2023年10月1日以降法律上禁止されるステルスマーケティング(ステマ)と判断される投稿の判断基準。インフルエンサーを利用した投稿でも処分されるのは広告主なので要注意。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

ステルスマーケティング(ステマ)に対する規制の導入

SNS全盛期の昨今、芸能人だけではなく、インフルエンサーと呼ばれる影響力のあるアカウントに商品やサービスを取り上げてもらうマーケティング手法(インフルエンサーマーケティングといいます)が一般的になっています。

インフルエンサーを利用したマーケティングは、そのフォロワーに商品やサービスを購入してもらいやすい、広告費が安くて済む、ターゲットに情報を届けやすいなどの企業側のメリットがあります。

しかし、その一方で、マーケティングの内容や方法によっては、フォロワーを結果的に騙すことになるものもあります。

実際には広告なのに、広告であることがわからないように商品やサービスをオススメする。その投稿を見たフォロワーが「このインフルエンサーがオススメしているなら買ってみよう」と商品を購入する。

いわゆるステルスマーケティング(ステマ)と呼ばれる手法です。

そこで、消費者庁は、2023年3月28日、ステルスマーケティングを規制する運用基準を発表しました。10月1日以降に適用されます。

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定について

消費者庁は、景品表示法第5条第3号の規定に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(以下、「指定告示」という。)について、別紙1のとおり指定を行い、別紙2のとおり指定告示の運用基準(以下、「運用基準」という。)を策定しました。

消費者庁ウェブサイト

今回は、この運用基準をもとに、インフルエンサーマーケティングとしてやっていいこと、ステルスマーケティングと判断されてしまうダメなものを説明していきます。

ステルスマーケティング(ステマ)に対する今までの規制

ステルスマーケティング(ステマ)は景品表示法の規制対象

ステルスマーケティングは法律上規制されていないという誤解もSNSではよく見られます。

しかし、これまでも、ステルスマーケティング(ステマ)は景品表示法によって規制されていました

景品表示法というのは、景品に関するルールと表示に関するルールを定めた法律です。

表示に関するルールは、実際よりも著しく優れているかのように誤解させる表示(優良誤認表示といいます)や、消費者に取引条件がお得だなと誤解させる表示(有利誤認表示といいます)などを規制しています。

インフルエンサーマーケティングの方法と内容によっては、優良誤認表示または有利誤認表示になるというのが、これまでの扱いでした。

ステルスマーケティングに対する過去の処分事例

消費者庁は、2021年11月9日には、Instagramを利用したステルスマーケティングが優良誤認表示に該当することを理由に、広告主であるアクガレージとアシストに景品表示法に基づく措置命令という行政処分を出しています。

消費者庁は、本日、株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対し、同社が供給する「ジュエルアップ」と称する食品及び「モテアンジュ」と称する食品に係る表示について、それぞれ、景品表示法に違反する行為(同法第5条第1号(優良誤認)に該当)が認められたことから、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました。

株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について

また、2023年3月30日には、アクガレージに対し、1944万円の課徴金納付を命じました。

どのような事例だったかというと、次のような内容でした。

  1. アクガレージとアシストが、「ジュエルアップ」と称する食品及び「モテアンジュ」と称する食品をInstagramのインフルエンサーに提供していた。
  2. インフルエンサーはInstagramにたくさんのハッシュタグをつけて、商品の写真と一緒に、バストアップに効果があるように宣伝していた。
  3. インフルエンサーはアフィリエイトサイトでも同じように宣伝していた。

