能登半島地震への対応から学ぶ、危機管理広報の要点。情報の受け手に情報をきちんと届けることを意識した広報対応のあり方。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年は元旦から能登半島地震が発生し、あまりよろしくない年の始まりとなりました。被災された方またご遺族の方には、お見舞い並びにお悔やみ申し上げます。

能登半島地震が発生してからの一連の対応の中では、各行政組織・官庁、地方自治体による情報発信が目に付きます。

これらの情報発信には、企業不祥事が起きたときの危機管理広報において参考にできる点が多々あります。

情報を理解する「能力」がない者と理解する「意思」がない者を想定した対応

情報の受け手は、情報を理解する「能力」の有無と情報を「理解」する意思の有無によって分類することができます。

情報を理解する「能力」がない者の代表例は

  • テキストでの情報を読むのは苦手だけれども、その代わりに写真や動画、音声でなら理解できる者(テキストを読むのを面倒と考えている人もここに含めて良いでしょう)
  • テキストでの情報で書かれていない情報を勝手に付け加えて読む者(そんなことどこにも書いてないでしょ、という読み方をする人。ハッキリ言えば、国語の読解力が低い人です。)

です。

情報を理解する「意思」がない者の代表例は

  • 興味・関心が無い者
  • 情報の発信主体を一切信用していない者(政治的・宗教的スタンス故に聞く耳を持たない)
  • 陰謀論を信じてしまう者

です。

それぞれを横軸・縦軸にして組み合わせると、広報担当者のあるべき対応は、次のように整理することができます(理解を深めるために誇張して書いた一例です)。

このように整理すると、広報担当者がメイン・ターゲットにするのは、左上(理解する能力があるけれど理解する意思がない者)と右下(理解する能力がないが理解する意思がある者)です。

また、左下(理解する能力がなく理解する意思がない者)が間違った情報を発信しているときや、右下(理解する能力はないが理解する意思がある者)が誤解しているときには、広報を追加する必要性があるので、その様子を継続的に観察しておくことも不可欠です。

以上を踏まえた上で、能登半島地震での各行政組織・官庁、地方自治体による情報発信の状況を見てみましょう。

各行政組織・官庁、地方自治体による情報発信

首相官邸

首相官邸の公式サイトでは「令和6年能登半島地震について」と題するページを作成し、そこに連日、最新の情報を掲載しています。

また、同ページでは、災害関連情報を発信している各行政組織・官庁、地方自治体のウエブサイトやSNSアカウントを一覧にまとめ、ポータルサイトの役割も果たしています。

自然災害に限らず危機発生時には情報が錯綜します。メディアが流す情報も断片的であったり、感情的なセンチメンタルな情報に偏ったりもします。

それ故に、情報を得たいという意思があっても、どこを見れば最新の情報が入手できるかわからない、Googleで検索しても欲しい情報を見つけられないことが起きます。

そうした事態に備えて、ポータルサイトの役割を果たすページが存在することは非常に意味があることです。

石川県

最大の被災地である石川県は「令和6年(2024年)能登半島地震に関する情報」と題するページで、「能登方面への不要不急の外出を控えること」をトップに赤字で大きく記載し注意喚起しています。

