スシローが迷惑動画で6700万円の損害賠償を請求する訴えを提起。SNSの不適切投稿で被害を受けた会社はどのような責任を追及すべきか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年1月に、スシローの岐阜県にある店舗で、少年が醤油さしの注ぎ口などを舐める動画をSNSに投稿し話題になりました。

この少年に対し、スシローが3月22日付で6700万円の損害賠償を請求する訴えを提起していたことが明らかになりました。

スシローは1月30日に「早急に警察と相談させていただきながら刑事⺠事の両⾯から厳正に対処してまいります」とのリリースを公表していたので、このリリースどおりの行動です。

今日は、SNSへの不適切な投稿によって被害を受けた会社がどのような責任を追及すべきか、危機管理の側面と取締役・取締役会の責任の観点から整理します。

※2023年8月1日追記

スシローと2023年7月31日に和解が成立し、少年に対する訴えを取り下げました。

※2024/02/07追記

少年は器物損壊罪で家庭裁判所に送致され、2023年9月26日に終局しています。

なお、少年事件は成人の刑事事件とは手続きが異なります。家裁送致がどのような意味なのかは、検察庁のサイトで確認してください。

不適切なSNS投稿の例

スシローに限らず、従業員、お客さま(お客さまと言えるかは疑問ですが)、取引先がSNSに不適切な投稿をし、会社が被害を受けるケースが増えています。

広島マツダの従業員による不適切な投稿と謝罪

従業員による不適切な投稿は、2023年4月に広島マツダの従業員が障害者を揶揄する動画を投稿したために、会社が謝罪のリリースを公表したケースがあります。

共同通信社の職員による不適切な投稿と懲戒処分

また、2022年12月に共同通信社の職員が一個人を誹謗中傷する投稿をしたことが就業規則に違反するとして、職員をけん責処分にしたケースがあります。

そば屋「泰尚」のバイト学生による不適切な投稿と損害賠償請求

バイト従業員による不適切な投稿については、2013年8月に東京都多摩市にあったそば屋「泰尚」のバイトの複数の学生が洗浄機に横たわる、顔を突っ込むなどの写真をTwitterに投稿したケースがあります。

そば屋は8月に閉店に追い込まれ、10月には破産したため、学生らに1385万円の損害賠償を請求し、食洗機に入った首謀者の学生は129万円。流し台に足をかけた学生は30万。ツイッターに投稿した学生は21万の合計200万円でそれぞれ和解しました。

この事例は、そば屋が2012年9月に経営難から社長(当時)が亡くなり、店舗数を3店舗から1店舗に縮小していた最中に炎上し、約3300万円の負債を抱えて破産したこともあって、和解金額が合計200万円に留まったに過ぎません。

事業が順調ならより高額な損害賠償が認められた可能性があります。SNSへの不適切な投稿によっても、会社は200万円程度しか従業員から支払ってもらえない、とは誤解しないでください。

日産自動車の取引先による不適切な投稿と刑事罰

取引先による不適切な投稿は、2017年8月5日に取引先の従業員が未公表の自動車の写真2枚をTwitterに投稿したことに対し、9月に日産自動車が不正競争防止法と偽計業務妨害罪で刑事告訴し、2018年9月26日に投稿者が偽計業務妨害罪で50万円の罰金の略式命令を受けたケースがあります。

