危機管理広報は、弁護士が積極的に関与しなければならない法律問題である理由

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

危機管理広報に対する企業の意識の高まり

企業危機管理の仕事をしている中で、ここ数年、各社とも危機管理広報についての意識が向上していると感じます。

ほんの数年前までは、不正や不祥事を起こしたとしても「なるべくニュースになりたくないので隠す」という姿勢が頻繁に見られました。

しかし、今では多くの企業が積極的に広報する姿勢に変わっています。
もちろん、中には昔ながらの隠すという企業もありますが、そんな意識の低い企業は問題外です。

そのため、私も、今では企業の広報担当者を集めた研修のほか、広報部門向けの社内研修なども行って、危機管理広報の基本から最新のノウハウまでお話しさせていただく機会も増えています。

私が月刊広報会議で「リスク広報最前線」との連載を8年にわたって連載できている背景もこうしたところにあります。

ダスキン事件判決が与えた危機管理広報への衝撃

それでは、なぜ危機管理広報に対する企業の意識がここまで高まったのでしょうか。

「コンプライアンスが浸透したから?」「企業の社会的責任が求められるようになったから?」と思う方も多いでしょう。
ある程度知識がある方は「証券取引所が『上場会社における不祥事対応のプリンシプル』を出しているからでしょ?」と思っている方もいるかもしれません。

どちらも、半分正解で、半分理解不足です。

ダスキン事件判決とは何か

危機管理広報に対する企業の意識が高まったきっかけは、2006年6月9日にダスキン事件と呼ばれる判決が出たことです。

事案の概要を要約すると、

  1. ダスキンが展開しているミスタードーナツで販売している大肉まんの表面に日本では認可されていない添加物を使用していた。
  2. 2000年11月30日、取引業者からその事実を指摘された後も製造販売を継続。担当取締役は取引業者に口止め料合計6,300万円を支払った。
  3. 社長が事実を知った後、調査委員会による調査を行い事実が確認できた後も、自ら積極的には公表しない方針を決定した。
  4. 匿名の通報をきっかけに保健所による立入検査が行われ、その結果、信頼回復キャンペーン、フランチャイズ店への営業補償料など105億6,100円の損害が発生した。
  5. 取締役に対して株主代表訴訟が提起された。

という事例です。

ちなみに、この判決では、

  • 販売継続と口止め料の支払いを決めた取締役2名には、105億6,100万円の半額(52億8,050万円)+口止め料6,300万円の合計53億4,350万円
  • 代表取締役と前代表取締役2名には約5億円
  • その他の取締役、監査役には約2億円

の損害賠償が言い渡されました。

危機管理広報は法的責任であることを認めた

この判決は、不正・不祥事を起こした後に危機管理広報を行うことが、取締役・取締役会の法的責任(損害賠償義務を伴う責任)であることに言及したことで非常に画期的でした。

「『自ら積極的には公表しない』などというあいまいで、成り行き任せの方 針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは到底『経営判断』というに値しない

『自ら積極的には公表しない』という方針を採用し、消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方策の検討を怠った点において、善管注意義務違反のあることは明らか」

大阪高裁2006年6月9日

取締役は善管注意義務という法律上の義務を負っています。

簡単に言うと、株主から会社を任された者として、株主の利益の最大化(企業価値の最大化)を意識しながら経営判断しなければならないという義務です。

この判決は、不正・不祥事が起きた後に自ら積極的には公表しないという判断をした取締役は、役員としてその義務を尽くしていないから会社に与えた損害について賠償する責任を負う、と言っているわけです。

不正・不祥事が起きた後に積極的に公表することが取締役の法的な責任であることを正面から認めた部分が画期的でした。

この判決を機に、危機管理広報は法的な問題であるということになりました。

危機管理広報は社会的責任でもある

この判決は、危機管理広報をすることには社会的責任もあることにも言及しています。

「混入が判明した時点で、ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄 すると共に、その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があったことも明らかである。これを怠るならば、厳しい社会的な非難を受けると共に消費者の信用を失い、経営上の困難を招来する結果となるおそれが強い。」

大阪高裁2006年6月9日

食品会社という人の口に入る商品を販売している会社なのだから、日本で認められていない添加物を使用していることがわかったら、その事実を消費者に知らせるべきという、至極真っ当な結論です。

危機管理広報が企業の社会的責任(CSR)の要請を充たすものであることを認めたのです。

上場会社における不祥事対応のプリンシプル

ダスキン事件判決から10年近くが経過した2016年2月24日、日本取引所は上場企業に向けて「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」というガイドラインのようなものを公表しました。

この中で、不祥事に関する情報開示について、次のようにルール化しています。

④迅速かつ的確な情報開示
不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。 この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。