「♥ バストアップサプリメントです✨ 最近は有効成分のプエラリアの副作用なんかが騒がれたりしてますが、こちらはプエラリア不使用なので安心して飲めます☺ 無添加なのも嬉しいですね😆♡ 1日2錠。寝る前に飲むのがオススメらしいです!嫌なにおいもないしとても飲みやすい👍 貧乳が悩みなので2カップアップが 目標!目に見える効果が出たらいいなぁ😍」「#ジュエルアップ」「#jewelup」「#バストアップ」「#バストケア」「#ボディケア」 「#育乳」「#美乳」「#美容」「#女子力アップ」「#マシュマロボ ディ」「#美ボディ」「#サプリメント」「#バストアップサプリ」「#バストサプリ」「#バストアップ効果」「#バストアップしたい」「#魅力アッ」「#胸大きく」「#bustup」「#bustcare」「#bodycare」

実際のInstagramの表現とハッシュタグ

ステルスマーケティングが景表法違反として処分されたのは広告主

ステルスマーケティングをしたときに処分されるのは、インフルエンサーではなく広告主です。

この事例でも、Instagramに投稿したのはインフルエンサーなのに、広告主として商品を提供しているアクガレージとアシストの2社に措置命令が出されました。課徴金はアクガレージだけでした。

インフルエンサーマーケティングをする企業は、インフルエンサーに何をしてはダメなのかをキチンと理解してもらう必要があります。

そうしないと、インフルエンサーがした投稿によって、広告主である自らが消費者庁から行政処分を受けてしまうからです。

ステルスマーケティングに対するこれからの規制

消費者庁が運用基準を発表しても、ステルスマーケティングはこれからも景品表示法の規制の対象です。

インフルエンサーがした投稿によって行政処分を受けるのは、広告主になった企業であることも変わりありません。

今回、消費者庁が発表した運用基準は、どこからがステルスマーケティングと判断されるのか、どこからが行政処分の対象になるのかの判断基準を示したものです。

法律の細かいことを言えば、今までのステルスマーケティングは優良誤認表示または有利誤認表示として規制されていました。

今後は、ステルスマーケティングは、景品表示法の「その他の不当表示」として規制の対象になります。おとり広告などと同じ分類になるということです。

法律の条文上の根拠が変わるというだけで、行政処分される可能性があることに代わりはありません。

ステルスマーケティング運用基準の内容

ステルスマーケティング(ステマ)の定義

ここまでは、大まかに、インフルエンサーマーケティングのうち消費者を騙すものをステルスマーケティングと呼んできました。

運用基準では、ステルスマーケティング(ステマ)という言葉を使わずに、以下のように定義しています。

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(以下、「事業者の表示」という。)であるにもかかわらず、事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準

ポイントは、運用基準の言葉を使うと、以下の2点です。

  1. 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であること
  2. 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示であること

要するに、企業が主体となって商品やサービスの広告宣伝をしているのに(1の部分)、企業が主体であることに消費者が気がつきにくい広告宣伝(2の部分)を、ステルスマーケティングとして規制する、ということです。

SNSに限られませんし、インフルエンサーが投稿した場合にも限定していません。

企業のマーケティング担当者は、どんな広告宣伝だと、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」に該当するのか、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示」に該当するのかを、理解しておく必要があります。

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは?

「自己の」と書いてあるので、「インフルエンサーがSNSに投稿した宣伝なら、主体が広告主ではないから規制から外れるの?」という疑問が出てくると思います。

しかし、運用基準が規制の対象としているのは、まさにそのようなインフルエンサーなど広告主である企業以外の第三者が投稿するものです。

「外形上第三者の表示のように見えるもの」

「外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」

運用基準は、このように、パッと見では、広告主である企業以外の第三者による投稿に見えることは前提で、そのうち、広告主である企業が投稿の内容の決定に関与していると認められる、第三者が自主的に投稿の内容を決めていない場合を、規制の対象としています。

NGな投稿例

例えば、運用基準にあてはめると、次のような投稿はNGです。

  • 従業員や子会社の販促の担当者が第三者のフリをして自社の商品やサービスの認知度を上げようとする投稿や、ライバルを誹謗中傷して自社商品やサービスの良さをアピールしている投稿
  • ネットショップがレビュワーを募集したり商品購入者に依頼して、ネットに口コミを投稿してもらう(他社を誹謗中傷する場合も同じ)
  • 広告主がインフルエンサーなど第三者に商品やサービスを無償で提供して、第三者が広告主が定めた方針や意向に沿った投稿をする
  • 広告主がインフルエンサーなど第三者に商品やサービスを提供して、今後の取引の可能性などを期待させた結果、第三者が投稿をする

