従業員が社外で起こした非違行為の疑いで懲戒解雇はできるのか。プライベートなSNSアカウントでの炎上の場合はどうか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

プロ野球選手が強制わいせつ致傷の疑いで報道されています。本人は否認していますが、ネットでは契約を解除すべきではないかという声も見られます。

プロ野球選手の場合は個人事業主として球団と契約しているので、単に業務委託契約を解除するかどうかという話しになります。

では、会社で働く従業員の場合だったらどうなるでしょうか。社外で非違行為を起こした疑いが上がった場合に、その従業員を懲戒解雇その他懲戒処分にできるのか、という問題になります。

最近では、プライベートなSNSアカウントからの投稿が不適切であることを理由に炎上している事例も見られますので、一度整理しておく必要があります。

SNSへの投稿が炎上したことで懲戒処分された最近の事例

まずは、プライベートなSNSアカウントで不適切な投稿をしたことで会社が懲戒処分をしているか、最近の事例を見てみましょう。

共同通信社の職員をけん責処分にした事例

共同通信社が、2022年12月に職員が不適切な投稿をしたことを理由に、けん責処分にしたことが報じられています。

「職員がSNSのツイッターに開設した個人アカウントから、外部の1個人を根拠もなく誹謗中傷する内容を投稿したとして、社は職員就業規則第73条に基づき懲戒委員会を設置。懲戒委は重大な問題行為だと結論付け、答申を受けた水谷亨社長はこの職員をけん責とする懲戒処分を決定しました。」

2023年2月23日デイリー新潮

なお、共同通信社では、他にも事例が続いたため、2023年5月1日から社内のSNS利用指針を改訂しました。

和歌山県立医科大学の教授を停職処分にした事例

同じく2022年12月には、和歌山県立医科大学でも、教授が学生の行動を監視していると思わせる文面をSNSに投稿したことを理由に、停職3か月の懲戒処分にしたことも報じられています。

SNS上で女子学生になりすまし、特定の女子学生に対して監視していると思わせるような内容の文面を送信していたなどとして、同大薬学部の40代男性教授を停職3カ月の懲戒処分とし、管理監督責任者として薬学部長を訓告とした

2022年12月29日朝日新聞デジタル

四国放送の従業員を懲戒解雇した事例

懲戒解雇になった事例もあります。

2022年1月に、四国放送で政党を批判する内容をプライベートのアカウントに投稿したところ、公式Twitterのアカウントに間違えて投稿してしまった運用担当者が懲戒解雇にされています。

当社公式アカウントへの投稿権限を付与されていた複数の社員のうち、当社ラジオ局所属の50代社員が、同人が個人的に作成・管理していたツイッターアカウントに、同人所有の個人用スマートフォンから投稿しようとしたところ、操作を誤って当社公式アカウントに投稿してしまったことにより生じたことが明らかになりました。
(中略)
令和4年1月4日付で当該社員を当社就業規則に基づき、懲戒解雇処分といたしました。またこれに併せて管理監督責任を問うこととし、同4日付で代表取締役社長及びラジオ局担当役員を減俸処分、上司2名を減給処分としました。

2022年1月21日ITメディア

社外で非違行為を起こした場合の懲戒処分に関する過去の裁判例

懲戒処分濫用法理というルール

多くの会社では、就業規則の服務規律で「会社の信用を低下させる行為」を禁じ、「会社の名誉、信用を毀損する行為」「刑罰法規に違反する行為」をしたことを懲戒事由にしています。

そうすると、その会社の従業員であることを明らかにしてSNSアカウントで炎上した場合や社外で強制わいせつなどの刑罰法規に違反した場合には、懲戒処分にできるように思えます。

しかし、そう簡単には行きません。

懲戒処分について労働契約法は懲戒処分濫用法理というルールを定めています。裁判所は、「懲戒事由への該当性」と「懲戒処分の相当性(懲戒事由と懲戒処分の種類・内容がバランスがとれているか)」の2点を厳しく判断します。

懲戒事由に「該当しそう」というだけでは懲戒事由に該当することにはなりません。「ちょっとしたこと」で懲戒解雇にするということは相当性を欠くと判断されます。いずれも懲戒処分自体が無効と判断されてしまいます。

過去の裁判例

過去には、懲戒処分の無効を争って裁判になったものもあります。

いくつか例を挙げると、

  • タイヤ製造販売の会社の従業員(非管理職)が酔っぱらって住居侵入罪で2500円の罰金を受けたケースでは、懲戒解雇を無効と判断しました(最高裁1970年7月28日、横浜ゴム事件)。
  • これに対して、電力会社の従業員が、就業時間外に社宅で会社を中傷するビラを撒いたケースでは、企業秩序を乱すおそれがあるとして、けん責処分が有効と判断されました(最高裁1983年9月8日、関西電力事件)。
  • また、鉄道会社の従業員が、別の電車内で痴漢して逮捕され罰金を受けたケースでは、懲戒解雇が有効と判断されました(東京高裁2003年12月11日、小田急電鉄事件)。

このようなものがあります。

過去の裁判例を見ると、行った非違行為と処分の重さのバランスに関わる「相当性」が厳しく判断されているように思います。

社外で非違行為を起こした疑いがある場合やプライベートなSNSアカウントで炎上した場合、懲戒解雇はできるか?

以上を踏まえて考えると、社外で非違行為を起こした疑いがある場合、「疑い」に留まる限りは、会社の信用を低下させたかどうかが明確になっていません。

加害者が否認して争っている場合には、起訴されて有罪になったとか民事で損害賠償が認められたなどまで至ってから「懲戒事由に該当する」と判断されると考えた方がよいでしょう。

とはいえ、加害者が否認すれば懲戒処分できないわけではありません。社内で調査して懲戒事由への該当性に確証が持てる場合には懲戒処分することはできます。

また、懲戒事由に該当しても、即、懲戒解雇にできるわけではありません。「相当性」の要件があるため、懲戒事由とバランスが取れた処分を選ばなければなりません。

強制わいせつ致傷の場合には非違行為の程度が大きく、また会社の信用を低下させやすい行為でもあるので、懲戒解雇も相当性があり有効と判断されやすいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。