SmartHRのブログ記事、S.RIDEの屋外広告がいずれも不適切な表現で撤回、謝罪に。なぜ行き過ぎた広告表現をしてしまったのか。その原因を考える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

企業広告は目立ってナンボですが、しかし、行き過ぎた場合や配慮を欠く場合には「炎上」します。

今回は、ブログに使用した例え話が不適切だったSmartHRの例と、屋外広告でのキャッチコピーが不適切だったS.RIDEの例を取り上げます。

「チンパンジーが配属されてきたら・・」というSmartHRのブログ記事

ブログ記事の内容とその意図

SmartHRは2025年12月8日、「不適切なブログ記事公開に関するお詫びと今後の対応について」とする謝罪文を公表しました。

同社が12月2日、技術者向けの情報共有サイト Qiita 内のブログ企画に「チンパンジーが配属されてきたら、あなたはどうマネジメントする?」と題して、5人からなるソフトウェアの開発チームに本当の類人猿のチンパンジーが配属されたときに何をすべきかという記事を投稿したところ、不適切であるとの批判が集まり炎上したことが理由です。

(魚拓;https://megalodon.jp/2025-1208-0831-54/https://qiita.com:443/jesus_isao/items/29b878e137f46c675d89

記事を読むと、自制ができず、コントロールが効かず、かつ、技術知識もないエンジニア(さらには大株主からの紹介者)をチンパンジーに例え、その場合のマネジメントのポイントを解説したかったのだろうことが読み取れます。

冒頭のタイトルも「極端なシナリオ」と付されているので、マネジメントの立場にある人に共感してもらうために、あくまで話しをわかりやすくするために極端な例え話をしたのだと思います。

しかし、チンパンジーに例えられたエンジニア側からの批判の声が少なくありませんでした。

炎上した原因=読者層の見誤りと想像力の欠如

炎上した原因として考えられるのは、読者層の見誤りと想像力の欠如です。

謝罪文には「倫理観の欠如」とありますが、倫理観の欠如よりは想像力の欠如のほうが根本的な原因のような気がします。

Qiita は技術者向けの情報提供を前提としたサービスですから、そこに掲載された記事は、マネジメントの立場にある人だけでなく、現場で働くエンジニアの人たちの目にも触れます。

そうだとすれば、現場で働くエンジニアの人たちがブログ記事を読んだときに、どう受け取るだろうかという想定をすることは不可欠だったように思います。

これが仮に自社サイトでのブログ記事であれば、元々マネジメントの立場にある人に向けてだけ書いた記事ということもできるかもしれません。

しかし、Qiitaという場所を借りて記事を書いているのですから、そうした想像力が必要でした。

記事では冒頭に「予防線を張る」として「この記事に登場する人物・団体はすべてフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、この記事は個人が書いたものをそのまま投下しているため、所属組織の見解とは異なる可能性がございます。あらかじめご了承ください。」との注書きがあります。

本当に予防線を張るなら「この記事はマネジメントの立場にある人向けに書いた記事です。エンジニアの人たちには不快に思われる表現を使用しておりますが、ご容赦ください」という趣旨にしたほうがよかったのではないでしょうか。

もちろん、それでも批判されるとは思いますが・・。

「忘年会、幹事だけポイント貯まるのずるくない!?」というS.RIDEの屋外広告

S.RIDEの屋外広告の問題表現

タクシー配車アプリのS.RIDEは2025年12月9日、「屋外広告の表現に関するお詫びと掲載終了のお知らせ」とする謝罪文を公表しました。

S.RIDEは同社のタクシー配車アプリの屋外広告を駅のホームドアに掲示していた(2つの広告で1セット)のですが、その際、1つの屋外広告には「誰でもポイント貯まるタクシーアプリ!」とのアプリのメリットを強調し、同時に、もう1つの屋外広告には「忘年会、幹事だけポイント貯まるのずるくない!?」との表現をしたことが、「ずるい」という表現は不適切などと批判を集めたのです。

これも「誰でも」と「幹事だけ」を比較して、S.RIDEアプリの有用性を強調したかったのだと表現の趣旨は理解できます。

しかし、「ずるい」という表現は、幹事がポイントを貯めることをマイナス評価します。

そのため、幹事の大変さを理解してない、幹事への配慮を欠くとの批判を集めることになりました。

炎上した原因=想像力の欠如、比較広告への理解不足

S.RIDEの屋外広告が炎上した原因も、SmartHRと同じように、想像力の欠如です。

S.RIDEの場合は、謝罪文でも「想像力、および配慮に欠ける」と記載されているので、想像力に問題があることは認識されているようです。

ただし、S.RIDEの屋外広告の表現を見るに、原因は想像力の欠如だけではなく、比較広告への理解不足があるように思います。

他社商品やサービスとの比較ではないので比較広告であるとの認識はないかもしれません。

法的にも比較広告ではありません。

しかし、「誰でも」と「幹事だけ」の比較をしているので、比較広告と同じように考える必要があります。

比較広告は「一般消費者に対する具体的な情報提供ではなく、単に競争事業者又はその商品を中傷し又はひぼうするもの」が禁じられています(比較広告ガイドライン)。

だとすれば、厳密には比較広告ではないにしても、「誰でも」と「幹事だけ」を比較する場合も、比較の対象を貶めたり、さげたり、ディスったりする表現は慎んだほうがよいでしょう。

今回の「ずるい」という表現は、何か悪いことをしていることを前提とする表現なので、「幹事」を下げている表現ともいえ、その点でも不適切であると受け取られたのだと思います。

ブログ記事や広告表現での留意点

これまでにも広告表現の留意点に関する記事を何度か書いてきましたが、今回のSmartHRのブログ記事やS.RIDEの屋外広告での表現のように、相手を見下すような表現は止めたほうがよいことにも留意してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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