被害を受けた会社はどのような責任を追及すべきか

SNSへの不適切な投稿があった場合、会社は炎上を鎮火させ、信頼を回復するために危機管理の対応をすることが必要です。

この場合の危機管理の視点は2つあります。

  1. 対外的な信頼を回復するための危機管理
  2. 不適切な投稿をした者に対する責任追及

の2点です。

対外的な信頼を回復するための危機管理

役員、従業員、バイト従業員がSNSに不適切な投稿をした場合、会社は世の中の人たちから管理体制や従業員教育などについて信頼を失います。

信頼を回復するためには、謝罪のうえ、事実関係や原因を調査し、社内処分、再発防止策を公表する必要があります。

スシローのような外食産業の場合には、バイト従業員やお客さまの不適切な投稿により「衛生面、安全性に対する信頼」も失います。

この場合には、「衛生面、安全性」への危機管理対応として何をやったのか、今後の再発を防止するためにどのような対策を講じるのかが、世の中の人たちの関心事です。

そのため、これらの点についての公表も不可欠です。

カラオケまねきねこのケース

カラオケまねきねこ久喜店(株式会社コシダカ)で、2022年11月19日に、お客さま(と言えるかどうか疑問ですが)がソフトクリームを製造機器から直接口で受け止める様子を動画で撮影し、2023年2月2日までの間に複数回SNSに投稿したケースでは、刑事責任の追求のほか、衛生面、安全性にも言及するリリースを公表しています。

なお、当該店舗でのソフトクリームの使用は一旦中止し、点検および洗浄を実施いたします。また、全店を対象に、当該機器の洗浄を行い、衛生管理を徹底するよう通達いたしました。

2023年2月3日「SNS で拡散されている迷惑行為に関するお知らせ」

※2024/02/07追記

2023年6月7日に威力業務妨害罪で書類送検され、11月21日に不起訴処分となりました。

ENEOSのケース

SNSへの投稿によって個人情報が漏えいしたなら、会社は情報管理の対策を公表することになります。

2023年6月5日に、ENEOS系列のガソリンスタンドのアルバイト従業員が、映画監督庵野秀明氏の個人情報載ったレシートの写真をTwitterに投稿したケースでは、個人情報の管理が問題となり炎上しました。

ENEOSはリリースは出しませんでしたが、取材には個人情報管理の観点からコメントしています。

「このようなことが二度と起きないよう、ENEOSのSSを運営する特約店に向けて、個人情報保護法の順守を改めて指導いたします。お客様に安心して当社系列のサービスステーションをご利用いただくように努めてまいります」

  1. 不適切な投稿をした者に対する責任追及
  2. 損害賠償を請求する(民事上の責任追及)
  3. 不適切な投稿をした者を刑事告訴する(刑事上の責任追及)
  4. 不適切な投稿をした者が従業員である場合には懲戒処分により制裁を課する
ねとらぼ ENEOS、庵野秀明監督の個人情報載ったレシートをバイトがSNS投稿で物議 「二度と起きないよう指導する」と謝罪

カラオケまねきねこのケースも、ENEOSのケースも、当該店舗だけではなく、全店舗に対して再発防止を行っていることも危機管理の観点からは見逃せないポイントです。

不適切な投稿をした者に対する責任追及

SNSへの不適切な投稿があった場合、投稿した者の責任を追及することも不可欠です。

役員、従業員、バイトが不適切な投稿をした場合には懲戒処分による制裁を課す

役員、従業員、バイトが不適切な投稿をした場合には、就業規則に定められている「会社の信用を低下させる行為をしてはならない」などの服務規律違反や、SNSの利用に関する社内ルール違反などを理由に懲戒処分することが必要です。

懲戒処分をすることで、会社がSNSへの不適切な投稿を許容していない姿勢を社内外に示すためです。

ただし、懲戒処分をするにあたっては、労働契約法に定められている懲戒処分濫用法理には従って、懲戒処分の必要性・相当性を確認し、弁明の手続なども実施することは忘れないでください。

不適切な投稿をした者に対する損害賠償請求(民事上の責任追及)

不適切な投稿をした者が社内外のいずれであろうと、不適切な投稿によって会社が対応を余儀なくされた場合、売上・利益が低下した場合には、会社は対応費用や逸失利益が発生し、それだけの損害を被ったことになります。

この場合に損害賠償を請求できるのに請求せず損害を放置したままにしておくと、取締役・取締役会は会社に損害を与えることを許容する経営判断をしたことになり、今度は取締役が株主から代表訴訟や株主総会などで経営判断の誤りを責任追及されるおそれがあります。

