ヤマウラの元管理本部財務経理チームマネージャー兼子会社経理担当とその長男が3億6000万円の業務上横領で逮捕。不正支出は総額約26億3885万円。グループガバナンスが効かなかった原因は。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年2月14日、総合建設業ヤマウラの管理本部財務経理チームマネージャーで、100%子会社ヤマウラ企画開発の経理担当でもあった元従業員とその長男が、3億6000万円の業務上横領を理由に逮捕されました。

具体的には、2023年2月にヤマウラ企画開発の経理担当でもあった元従業員が、その長男が代表するネクストステージに3億6000万円を振り込んだことが業務上横領とされているようです。

また、2023年8月31日に公表されている第三者委員会の調査報告書によると、元従業員がヤマウラ企画開発の預金口座から現金を不正に払い戻すなど不正に支出した総額は、上記3億6000万円を含めて約26億3885万円に達します(調査報告書7〜16頁)。

なお、元従業員は、2023年8月25日付けでヤマウラを懲戒解雇されています。

※2024/3/9追記

2024年3月6日、元従業員とその息子は、別件の約2億9300万円の業務上横領でも逮捕されました。

https://www.nbs-tv.co.jp/news/articles/?cid=17685

なぜ長期間にわたって発見されなかったのか

不正・業務上横領が行われた環境・方法

業務上横領が発覚したのは、2023年5月9日、ヤマウラが会計監査人から「ヤマウラ企画開発の預金残高と帳簿残高に約10億円の相違がある」と指摘され、社内調査を行ったことがきっかけです。

第三者委員会の調査報告書によると、以下の事実が明らかになっています。

  • 元従業員は1988年7月にヤマウラに入社し1994年8月から経理課長(マネージャー)職として30年以上勤務していたこと、2013年3月当時にはヤマウラ企画開発の社判・社印(銀行印)、通帳を管理していたこと
  • 2013年3月以後、ヤマウラ企画開発の預金口座からの現金の不正払い戻しが続いていたこと(2013年3月以前は不明)
  • 2019年9月以降は、長男個人や取引のない法人に対する不正支払いが発生したこと
  • 2021年5月以降2023年4月まで、ヤマウラ企画開発から長男が代表取締役であるネクストステージ(取引はない。2021年3月に設立し11月から長男が代表取締役)への不正支払いが続いていること

長期間不正経理に気づかなかった原因

長期間にわたって不正な経理処理が行われていたのに、東証上場プライム企業でもあるヤマウラは、会計監査人から指摘されるまで、その100%子会社であるヤマウラ企画開発の預金残高と帳簿残高の相違を、なぜ気がつかなかったのでしょうか?

「気がつかなかった」原因について、調査報告書と東証に提出した改善報告書では、親会社であるヤマウラの内部統制の不備、連結子会社であるヤマウラ企画開発の内部統制の不備、親会社による子会社管理の不備、内部通報制度の実効性の不足、ジョブローテーションの不実施など縷々列挙されています。

よくある理由ばかりです。以前にも実例を挙げつつ分析したことがあります。

会計監査人の責任は?

調査報告書にも改善報告書にも親会社の会計監査人(監査法人)の責任について言及がありません。

東芝不正会計事件では、2015年12月22日に、新日本監査法人には業務停止3か月と業務改善命令、公認会計士には業務停止が命じられました。

また、新日本監査法人には、2016年1月22日に約21億円の課徴金納付命令が出されています。

さらに、新日本監査法人には、東芝の株主から1兆円の株主代表訴訟が提起されています。ただし、東芝が上場廃止し日本産業パートナーズ(JIP)が買収することもあり、2024年2月中に結審するようです。

ヤマウラの会計監査人が長い間気がつけなかったことに責任はないのでしょうか?

親会社のグループガバナンスの意識の欠如

改善報告書の中で目に付いたのが「子会社管理の不備」にあった以下の記載です。

b.当社の関係会社管理規程の運用の不徹底
当社の関係会社管理規程に記載されているヤマウラ企画開発の決裁事項については、当社の個別職務権限規程に定める決裁を受けなければならないこととなっていますが、当社では、ヤマウラ企画開発は当社の一事業部という意識が強く、関係会社管理規程に則り運用するという認識がなかったことを起因とし、規程通りに運用されているかとの管理本部長による管理監督もありませんでした。

c.監査役監査の未実施
監査役監査計画が策定されておらず、監査役監査が行われていませんでした。また、規程通りにヤマウラ企画開発の取締役会が開催されておらず、ヤマウラ企画開発の取締役と監査役間の連携も図られていませんでした。ヤマウラ企画開発の監査役は、実質的にヤマウラ企画開発が当社内の一事業部と考えていたため、別会社としての独立した経営、監査体制というものが疎かになっていました。

