栄研化学がダルトン・インベストメントとの対話の状況を開示。主要株主との対話の状況を開示することで、その余の株主からの信頼を勝ち取るための広報戦略。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

栄研化学は2025年3月11日、発行済株式の 25.77%を保有するニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)の共同保有者であるダルトン・インベストメンツ(ダルトン)から、2025 年6 月開催予定の定時株主総会に向けて新たな取締役の候補者として 3 名を推薦したいとの書面を受け取り、その後の対話状況を3月24日に開示しました。

4月28日には、対話状況の第2報を開示していています。

株主提案後の「取締役会の意見」ではなく、その前の「対話状況」の開示

株主提案後の開示・公表後と、株主提案前の開示・公表

従来は、株主総会に向けて株主提案があった後、会社が「取締役会の意見」として反対意見を開示・公表することが一般的でした。

株主提案があるまで「取締役会の意見」を公表することは、ほとんどなかった気がします。

直近では、日本航空からの2025年4月25日付け株主提案に対して、エージーピーが「取締役会の意見」に先立ち、4月28日に「株主提案に関する当社の認識と対応方針のお知らせ」を開示・公表しています。

他方、栄研化学が行ったのは株主提案前の「株主との対話状況」の開示・公表です。

このように、株主総会の株主提案前の段階で、株主との対話の状況を開示・公表することは栄研化学だけでなく、最近の上場企業のトレンドといってもいいでしょう。

他社事例〜セブン&アイ・ホールディングス、京成電鉄、牧野フライス製作所

最近では、セブン&アイ・ホールディングスがアリマンタシォン・クシュタールとの協議の状況を頻繁に開示・公表しています(例えば、2025年3月10日付け公開レター5月1日付けニュース)。

京成電鉄は、株主であるパリサー・キャピタルが、2025年4月24日、「KERの次の100年間にわたる発展 緊急の対応が必要なとき:京成電鉄のD2プランと取締役会再構成」と題したウエブサイトにて、新たなニュースリリースとプレゼンテーション資料を公開していることを確認した後、4月30日に「Palliser との対話の経緯に関するお知らせ」を開示・公表しています。

ニデックによるTOBの動きに対して牧野フライス製作所が一連の経過を開示・公表しているのも同趣旨と言えましょう。

牧野フライスは、専用ページを設けて、2024年12月27日以降の関連情報を一覧化できるように整理している点が丁寧な広報・情報発信と見ることができます(以下スクショ)。

よくあるのはリリースや開示のページやタブで五月雨に公表することです。

しかし、

発信する情報が多数に及ぶときには、情報を見る側(株主・投資家)は五月雨に公表された情報の中から必要な情報を探し出すのが思いのほか苦労します。

専用ページに情報を一覧化したことは、情報を見ようとする者に寄り添った姿勢があると言っても良いでしょう。

株主との「対話の状況」を開示・公表する狙い

栄研化学が公表した内容を見ると、株主との「対話の状況」を、時系列の経緯、自社の判断理由、対話としてに株主に伝えた内容とそれに対する株主の反応などが丁寧に説明されています。

開示する義務があるから仕方なく開示するという消極的な姿勢は感じられません。

その理由として、開示・公表することによって、その他の株主からの支持を取り付けようという狙いがあることが推察できます。

株主との対話が平行線になれば、株主との対立は株主総会に持ち込まれます。

株主総会では会社側提案の取締役候補者と株主提案の取締役候補者とのどちらかを株主に選んでもらう必要があります。

言わば、株主を有権者とする選挙です。

なので、株主との対話を開示・公表していのは、来たる選挙に向けた選挙運動として行われているのです。

そうだとすると、開示・公表する際には、取締役会側を株主に支持してもらうことを獲得目標にする必要があります。

そのためには、株主との対話の状況を開示・公表する際には、

  • 取締役会側が信頼できる経営者であること
  • 株主からの提案に対して真摯に向き合ったこと
  • 多角的に熟慮したこと
  • 会社の将来のことを考えて長期的目線で考えていること
  • 自己保身やぬるま湯的な空気の維持のために反対しているのではないこと

などを、株主・投資家に伝えるような文面にする必要があります。

栄研化学のリリースを見ると、そうした観点から丁寧に説明されている印象を受けました。

強いて言えば、テキストだけで書かれているので、見出しを付けたり、ビジュアルを駆使したら、もっと良くなるように思います。

以前にも取り上げた花王の公表資料は参考になります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

error: 右クリックは利用できません