取締役・取締役会としては、不適切な投稿をした者に対し損害賠償を請求する選択肢しかありません。

スシローが損害賠償として請求している6700万円の内訳については、以下のとおりで、また今後請求額が増える可能性があることも報じられています。

スシロー側は、損害として、岐阜正木店でしょうゆボトルを入れ替えた費用、全国で客が激減したことで失われた利益、衛生管理の信用が損なわれた被害などを盛り込んだ。迷惑行為を防ぐためアクリル板の設置などの対策も進めており、請求額はさらに増える可能性があるとしている。

2023年6月9日読売新聞WEB

不適切な投稿をした者の刑事告訴(刑事上の責任追及)

不適切な投稿をした者に厳しい態度で向き合うかどうかを見て、世の中の人たちは、信頼できる会社かどうかを判断します。

特にSNSへの不適切な投稿によって衛生面、安全面、情報管理の面などで世の中の人たちからの信頼を失った場合には、信頼を取り戻すためにも厳しい態度で刑事告訴することが必要です。

くら寿司のバイトテロは偽計業務妨害罪

SNSへの不適切な投稿は偽計業務妨害罪になることが多いです。

「偽計」の文字だけを見ると、嘘をつくことと思いがちですが、「人の不知を利用する行為」なので、SNSに投稿することで、情報や不適切行為の存在を知らない人に情報や不適切行為の存在を知らせれば、それで偽計業務妨害は成り立ちます。

また、偽計業務妨害罪の場合には、「人の不知を利用する」ので、不適切な行為をした者のほか、動画や写真の投稿者、動画や写真を拡散した者も罪に問われます。

2019年2月にくら寿司のバイト従業員が魚をゴミ箱に捨てた後、まな板に戻して調理しようとする動画をInstagramに投稿したケースでは、ゴミ箱に捨てたバイト従業員、その様子を撮影したバイト従業員、その動画を削除したにもかかわらず、Instagramに再投稿した3名が偽計業務妨害罪で書類送検されました。

吉野家の紅ショウガ直食いは威力業務妨害罪

2022年9月に牛丼の吉野家で紅ショウガを直に食べる動画を投稿したケースでは、不適切な行為をした者と動画を撮影投稿した者の2人が威力業務妨害と器物損壊の罪で逮捕され、その後、不適切な行為をした者は起訴されています。

※2024/02/07追記

2023年6月28日、動画を投稿した者は、威力業務妨害罪により罰金30万円(器物損壊罪は不起訴)とされました。

不適切な行為をした者は第1回公判期日で器物損壊罪と威力業務妨害罪の公訴事実を認めたことまでは報じられ、その後、大麻所持でも追起訴され、2024年2月15日、懲役2年4月、罰金20万円の実刑判決となりました。

くら寿司の醤油さしも威力業務妨害罪

2023年2月にくら寿司で醤油さしを直接口に注ぎ込む動画を投稿したケースでは、不適切な行為をした者、動画を撮影・投稿した者、その場に同席した者3名が威力業務妨害罪で逮捕され、不適切な行為をした者は保護観察処分となっています。

※2024/02/07追記

2023年10月13日、名古屋地裁は、不適切な行為をした者に懲役3年、執行猶予5年とする判決を言い渡しました。

くら寿司に対する威力業務妨害罪のほかに、15歳の少女を東京都内から連れ出し3か月近く売春をさせて生活費などを稼がせながら各地を連れ回したために営利目的誘拐罪としても処罰されたことによるものです。

まとめ

SNSに不適切な投稿をされた場合、会社は被害者です。

危機管理の観点と取締役・取締役会の経営判断の責任の観点から、対外的な信頼を回復するための危機管理、社内での懲戒処分、偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪など刑事上の責任追及、会社の損害を取り戻すための損害賠償請求など民事上の責任追及をすることは必須だと捉える必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。