改善報告書9頁

また、「コーポレートガバナンスの不備」にも同趣旨の記載がありました。

a.当社とヤマウラ企画開発の取締役会における監督機能の不備
ヤマウラ企画開発の社員としての当該社員の管理監督責任の所在と、ヤマウラの社員と
しての当該社員の管理監督責任の所在の境界が明確にあったわけではなく、間隙がありま
した。当社の管理管掌取締役は、建設事業部、エンジニアリング事業部と同様、ヤマウラ
企画開発を首都圏事業部と捉えて、子会社の管理・監督をすることは意識にありませんで
した。

ヤマウラ企画開発は取締役会設置会社なので、3 ヶ月に 1 回取締役会を開催する義務があったにも拘らず、それを放置して 2 年に 1 度(役員改選時)しか取締役会を開催しておりませんでした。当社の重要な会議体で毎週開催される経営執行会議(社内取締役、執行役員、部門長他管理職が出席し業績報告等を行う会議体)、あるいは重要な会議体ではないものの役員連絡会(社内取締役が出席し、経営執行会議での議題を補完し、意見交換する会議体)での取締役間の情報共有を図っており、監督は十分であるはずだと当時は認識しておりました。
しかし、やはりヤマウラ企画開発は一事業部としての認識から、これらの会議体では、ヤマウラ企画開発の内部統制に関する情報の提供や審議が必要とされておらず、当社の取締役によるヤマウラ企画開発の内部統制の状況を把握することはなく、監督機能としての役割を果たせていませんでした。
プロジェクト事業計画は、ヤマウラ企画開発の社長のみに承認を受けるだけという運用であったため、当社の取締役会で審議されていませんでした。
関係会社に対する貸付けについても一定金額(一件 5,000 万円)以上のものは当社の取締役会の決議を要しますが、ヤマウラ企画開発への貸付は、2014 年より 50 億円の極度貸付の方式が取締役会で可決されたことを機に、極度額の範囲であれば、その都度の貸付実行時の決裁を受けることなく貸付ができる運用としたため、当社取締役がヤマウラ企画開発への貸付けの状況を把握することができない体制となっていました。
当社の取締役にはヤマウラ企画開発は当社の一事業部という意識も強く、別会社という認識での子会社管理が希薄となっておりました。そのため、ヤマウラ企画開発に対する内部統制の認識及び問題意識が不十分でありました。

改善報告書9-10頁

どちらにも共通するのが、親会社であるヤマウラの取締役、監査役、執行役員、部長、従業員が、連結子会社であるヤマウラ企画開発を親会社の一事業部という意識が強かった、ということです。

調査報告書では、具体例として、

  • ヤマウラ内では、企画開発をヤマウラの一部門とみなし、ヤマウラと同様の内部統制システムが企画開発でも運用されていると思い込む傾向もあった。そのため、企画開発への資金融資をヤマウラ内部の資金振替と誤認識することもあった(29頁)
  • 企画開発の事業のため都内の本店所在地にいた社員は2名だけであり、年間20億円を超える売上を上げるためには通常の営業を行うだけで精いっぱいであったところ、財務の関係に関しては、あたかも本社の一部門としてヤマウラが行うものとされ、しかも管理や監査はできる範囲で行えば良いといった抽象的な了解が暗になされていた(38頁)

などが挙げられています。

誰もがヤマウラ企画開発を親会社ヤマウラの一事業部として意識するだけでなく、日頃からその意識で行動していたということです。

これでは、親会社によるグループガバナンスが機能することは期待できません。

子会社・グループ会社を親会社の一事業部として意識してしまう背景は?

親会社から一事業部門が会社分割(新設分割)した場合なら、子会社を親会社の一事業部として意識し続けてしまうのは理解できないわけではありません。

しかし、調査報告書によると、ヤマウラは1920年に創業し、建設事業等を主たる目的として長野県駒ヶ根市を本店所在地とする会社であるのに対し、ヤマウラ企画開発は1999年12月に東京都中央区を本店所在地とし、不動産の売買を目的とする100%子会社として設立されました。

親会社であるヤマウラとは別事業を行い、端から子会社として設立されたにもかかわらず、親会社の取締役、監査役、執行役員に一事業部としての意識しかないのは珍しいと思います。

私はいろんな会社のグループ役員研修などをしていますが、どこの会社にいっても、親会社の役員はたとえ100%子会社や小規模の子会社であっても子会社は別法人であるとの意識を持っていました。

子会社・グループ会社の役員と親会社の役員と兼任している役員も親会社とは別法人であるとの意識を持っていました。

「一事業部みたいなもの」という意識のある方はいても、別法人であるとの意識がない役員には会ったことがありませんし、社内でも別法人として扱っている会社しか見たことがありません。

そう考えると、ヤマウラからヤマウラ企画開発への融資を「資金振替」などと誤解するほど「一事業部としての意識」しか生じなかったのは、なぜなのでしょうか。

よほど日頃から親会社と子会社の区別がまったくできていなかった、取締役会や経営会議で別法人として扱ったことがない・・・くらいしか原因を思い浮かびません。

今後、グループガバナンスの意識を生じさせるのは、社内の環境や子会社の取扱い方をガラッと変え、かつ、取締役・監査役・執行役員や従業員に対する意識付けを徹底しないといけないように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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