キリンHDや三井住友FG・SMBCが、生成AIを経営判断に活用する「AI役員」「AI-CEO」を導入。中小企業向けの「AI社長」サービスも登場。取締役会・経営会議における意思決定に生成AIを利用する際に注意すべきポイント。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

Open AI が2022年11月にChat GPT をリリースしてから約2年半が経過しました。

東京商工リサーチが2025年8月18日に公表したアンケート結果によると、現在、「会社として活用を推進している」資本金1億円以上の大企業は25.2%(597社中、151社)、中小企業が12.7%(6,048社中、768社)に達しています。

DeNAの南場会長に代表されるように、生成AIを日頃から活用している経営者も少なくありません。

生成AIを企業活動に使うのは当たり前になりつつあります。

キリンHD、三井住友FGが「AI役員」「AI-CEO」を導入

「AI役員」「AI-CEO」とは

そんな中、キリンHDは2025年8月4日、「AI役員 CoreMate」を7月以降のキリングループ経営戦略会議にて本格的に導入していることを発表しました。

三井住友FGと三井住友銀行(SMBC)も2025年8月5日、「AI-CEO」を開発し、SMBCでの展開を開始していることを発表しました。

キリンHDの「AI役員」は

過去10年分のキリンホールディングス株式会社の取締役会及びグループ経営戦略会議の議事録データやその他社内資料に加え、外部の最新情報を読み込ませ、当社独自の12名の人格を構築しました。「CoreMate」は、複数名のAI人格同士が経営戦略会議の中で議論するべき論点や意見を交換させることで抽出された数個の論点や意見を、実際の経営戦略会議で経営層に提示(する)

ものだそうです。

三井住友FG・SMBCの「AI-CEO」は

「AI-CEO」には中島社長の過去の発言やその背景にある考え方、周囲からの印象等のデータを学習させてあり、中島社長らしい回答を生成する。

ものだそうです。

キリンHDの「AI役員」と三井住友FGの「AI-CEO」との違い

両社とも生成AIを活用しますが、大きく異なる点は、キリンHDの「AI役員」では12名の人格を構築したのに対して、三井住友FG・SMBCの「AI-CEO」は社長一個人を想定した回答を生成することです。

どちらが優れているかの評価は利用目的によって異なります。

キリンHDの「AI役員」は多角的な意見

キリンHDの「AI役員」は12名の人格を構築しているので、何らかの経営判断・意思決定をする際に、生成AIから多角的な意見を揃えることができます。

それらの意見を参考(たたき台)にして、最終的な会社の経営判断・意思決定は人間である役員が行います。

その意味で、経営会議や意思決定をする際に、最善手を見逃すリスクや、何らかの課題を見落とすリスクを避けるには有益かもしれません。

AI将棋っぽい感じをイメージしたらいいのでしょうか。

また、声の大きな役員がいるときに他の役員がその意見を引きずられてしまうことをも防ぎ、冷静に意思決定ができそうな気がします。

三井住友FG・SMBCの「AI-CEO」は社長決裁のシミュレーション

他方、三井住友FG・SMBCの「AI-CEO」は社長一個人を想定した回答を生成するものですから、そうした多角的な意見を出すには向いていません

三井住友FG・SMBCのリリースにも「「グループ CEO である中島 達を模した”AI-CEO”との気軽な相談」という体験」とありますし、「社員が法人向けの提案や企画書などを事前に壁打ちできるようにする」と、「壁打ち」と表現している報道もありました。

どちらかというと、行内で稟議が必要な事案がある場合に、「社長だったらどう回答するだろうか」「社長だったら何を指摘するだろうか」など、「社長だったら・・・」を想定して事前にシミュレーションをするのに向いている気がします。

とはいえ、社長が変わった場合には、それまでの経営方針がガラッと変わることもあるでしょう。

そうなると、今まで生成された回答が役に立たなくなる可能性があるわけです。

その際には、また一から学習し直さなければならなかったりするのでしょうか。

なお、三井住友FG・SMBCのリリースは、今後、「AI上司」を開発していくことも記載されていますので、あくまでも行内での稟議をスムーズに進めることを想定して開発しているのかもしれません。

それぞれの適した使い方

取締役会・経営会議における意思決定・経営判断をするには、多角的な意見が生成されるキリンHDの「AI役員」のほうが適している印象をうけます。

社内手続きの効率化を図るには、社長の回答が生成される三井住友FG・SMBCの「AI-CEO」のほうが適している気もします。

中小企業の場合

中小企業の場合、キリンHDや三井住友FG・SMBCのような大企業とは異なり、社長の個性や企業の価値観が重視されがちです。

「売上は上がるかもしれないけれど、わが社のポリシーとして、その仕事はやらない」

「利益は下がるかもしれないけれど、世の中への貢献のために、あえてこの仕事を受ける」

などは、中小企業ではよくある話しだと思います。

私もそうです。やりたくない仕事は断りますし、利益度外視で仕事をする場合もあります。

そうなると、中小企業が生成AIを経営判断・意思決定に導入するときには、一般論が生成されることは望んでいなくて、その会社なりの個性や価値観・企業理念などに応じたカスタマイズされた回答が生成されるようにしたいはずです。

もちろん、現在は上場企業も企業理念、行動指針、人権指針などを定めているので、本来なら、上場企業も生成AIによって一般論が生成されるのではなく、その企業理念や行動指針などに応じたカスタマイズされた回答が生成されるべきでしょう。

会社独自の生成AIを導入する場合も、一般的な生成AIを利用する場合も、生成AIの回答だからといってそのまま受け入れるのではなく、わが社に適した回答であるかを吟味した上で、その回答を参考にする、あるいはカスタマイズする、あえて無視するなどと選択するようにして欲しいです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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