リクルート、マイナビのサクラ問題。組織的不正・不祥事が発生する萌芽が垣間見える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

リクルートが、大学生向けオンライン就活セミナーで、従業員が学生になりすまして質問する「サクラ」行為をしていたことや、社内のコミュニケーションツールで「動物園を見事に手懐けていて素晴らしいです」と学生を揶揄していたことが、2023年6月4日に報じられました。

この結果、リクルートは、6月5日、リクナビのサイト上で学生向けに「不適切な表現」「不誠実な行為」があったとする謝罪文を公表しました。

6月6日には、マイナビも、学生向けオンラインセミナーで同様の「サクラ」質問をしていたとして、謝罪文を公表しました。

今日は、このサクラ質問の是非と、サクラ質問に至ったプロセスをコンプライアンス、ガバナンスの観点から見ると組織的な不正・不祥事が発生する要因が詰まっていることについて、です。

サクラ質問の何が問題なのか

報道を見ると、サクラ質問をした理由について、リクルートは、次のように説明しています。

「オンラインセミナーは質問しづらい雰囲気になりがちなことが課題だった。学生の皆さまにより有益な時間にするために、質問しやすい雰囲気にするためのきっかけ作りとして行っていた」

2023.6.4朝日新聞

セミナーの出席者が恥ずかしがったり、周りの目が気になって質問しないことは学生に限りません。そのため、質問しやすい雰囲気にするきっかけを作ろうとした動機・目的は納得いくものです。

しかし、学生を装ってサクラ質問したという方法については、学生から「信用をなくす」「信頼していただけにショック」などの声が挙がっています。

目的が正しくても、目的を達成する手段が何でも許されるわけではありません。「装う」ことは学生に嘘をついているのですから、学生からの信頼を失うことは当然です。

サクラ質問をするくらいなら、

  • 従業員の立場を明らかにしたシンポジウム形式にして主宰者側が相互に質問を投げかける様子を見せる
  • 主宰者側が「よくある質問」を例示して、それに回答する

などの方法をとれば良かった気がします。

株主総会で従業員株主によるサクラ質問が問題になった事例

サクラ質問は、株主総会でも訴訟に発展したことがあります。

2014年6月に行われたフジ・メディア・ホールディングスの株主総会で、手を挙げていたのに議長から指名されなかった株主が、質問した株主16名のうち8名が子会社フジテレビの従業員株主で、総務部長があらかじめ用意したヤラセの質問だったことなどが「一般株主の質問権又は株主権の侵害に当たり、決議の方法が著しく不公正である」と主張して、株主総会決議の取消しを求めたのです(東京地裁2016年12月15日)。

株主の請求は棄却されたものの、裁判所は、

一般に、上場会社の株主総会において、会社が従業員である株主に対し、会社自ら準備した質問をするよう促し、実際にも従業員株主が自らの意思とは無関係に当該質問をして会社がこれに応答した場合には、当該質疑応答に相応の時間を費やすことになり、その分、一般株主の質疑応答に充てられる時間が減少し、質問又は意見を述べることを求めていた一般株主がそれを行うことができなくなるおそれがあるというべきであって、このような事態が生じることは、従業員株主もまた株主であることを考慮しても、多数の一般株主を有する上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難い

と、適切な議事運営とは言いがたいことを認めています。

この裁判例でも、フジ・メディア・ホールディングスは動機について「一般株主による議論の呼び水となることを企図して上記依頼をした」などと主張していました。

サクラ質問をする動機は、今も昔も変わらないということです。

サクラ質問に至ったプロセスには組織的な不正・不祥事が発生する要因が詰まっている

リクルートのサクラ質問の実態

リクルートは、2021年4月以降、少なくとも20件のセミナーでサクラ質問を行っていたことを認めています。

朝日新聞の報道では、実態は次のように記されています。

  • オンライン形式に切り替えた後の2021年4月以降、「サクラ」といった言葉を用いて質問を書き込むことを、社内のコミュニケーションツール上で社員が打ち合わせていた
  • 事前にチーム内で「サクラ役」を決めて質問させたり、登壇者が手元のスマートフォンで質問し、自ら回答する一人二役をしたりしていた。
  • 社内のコミュニケーションツールで、上司が「質問は、まずサクラしこんでね」と指示を出すこともあった。

学生に嘘をつく行為が常態化して組織的に行われていたことと、それを上司が指示し、社内で誰も異論を挟まなかったことがわかります。

サクラ質問は不適切ですが、それ以上に、サクラ質問が学生に嘘をつく行為であり不適切である感覚が社内で麻痺していたこと、社内で制御する機能が働かなかったの方が問題のように思います。

ここに組織的な不正・不祥事が発生する要因が詰まっています。

組織的な不正・不祥事が発生する要因

過去の事例を見ると、組織的な不正・不祥事が発生する会社には共通要素がみられます。

例えば、次のような要因が挙げられます。

  1. 何が不正・不祥事であるかを理解していないので、不正・不祥事をしている自覚がない。
  2. 社内の誰かが不正・不祥事に気がついても、小さな不正・不祥事は見逃す。
  3. 不正・不祥事に対する社内のハードルが低い(感覚が麻痺している、企業風土が緩い)
  4. 不正・不祥事を見つけた部下が上司に相談・報告しても、上司、役員が対応しない。
  5. 役員や上司が不正・不祥事を指示、主導している。
  6. 歴代の上司や役員が関与している不正・不祥事なので、誰も何も言えない。
  7. 不正・不祥事が長年続いているので、今さら声を挙げられない(どうしようもできない諦め)。
  8. 不正・不祥事を制御する監視監督体制が存在しないか、存在していても機能しない

今回のケースでは、6、7以外はすべて満たしているのではないでしょうか。

個々人に着目すると、以前に書いたような原因が考えられます。

サクラ質問すら問題視されなかったのですから、社内でもっと大きな不正・不祥事が潜んでいてもおかしくありません。

まとめ

学生向けオンラインセミナーでのサクラ質問だけにフォーカスすると小さな問題に見えます。

しかし、コンプライアンス、ガバナンスの切り口から見ると、大きな不正・不祥事の萌芽です。この機会にサクラ質問だけではなく、コンプライアンス教育からきちんとやり直すことが必要であると思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。