コンサル業界で相次ぐ「AIリストラ」。職種・業種を問わずに「AIリストラ」は不可避だけれども、組織の持続性、企業文化の承継、チャレンジ精神の活性化という視点を忘れずに。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

最近、アメリカの大手コンサルティングファームやテック企業を中心に、AI活用を理由とした人員削減、いわゆる「AIリストラ」のニュースを耳にする機会が増えました。

そこで、今回は、AIリストラの懸念点について取り上げます。

相次ぐ「AIリストラ」

アメリカのアクセンチュアは2025年9月25日、6500万ドル(約1300億円)規模のリストラ計画を発表しました。

12月16日には、アメリカのマッキンゼーが数千人規模の人員削減に踏み切るとの報道もありました。

コンサル業界だけでなく、アメリカのマイクロソフトは5月と7月に計1万5000人の削減を発表しましたし、アマゾン・ドット・コムは事務職やエンジニアを中心に1万4000人の削減を発表しています。

今後、コンサル業界やテック業界に限らず、職種・業種を問わず、他の頭脳労働についてもAIリストラは拡大していくように思います。

AIリストラが行われる背景と危険性

「AIが資料作成やリサーチをしてくれるなら、若手社員や中堅社員はこんなにいらないのではないか?」

AIを活用すれば人件費を中心にコストカットできると考えて、リストラを実施する経営層がいるのも無理もないことです。

私も判例の検索や資料の作成等ではAIを活用していて、簡単な下調べのためだけなら人を雇う必要性が乏しいとも感じています。

「肉体労働」はAIに代替することは無理ですが、「頭脳労働」では代替できない聖域はもはや存在しないのではないでしょうか。

しかし、「AIを活用すればコストを下げられる」とだけ考えてAIリストラを安易に実施することは、長い目で見れば、むしろ企業の寿命を縮めることになりかねません。

「育つ機会」を奪われた組織の未来

AIリストラを実施することで最も懸念されるのが、次世代の人材が育成されず企業の持続性を欠く、ということです。

ビジネスパーソンの多くは、若い頃に議事録の作成や基礎的なリサーチ、単純なデータ分析といった下積みを通じて、ビジネスの文脈や業界の商慣習、そして「勘所」を養ってきたはずです。

例えば、営業担当の場合には、取引先との交渉や、時には取引先の機嫌を損ねたりしながら、距離感などの「勘所」を養ったはずです。人事部門なども同じでしょう。

もし、これらの業務を全てAIに置き換え、その業務を担当している層(シニア・中堅・若手層)を排除してしまった状況が、どうなるかを想像してみてください。

今のシニア・中堅層がいなくなった後、AIの成果物の正誤や妥当性を評価・修正できる人材は社内にいるでしょうか。

AIが導き出した答えは理論的には正しいかもしれませんが(もっともらしい嘘をつくハルシネーションもありますが)、理論的に正しいからといって取引先や関係者の心に響くとは限りません。

相手の個性に合わせてアプローチの方法を変えるなどの知恵は、若手社員は、誰から、どうやって教えてもらうのでしょうか。

中堅・若手層をリストラによって減らすことは、将来の経営幹部候補を育成する土壌を自ら破壊するに等しいのです。

また、AIで代替できるからといって若手社員の採用を絞ることも、次世代の人材不足を招きます。

私は氷河期世代ど真ん中なのですが、我々氷河期世代ど真ん中の新卒採用を抑えた企業が、30年後の今になって、中堅世代が不足していると問題視し始めたのと同じ未来が見えます。

一時的に人件費は下がるかもしれませんが、事業の持続性(サステナビリティ)という観点では、致命的な空洞化を招くリスクがあります。

企業文化の承継の断絶

もう1つの懸念が、「企業文化の承継」が途絶えるのではないかという点です。

会社は単なる機能(仕事をするだけ)の集合体ではなく、理念や価値観を共有する人間のコミュニティでもあります。

「企業文化」は、その組織にいる人間が作り出すものですから、効率化の名の下に人材を削ってしまえば、それまでの「企業文化」は途絶え、新たな「企業文化」が醸成されるまでには何倍ものコストと時間がかかります。

チャレンジ精神の喪失=超保守的事業活動

また、「AIの方が効率的だから」という理由だけでリストラが積極的に実施されると、残された人たちは、リストラされないように失敗を恐れ、挑戦しなくなり、言動が超保守的になるはずです。

結果、新しいアイデアやイノベーションが生まれなくなり、事業でのチャレンジもなくなり、会社としての停滞を招く・・。

日本企業は今でも保守的な言動が多いのに、さらに保守的になるなんて、退屈になりそうですね。

「氷河期世代で採用を絞られた結果、みんな保守的になり、現在の日本経済の停滞を招いた」のと同じか、それ以上に最悪な事態になかねません。

AIリストラを検討する場合の「経営判断」とは何か

だからといって、AIリストラを一切するなと言うつもりはありません。

上記の懸念点をよく考慮して、リストラを計画してほしいのです。

もし、ある役員が「今期の数字を良くしたい」というだけの理由でAIリストラを断行し、その結果、5年後に人材不足や技術継承の断絶で会社が傾いたとしたらどうでしょうか。

会社のために最善の注意を払った経営判断と言えるでしょうか。

AIが当たり前になっている状況で必要な経営判断は、「AIをどう使えば人を減らせるか」ではなく、「AIと人をどう組み合わせれば、これまでにない価値を生み出せるか」を考えることです。

AIには、圧倒的な処理能力とデータ分析を任せる。他方で、人間は、そこから生まれた時間で、AIにはできないクライアントとの信頼関係構築、創造的な課題解決、そしてAIにはできない意思決定を行う。

そうやって従業員の付加価値を高める方向へ舵を切ることこそが、事業を持続させ、企業価値を長期的に高めることになるように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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