日本製鉄と日本航空がいずれも現場出身の新社長へ。その狙いと社外取締役の見識について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年1月12日、日本製鉄は4月1日付けで社長の交代を決定したことを明らかにしました。

今井新社長は旧新日鐵出身では初めての技術畑出身ということもあり、注目されています。

また、2024年1月17日、日本航空も4月1日以降の社長の交代を決定したことを明らかにしました。

こちらも、鳥取新社長は旧JAS出身、CA出身、女性社長ということもあり、メディアでも大きく取り上げられました。

今日も法律知識というよりは、ちょっと頭に浮かんだことをツラツラと書いてみます。

現場出身の社長が誕生した背景は

両社の新社長に共通しているのは、事務・管理部門出身ではなく現場出身ということです(今井氏は経営企画部門にもいたようです)。

これまでも大きな会社で現場出身の社長が就任することはありました。

例えば、ホンダは歴代技術畑出身の出身です。トヨタの佐藤社長も技術畑出身です。

しかし、会社の規模が大きくなればなるほど、社長は事務・管理部門、経営企画部門の出身者で代々占められ、現場出身は取締役や執行役員の一員にはなるけれどそこまで、という傾向がよく見られます。

特に、2000年以降のコンプライアンス、2006年以降の内部統制やガバナンスなど、いかに社内を管理するかが経営課題になってからは、管理部門出身の社長の割合が増えた印象を受けます(あくまでも印象です。統計を取ったわけではありません)。

その結果何が起きたかというと、ルールや組織体制の構築、企業の社会的責任(CSR)・ESG・SDGsへの偏重、ROEなどの財務分析・財務指標に重きが置かれるようになりました。

もちろん、どこの会社も、株式会社である以上、経営目標としての売上・利益の向上、上場会社であれば株価向上という課題には取り組んでいます。

しかし、管理に重きを置いた結果、現場ががんじがらめになり元気、パワーが溢れなくなる。

また、財務分析・財務指標に重きを置いた結果、利益目標を達成するためにコストを切り詰める。そのために、本来なら必要な経費や人員まで過剰に削減する。その上で、残った人員、特に現場や取引先には無理を強いる。現場や取引先での無理が破綻すると、現場で不祥事が起きる。

そういった会社が少なくありません。

2023年に話題になったダイハツ工業の不正行為は、まさにこの理屈で起きました。

こうした原因による不正・不祥事が複数の会社で発生すると、それを見た他の会社は「現場の課題を認識している者がトップになるべきなのではないか」「管理や数字だけではなく、現場の実態に即して経営課題に対処すべきではないか」という発想になりやすくなります。

これが、このタイミングでの、日本製鉄や日本航空をはじめとする現場出身の社長の登場に繋がったのではないでしょうか。

現場出身の社長が現れることについての社外取締役の見識

日本製鉄と日本航空の共通点が他にはないかと考えていたら、社長候補者を決める組織として、日本製鉄には「役員人事・報酬会議」日本航空には「指名委員会」が設けられていることがわかりました。

日本製鉄の「役員人事・報酬会議」は、以下の内容です。

会長、社長及び議長である社長が指名する3名以上の社外取締役からなる「役員人事・報酬会議」は、取締役会全体や監査等委員会の構成、取締役の報酬体系や報酬水準等、当社の役員人事・報酬に関わる事項全般について、広く議論・検討する場として位置づけております。

日本製鉄「コーポレート・ガバナンス体制」「役員人事・報酬会議」

日本航空の「指名委員会」は、以下の内容です。

指名委員会は、社長等に求められる資質を、「安全がJALグループ存立の大前提であることを肝に銘じ、JALフィロソフィを自ら先頭に立ち実践することで、全社員とともに企業理念の実現に向け着実な成果をあげられるもの」と定めています。

(中略)

社長等の候補人材については、指名委員会において、議論を継続的に実施しており、グループ会社での経営経験、海外駐在経験や社外団体での活動など実践的かつ多様な経験をさせることを通じて、早期に経営に必要な素養を身につけることができるようにしています。

(中略)

指名委員会は社長と取締役会の決議で選定された4名以内の取締役で構成し、過半数は社外取締役とします。委員長は、委員の互選により社外取締役から選定します。

コーポレート・ガバナンス 指名委員会

どこの会社でも、次期社長に誰が選ばれるかは、現任の会長、社長の意向や取締役会内での派閥抗争の影響は少なからずあるでしょう。

しかし、日本製鉄と日本航空の両社に共通しているのは、社外取締役が過半数を占めていることです。

すなわち、会長や社長の意向や取締役会での派閥抗争の影響があったとしても、社外取締役を含む過半数が賛成しない限り社長候補者にはなれない、ということでもあります。

もちろん、取締役会が最終選定権限を持っていますが、しかし、よほどの理由がない限り、役員人事・報酬会議や指名委員会が選んだ候補者を覆す正当性がありません。

社外取締役たちが「売上・利益」を経営の重要課題と考えるなら経営企画や営業出身の取締役が社長候補者になり、「内部統制」が重要課題と考えるなら管理部門出身の取締役が社長候補者になり、「数字の管理」を重要課題と考えるなら財務部門や経理部門出身の取締役が社長候補者になり、「現場の意識・役割」が重要課題と考えるなら現場出身の取締役が社長候補者になり、「開発・技術」を重要課題と考えるなら研究開発・技術畑出身の取締役が社長候補者になるのです(当たり前ですが、そんな単純に1:1で対応するものではありません)。

その観点から、日本製鉄と日本航空の次期社長候補者がいずれも現場出身にした理由を推察すると、両社の現任の社長と社外取締役たちは、現在の経営課題が「現場」にあると考えていることが見えてきます。

こうして考えると、指名委員会を設け、そのメンバーの過半数を社外取締役が占めている会社では、社外取締役には、「社外」の意見を取締役会に反映する役割だけではなく、その会社の経営課題を見抜く見識までが求められることがわかります。

昨今、「女性」役員が取締役会に占める割合などが重要視されていますが、経営課題を見抜く見識がなければ「女性」というだけでは社外取締役としての適性がないことは、再認識されるべきだろうと思います。

また、「女性」に限らず、大学教授や弁護士などの専門職を社外取締役に選任するときも同じです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。