川勝平太静岡県知事が訓示での職業差別的発言を理由に辞意表明。組織のトップは日頃の言動が自分の地位を支えもするし危うくもする。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

川勝平太静岡県知事は、2024年4月1日に行われた入庁式で新規採用職員向けに訓示した内容が職業差別的発言であると批判されたことを受け、4月3日に会見を行い、6月の県議会の冒頭にて辞職する意思を表明しました。

川勝知事の職業差別的発言

職業差別的発言であると批判された訓示の内容は、次の部分です。

「実は静岡県、県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンクです。毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね」(原文ママ)

https://www.fnn.jp/articles/-/679812?display=full

県庁の新規採用職員は公務員試験を経て採用された管理部門に所属する職員であり頭脳労働が中心なので、そのことを指摘したかったのだと思います。

しかし、その際に、野菜を売る人、牛の世話をする人を例に出す必要はないのに例に出し、そのうえで、「〜と違って…高い」と、例に出した職種の人たちは知性が低い人の例であるかのように表現したことが、職業差別的発言との批判の対象になったのです。

なぜ川勝知事の味方がいなかったのか

職業差別的発言は「切り取り」なのか

職業差別的発言であると批判された当初、川勝知事は「切り取り」と反発していました。

たしかに、訓示全文を読むと、川勝知事が新規採用職員に向けて公務員としての心構えを説き、「知性」と「感性」を磨くことを説いているだけであって、職業差別をしようとした趣旨の発言ではないことがわかります。

問題の発言の後は「知性」と「感性」の磨き方に関する話しが続き、問題とされた発言箇所はそのための前フリです。

そのため、川勝知事が「切り取り」と反発したのも理解できないわけではありません。

味方がいなかった要因〜過去の言動

しかし、メディアでもSNSでも川勝知事に理解を示す人は皆無に近い状況でした。

その最大の理由は、川勝知事の過去の言動です。

川勝知事は、県知事に就任して以来、「上から目線」や時代遅れの感覚による失言暴言とも言える表現を繰り返していました。

2021年10月には、御殿場市について「あちらにはコシヒカリしかない。飯だけ食って、農業だと思っている」と発言し、11月の臨時県議会で辞職勧告決議案が可決されたこともありました。

辞職勧告決議案が可決された後、川勝知事は給与やボーナスなど440万円を返上すると述べていましたが、しかし、実際には返上していなかったことが発覚し、2023年7月には不信任議案まで提出されていました(1票差で否決)。

こうした過去に繰り返された失言暴言とそれに対して責任を取らない川勝知事の不誠実な態度が、世の中の人たちには、川勝知事には失言暴言癖がある、日頃から「上から目線」の発言や時代遅れの感覚にもとづく発言を繰り返しているから今回の職業差別が垣間見えた発言は知事の本音である、と受け取られたのでしょう。

リニアモーターカー工事に関する対応

さらには、リニアモーターカー工事に関して後出しで抵抗することを繰り返し、着工を遅らせていたこともあり、世の中の人たちから「傲慢」と思われていたことも、味方が少なかった要因ではないでしょうか。

県知事なので県民の立場からリニアモーターカー工事への不安や不満をJR東海に伝えて抵抗することは、本来の県知事の役割であり、批難される謂れはありません。

県知事が、県の立場からリニアモーターカーが開通することによる経済的メリットがないと主張し、リニアモーターカーの開通による全体的な経済合理性に抵抗することも、県知事の本来の役割です。

しかし、抵抗の仕方が、一つ問題提起をし、それにJR東海が回答すると、次の問題提起をし…などと、後出しで条件を出す態度が潔くない印象やだだをこねている印象を与えました。

交渉の態度にも誠実さが求められるのは、日本ならではかもしれません。

経営トップは日頃の言動を注意すべき

組織のトップの日頃の言動を、世の中の人たちはよく見ているし、覚えています。

会社に置き換えれば、会社の社長、役員らの日頃の言動を、株主・投資家、取引先・お客さま、部下となる従業員はよく見ているし、よく覚えている、ということでもあります。

どんなに実績を出しても、どんなに素晴らしい事業理念を掲げても、どんなに広報をうまく取り繕っても、結局のところ、株主、取引先・お客さま、部下からの信頼や求心力があるかどうかは、日頃から信頼される言動をしているかどうか次第ということです。

言動なので、発言だけではなく、経営判断や危機管理を含む行動も、です。

平時は問題がなくても、危機時に何も決断ができなければ、頼りない印象しか与えません。

覚悟を決めて、腹をくくってください。

以上、書きながら自問自答して、とっても胸が痛く、自分自身がダメージを受けるブログ記事になりました…。

気をつけます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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