最後の2つは、特にインフルエンサーマーケティングでは行われがちです。

しかし、運用基準では、ステルスマーケティング(ステマ)として景品表示法違反です。今後は注意が必要です。

許される投稿例

広告主がインフルエンサーに商品やサービスを無償提供しても、本当に自分の感想だけで投稿している場合や、ネットショップの購入者や試供品を手に入れた消費者が自由な意思で感想を投稿している場合は、ステルスマーケティング(ステマ)には該当しません。

運用基準をよく読んで、許されるもの、許されないものを判別することが必要です。

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示」とは?

インフルエンサーがSNSに投稿するときのハッシュタグに「#PRと付けておけば広告と消費者が気がつくから許されるの?」という疑問も出てくると思います。

運用基準では

「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないもの」

は、ステルスマーケティング(ステマ)規制の対象としています。

インフルエンサーなど第三者がした投稿のうち、実際には広告主がいるときには、広告主からの依頼に基づいている投稿であることをわかりやすくしなけれならないということです。

たとえ、ハッシュタグ「#PR」を付けていても、広告主からの依頼での投稿であることが「明瞭」でなければ、景品表示法違反になるということです。

NGな投稿例

運用基準にあてはめると、以下のようなものは、広告主の表示であることが明瞭ではないので、NGな投稿です。

  • アフィリエイトなどで事業主の表示であることが記載されていないもの
  • ブログなどの文章の冒頭に「広告」と記載しているのに、文中では「これは第三者として感想を記載しています」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい場合。その逆に、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています」と記載しているのに、文中に「広告」と記載している場合も同じです。
  • YouTubeなどの動画において、広告案件であることを一般消費者が認識できないほど短い時間だけ表示する場合。動画が長時間の場合に、冒頭以外(動画の中間、末尾)にだけ表示をする場合も同じです。
  • 雑誌の記事広告のようなときに、広告であることを一般消費者が視認しにくい表示の末尾の位置に表示する場合
  • SNSの投稿で、大量のハッシュタグを付けた投稿の記載の中に広告である 表示を埋もれさせる場合

現在行われているインフルエンサーマーケティングでよく見られる手法のいくつかがNGとされています。

YouTuberの案件動画での案件であることを表示する時間の長さやタイミング、Instagramなどでのハッシュタグ「#PR」の使い方が規制されていることに注意して欲しいです。

最近では、tiktokやYouTubeのショート動画でも広告案件がありますが、短時間の中で広告であることをどう表示するかは難しい問題です。

許される投稿例

「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」であることを文字で一般消費者が気がつけるようにわかりやすく表示している場合、動画CMのように広告と内容が切り離されて一般消費者が広告と認識できるように表示されている場合、自社サイトで表示する場合(自社サイトであることが消費者にわかりやすいことは前提)は、ステルスマーケティング(ステマ)規制には該当しません。

広告主からインフルエンサーへの頼み方

運用基準の内容を見ると、広告主である企業からインフルエンサーへのマーケティングの依頼方法は慎重にしなければならないことがわかっていただけたかと思います。

インフルエンサーが社会人としての経験がない場合には、こうした運用基準が定められたことも知らないことが予想されます。

今回定められた運用基準が施行されるのは2023年10月1日からです。

しかし、10月1日を待たずとも「Instagramに投稿する場合やYouTubeやtiktokに投稿する場合に広告案件であることを明確に表示するように」と、インフルエンサーに依頼することは必須になった思って出稿するようにしてください。

企業はインフルエンサーに依頼するときに渡せるように、許させる表示、許されない表示を可視化したリストやチェックポイントを準備しておくことをオススメします。

 

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。