小林製薬が製造した紅麹に関連する製品による健康危害の発生・拡大。製品を回収する判断が遅れた原因は危機管理体制の機能不全や理解不足ではないか。食品会社の社会的責任とは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年3月22日に、小林製薬は、自社製造の紅麹減量を使用している機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した消費者が腎疾患等を発生したことをきっかけに、「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収」を公表しました。

今回は、小林製薬の危機管理意識の希薄さと危機管理体制の機能不全について取り上げます。

初動の遅れを招いた危機管理の意識の希薄さと危機管理体制の機能不全

自主回収した理由

自主回収した理由について、小林製薬は、

小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:小林章浩)が販売しております機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取された方において、腎疾患等が発生したとの報告を受けました。
これを受け、本製品及びそれに使用している紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の意図しない成分が含まれている可能性が判明しました。

現時点でこの成分の特定や本製品の腎疾患等との関連性の有無の確定には至っておりませんが、お客様の健康被害が拡大することを防ぐための予防的措置として、下記【対象製品】記載の紅麹関連製品を自主回収することといたしました。


https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2024/20240322/

と説明しています。

「本製品の腎疾患等との関連性の有無の確定には至っておりませんが、お客様の健康被害が拡大することを防ぐための予防的措置」との説明理由だけを見れば、法的責任の有無にかかわらず、被害の拡大を防止するという危機管理の視点から自主回収することを判断したことが伺えます。

この部分「だけ」なら、経営判断としては適切なようにも思えます。

健康危害の一報が入ってから社長への報告までの遅れ

しかし、報道によると、小林製薬の初動は、

というものでした。

腎疾患という健康危害が生じているにもかかわらず第1報が入ってから3週間もの間、社長にその事実が報告されていなかったようです。

これが事実だとすると、小林製薬の危機管理に対する意識が希薄であり、危機管理体制が機能していないことが伺えます。

「サプリメントの袋を空けるときに手を切った」「誤飲した」などの一般的なよくある危機であれば、逐一社長まで報告する必要はありません。

報告するにしても、月1の経営会議や取締役会で「今月のトピックス」的に情報を共有すれば足りるでしょう。

しかし、今回は「医師」という専門家から「腎疾患」という健康危害の一報があったのですから、イレギュラーな危機として把握し、社長に一報を入れ、早急に対応すべき緊急性があった事案です。

小林製薬の危機管理が遅れたことによる健康危害の拡大と死者の発生

健康危害の拡大と死者の発生

3月22日のリリースによれば、小林製薬は、公表するまでの間、「本製品及びそれに使用している紅麹原料(自社製造)の成分分析」をしていたようです。

しかし、1月15日以降も相次いで同様の健康危害の報告を受けていたのですから、その時点で「これは、対応が一日でも遅れたらマズいのではないか」と危機感を抱き、成分分析の結果が出ようと出まいと、「出荷・販売を一時停止する」との決断や、「原因が究明できるまで口にしないでください」との注意喚起はできたはずです。

ところが、2月6日に社長が把握してからも成分分析の結果が出るのを待ち、3月22日に消費者庁にリコール情報を提供するまで公表しませんでした。

その間に、「尿の泡立ち・混濁、倦怠感、腹痛、腰痛、食欲不振、腎機能数値の異常など」の症状による「入院症例6名、通院症例7名」と被害が拡大してしまいました(https://www.recall.caa.go.jp/result/detail.php?rcl=00000032057&screenkbn=01)。

さらに、3月27日までには「紅麹コレステヘルプ」を利用していた消費者が2名亡くなっていることも明らかになりました(https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2024/20240327/)。

小林製薬が1月15日や遅くとも社長が把握した2月6日に出荷・販売の一時停止の判断や注意喚起をしていれば、このうちの何件かは防止できたかもしれません。

※2024/04/10追記

4月7日付け共同通信では「問題を公表する以前に、体調不良となった利用者が医師の診断や自己判断で摂取を中止したところ、回復した事例が複数あることが7日、各自治体や日本腎臓学会への取材で分かった。摂取をやめたため重篤化せず入院に至らなかったとみられるケースもあった。」とも報じられています。

https://nordot.app/1149593727827755341

株価の低下

また、判断の遅れは小林製薬の株価の下落も招きました。

第2報を公表した3月25日の終値は6056円だったのですが、その後、最安値4810円まで下落しました(本記事執筆時点。以下は、Googleでの株価検索のスクショです)。

上場会社にとっては危機管理の判断の遅れは株価にも影響することがわかります。

なぜ自主回収など危機管理の判断が遅れてしまうのか

食品会社の社会的責任

自主回収などの危機管理に関する判断が遅れる要因の一つに、因果関係についての調査の結果を待つという傾向があります。

たしかに、法的責任の有無を考えたら、調査の結果を待つのが正解かもしれません。

しかし、人の口に入るものを製造、販売している会社だからこそ、口に入れたら健康危害が起きるかもしれないと感じる事態が生じたときには、「消費者が死んでしまうかもしれない」と思いを巡らせて、法的責任の有無を問わずに英断して欲しい、です。

それが、人の口に入れるものを製造、販売している会社やその会社の取締役の社会的責任ではないでしょうか。

前例としての雪印乳業集団食中毒事件やダスキン事件判決

2000年に発生した雪印乳業集団食中毒事件や、食品会社の社会的責任について言及したダスキン事件判決(大阪高判2006年6月9日)を、今一度振り返ってほしいです。

雪印乳業集団食中毒事件は、2000年6月27日に大阪市保健所に最初の食中毒の届出があったことから始まりました。

ところが、雪印乳業はその後の商品回収や消費者への告知などが遅れたため、最終的に、1万3,420人の食中毒患者を発生させました。

雪印乳業(現在の雪印メグミルク)は、事件から20年以上が経過した現在もウエブサイトに当時の事件のまとめを掲載し、事件を風化させないようにしています。

ダスキン事件判決については、以前のブログ記事でも取り上げていますので、そちらを参考にして下さい。

小林製薬の情報発信や危機管理の課題については、別のブログ記事を書きましたので、そちらもご覧ください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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