IHI原動機にて船舶用エンジンと陸上用エンジンの試運転記録のデータ改ざん。2019年に起きたIHIでの航空エンジンの検査不正の教訓は、なぜ子会社に生かされなかったのか

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年4月24日、IHIの子会社IHI原動機が、船舶用エンジンと陸上用エンジンの試運転記録を不適切に修正するデータ改ざんをしていたことを明らかにしました。

IHIのプレスリリースによると、2024年2月下旬にIHI原動機の従業員から、エンジン製品を出荷する際にお客さまに提出する「燃料消費率」について、実際に試運転で測定された数値とは異なる数値に修正されているとの申告(内部通報)があったことを受けて社内調査を実施したところ、試運転記録を不適切に修正したことが確認できたそうです。

内部通報が機能したケースと言えます。

親会社IHIでは2019年に民間航空機エンジンの整備事業で検査不正

親会社であるIHIは、2019年4月に民間航空機エンジンの整備事業で検査不正をしていたために国交省から業務改善命令を受け、現在も、コンプライアンスの徹底と再発防止策に取り組んでいます。

そのため、2024年4月24日にIHIの副社長とIHI原動機の社長が行った記者会見では、IHIの副社長から「道半ば」とのコメントも出されています。

同日会見したIHIの盛田英夫副社長は「深くおわび申し上げる」と謝罪した上で、航空機エンジン整備の検査不正が発覚した19年以来「コンプライアンス意識の向上に不断の取り組みを続けてきたが、道半ばであったと認めざるを得ない」と語った。

2024年4月24日日刊工業新聞社サイト「ニュースイッチ」

なぜ2019年のIHIの教訓は子会社であるIHI原動機に生かされなかったのか

IHIでは2019年に明らかになった民間航空機エンジンの整備事業での検査不正を受け、コンプライアンスの徹底と再発防止策に取り組んでいました。

にもかかわらず、IHIの2019年の教訓を生かせず、なぜ、わずか5年足らずで、子会社であるIHI原動機で船舶用エンジンと陸上用エンジンの試運転記録のデータ改ざんが起きてしまったのでしょうか。

グループガバナンスが機能していなかったのではないかという疑問

IHIの教訓を生かせなかった理由の一つとしては、グループガバナンスが機能していなかったことが考えられます。

IHIの2019年5月10日付けリリース「当社民間航空機エンジンの整備事業における業務改善命令に対する改善措置の提出について」には、「今般,策定した再発防止策は,直接的には,当社瑞穂工場において判明した不適切事象に対するものですが,他の製造拠点も含めた当社の航空機エンジン事業全般において,適切な業務が確保されるよう再発防止策を踏まえた取組みを実施してまいります。」とあります(1ページ目)。

よく読むと「当社」を強調しています。

また、再発防止策(2ページ以下)でも「認定事業場」「瑞穂工場」などとあります。

これらの記述からは、2019年の検査不正を受けてIHIが取り組んだのは、あくまでもIHI単体の航空機エンジン事業でのコンプライアンスの徹底と再発防止策に絞られている、と読むことができます。

実際にはIHI全社を挙げてコンプライアンスの徹底に取り組んでいるのだと思いますが、リリースからは航空機エンジン事業という狭い範囲でコンプライアンスの徹底と再発防止策に取り組んでいただけにしか読み取れません。

その延長として、IHI原動機を含むグループ会社全体でのコンプライアンスの徹底と再発防止策までは取り組めていなかったのではないか?という疑問も浮かびます。

グループガバナンスの本来のあり方から言えば、不正・不祥事が親会社で起きたのかグループ会社で起きたのかを問わず、親会社は当該不正・不祥事をある程度抽象化して、グループ全体に向けて、同種の不正・不祥事が起きていないかを点検するように指導し、かつ、同様の原因による不正・不祥事が起きないようにガバナンスを見直すように注意喚起しなければなりません。

その際には、ただ漠然と指導や注意喚起するのではなく、発生した不正・不祥事の原因の詳細をある程度説明する必要があります。

例えば、IHI原動機の件では、関係者へのヒアリングの結果、「前任者から引き継いだとの証言もあった」とあります(2024年4月24日付けリリース)。また、「1980年代後半から不正が行われていたとの証言も出てきている。事実であれば40年近くにわたり不正が続いていた」とも報じられています。

そうだとすれば、今回の件をきっかけにIHIが今後の再発防止に向けて取り組むなら、グループ会社全体に対して、「現場で、口授されている不正のやり方はないか?」「社内の規程やマニュアル以外に口頭で伝承されているノウハウがないか?」などを調査するよう指導し、そうしたものがあるなら問題があるものかどうかを検証し、問題があるものなら止めさせるように注意喚起する必要があります。

IHI原動機の成り立ちも影響しているのではないか

今回問題が起きたIHI原動機は、IHIの子会社ですが、元々は新潟鐵工所の原動機事業部門でした。

新潟鐵工所が2001年11月に会社更生法の適用を受けたことにより、2003年にIHIが原動機事業を承継し新潟原動機株式会社として子会社化し、2019年に事業統合によりIHI原動機になったのです(会社の沿革)。

ここから考えられるのは、IHIとIHI原動機は社内風土、カルチャーが大きく違うのではないか、ということです。

そのカルチャーの違いの一つとして、コンプライアンスへの意識の徹底度合いや距離感の違いもあるのではないか、と考えられます。

新潟鐵工所からIHI傘下に入ってから20年以上が経っているとは言っても、社風、雰囲気、カルチャーは人に染みついているものだけに、そう簡単に変わるものではありません。

元々一つの会社から一事業部門を会社分割して子会社化した場合でも、数年経つと、親会社と子会社では企業カルチャーは変わります。

私自身、社内研修やグループ会社研修などで色んな会社を訪問しますが、親会社と子会社とで社風が全然違うのを肌で感じるときもあります。

元々が別の会社である場合は尚更感じます。

IHIとIHI原動機もそうした違いがあり、それが故に、2019年にIHIで検査不正があっても、IHI原動機では同一企業グループでの不正・不祥事とは捉えておらず、自分たちの緊張感を増すことには津ながらなかったのではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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