その上で、被災者向け、事業者向け、被災地支援者向け、対策本部・被災状況に情報を整理して掲載しています。

自然災害に限らず企業でも危機が発生した時には、最新情報を順次「垂れ流し」で発信します。

情報を発信する側の態勢が整っていない初期は「垂れ流し」でも構いません。

しかし、ある程度態勢が整い、かつ、情報がまとまってきた時点からは、情報を見る人のことを意識して発信する情報を整理することも必要です。

そうでないと、せっかく情報を発信しているのに、情報を届けたい相手に情報が届かない事態を招いてしまうからです。

石川県のサイトが、情報の受け取り手ごとに情報を整理しているのは非常によい工夫だと思います。

危機発生時の情報を発信する際には、テキストベースの軽いサイトにしておく方がよいです。

ただし、あくまでトップをテキスト中心にするだけで、内容は写真や動画などを掲載して詳しく生々しく情報が伝わるように工夫をしてください。

石川県のサイトは、そうした点も意識できています。

なお、広報ではありませんが、石川県内部での情報整理の初期対応についても、今回は馳県知事のX(Twitter)へのポストから垣間見ることができました。

自然災害に限らず、企業内でも危機が発生した直後の情報整理は、ホワイトボードに書き連ねていく、ポストイットやA4の紙に手書きしたものを壁に貼っていくのが、オススメです。時には大きな模造紙一枚に書き連ねていくなんてこともあります。

危機管理に慣れている人には常識かもしれませんが、慣れていない人はPCで整理しようとしてしまいがちです。

しかし、会議室内にいる人たちにとって一覧性に優れ、かつ情報共有しやすい、スピード感が保てること、PCを使って綺麗に清書してしまうとその時点で情報を落としてしまうこと、手書きなら容易にできる文字の強弱についてもPCでは装飾などでワンクッション手間がかかることなど・・様々な理由から、危機発生直後は手書きがベストです。

ハッキリ言えば「PCなんて使ってる場合ではないから」です。

PCを使った清書はExcelなど表計算ソフトを使った集計データなどを貼るときや、態勢がある程度落ち着いてからで十分です。

防衛省自衛隊、国交省

各行政組織・官庁の情報発信を取り上げていくとキリがありませんが、最後に、災害対応の中心である防衛省自衛隊と国交省の情報発信について取り上げます。

防衛省自衛隊は、ウエブサイトに「災害派遣について」のページを設け、そこには、自衛隊内の各組織がX(Twitter)のアカウントで発信している情報を一覧化して掲載しています。

また、防衛省統合幕僚本部は、時間軸で、災害派遣の状況の変化を図にまとめています。

さらに、防衛省・自衛隊(災害対策)のXアカウントでは、連日、災害派遣の対応を1枚にまとめて整理して発表しています。

これも活動内容と現状をわかりやすく伝える広報として、非常に良い工夫に思えます。

また、能登半島地震では、山間部であるが故に、道路の復旧が難しく時間を要しています。

そうした地形特性も踏まえ、国交省のサイトでは「道路復旧見える化マップ」を掲載し日々更新し、かつ、国交省北陸地方整備局は、連日、X(Twitter)で道路の復旧情報を更新して掲載しています。

これらは、地図を利用して、緊急復旧、道路啓開の状況を可視化している点で、情報をきちんと届けたいという意思を看ることができます。

間違った情報の流布に対するカウンターパンチ

2024年1月11日に岸田首相がXで被災者に対してホテルや旅館への二次避難を呼び掛けたところ、芸人のラサール石井が12日に「被災者にそんな金あるか。だったらあんたが金を出して、旅館やホテルを借り上げ避難民を移動させろ」などと、あたかも二次避難先が有料であることを前提とした投稿しました。

しかし、実際には二次避難所であるホテルや旅館は政府や自治体が借り上げ、被災者が無償利用できることになっています。ラサール石井の投稿は、二次避難を必要とする人たちの誤解を招くとして批判が殺到していました。

間違った内容がSNSに投稿されても、その多くは無視することができます。

ところが、拡散力が強くメディアにも取り上げられている場合、情報の発信主体からすれば、その投稿の存在を無視することはできません。

特に危機管理の場面では尚更です。

こうした状況では、ただちにカウンターパンチとして、SNSで拡散されている情報が間違っていることを伝え、かつ、同時に正しい情報へ誘導していくことが必要です。

間違いであると指摘することにばかり重きが置かれがちですが、正しい情報への誘導をセットで行うことを忘れないようにして下さい。

このケースにおいて、岸田首相が間違った情報であることを指摘し、かつ、石川県や首相官邸のサイトに誘導していることは、適切な情報発信であったように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。