日本取引所「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」

このプリンシプルはあくまで上場会社の情報開示、つまり金融商品取引法に基づく投資家・株主向けの開示を要請しているに過ぎません。
この開示をしたとしても、危機管理広報として十分だとは言えません。

しかし、その根っこにある考え方は、ダスキン事件判決と同じと言ってよいでしょう。
不正・不祥事が起きた後の危機管理広報は、取締役の法的責任、社会的責任である、という考えに基づいたプリンシプルです。

このプリンシプルが公表されたことで、上場会社では危機管理広報をすることが当たり前になりました。また、上場会社のグループ会社でも当たり前になりました。

上場会社やそのグループ会社で危機管理広報が当たり前になれば、世の中の人たちは、不正・不祥事が起きた後には危機管理広報を行うのが当たり前という風潮になってきます。

その結果、上場会社やそのグループ会社でない会社も、不正・不祥事を起こした後には危機管理広報をすることが世の中の人たちから求められるようになってきたのです。
これが現状です。

危機管理広報は法律問題である

ダスキン事件判決の存在やその内容を知らないと、取締役や広報担当者は、危機管理広報をすることが法的責任を伴うものという認識がないまま、「世の中では不正・不祥事が起きた後には公表する流れができているから、うちの会社もそうしなければいけないな」と漠然と公表することになってしまいがちです。

その結果、とりあえず不正・不祥事が起きたからリリースを発表する、何を書けば良いからとりあえず他社事例を真似したリリースを書き内容を吟味していない、それほど重大な不祥事でもないのに大げさに記者会意見まで開いたなどに至っているケースが非常に多く存在します。

中には、記者会見で余計な一言を言ったり、リリースを読んでも意味がわからないので、むしろ炎上してしまうなんてこともあります。

改めて強調しておきたいのは、危機管理広報は法的責任を伴うものであるということです。

広報をするかしないかの判断や、その内容や表現をどうするか、どんな方法で広報するかなどの選択を失敗すると、ダスキン事件判決のように取締役の損害賠償責任に直結します。

リリースや謝罪文に使った不用意な一文や一言、記者会見での一言が証拠となって裁判所で法的責任を認められてしまうこともあります。

何が法的責任に直結する用語なのか、リリースや謝罪文、記者会見での一言が裁判所に証拠として提出されたときに裁判官にどのように評価されるのかは、弁護士でなければ判断できません。

危機管理広報では、広報コンサルタントだけに相談するのではなく、ぜひとも、弁護士の判断を仰いでください。

とはいえ、弁護士の多くは訴訟中心の業務や法律に関する業務しか行っていません。

そのため、危機管理広報を含めた危機管理の判断を求めても、法律上の責任の有無だけの助言に留まり、ピント外れの対応になってしまうこともあります。

危機管理広報を知らない弁護士が関与したために、法律の観点だけからのリリースや記者会見になってしまって、当事者や世の中の人たちが求めている内容とズレていて、かえって炎上してしまったというケースもあります。

危機管理の世界では、世の中の人たちが求めている内容が時ともに変わってきます。

広報すべき内容のトレンドもどんどん変わります。1年前の他社事例を参考にして対応すると、「未だにそんな対応しかできないの?」と信頼を失うことさえあります。

いろんな企業の不正・不祥事後の対応やトレンドの変化を知っていないと、時代遅れの危機管理広報になってしまうのです。
特にSNSが普及してからは、トレンドの変化の流れが速い印象を受けます。

できれば、私のように危機管理をよく扱う弁護士に相談してください(※営業です)。
ちなみに、危機発生時には、今まで私と取引のない企業であってもご連絡いただけたら可能な限り対応いたします。

私のところにも「うちの会社にも顧問弁護士はいるけれど、危機管理や広報を扱ったことがないので、この件の対応についてお願いしたい」という企業から、スポット(単発)での依頼はよくあります。

一番多いのは、「今日の午後か明日に謝罪のリリースを出すことになったのだけれど、その文面を添削だけしてもらってもいいですか」という相談です(もちろん、事案を知らないと添削がしようがないので、リリース案を渡されるだけで終わりではなく、事案の全容や時系列については教えてもらいます)。

中には、「この件で記者会見をやった方が良いですか、リリースだけで良いですか」というだけの相談もあります。

最後は、私の宣伝色が強くなりましたが、危機管理広報は法的責任を伴うものなので弁護士に相談した方がよいということをご理解いただけたらと思います。

amazonでは拙著「危機管理広報の基本と実践」は中古本しか手に入らないようです。お手数ですが、中央経済社にお問い合わせ頂きたくお願いいたします。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。