するおそれのある表示と規制されています。

サービス料や手数料などを請求するときには、チラシやパンフレットに明示するようにしてください。

まとめ

価格表示をする場合には、できる限り安い価格を表示したい気持ちはわかります。しかし、必要な記載をしないことは、消費者を騙しているのと同じです。長い目で見たときには、消費者からの信頼を失います。

課徴金の納付まで命じられれば、最大で過去3年分の売上の3%を失います。目先の売上を追って不当な価格表示をすることは、3年後に売上・利益を失い、会社を弱体化させることにも繋がります。

「持続可能性」として求められていることの根幹は、消費者から信頼・信用され続けることです。小難しいことに取り組む前に、消費者を騙さない販売方法を徹底してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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