日本大学が「『学校法人の管理運営に関する適切な対応及び報告(指導)』に対する本法人の今後の対応及び方針」を文科省に提出。アメフト部薬物事案を機に、日本大学がガバナンス体制の再構築を実現するために必要な視点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年11月30日、日本大学は「『学校法人の管理運営に関する適切な対応及び報告(指導)』に対する本法人の今後の対応及び方針」を文科省に提出しました。

あまり整理できていませんので、思いつくままにツラツラと書きます。

日大が「今後の対応と方針」を決議した経緯

日本大学は、8月5日にアメフト部の部員が覚醒剤取締法及び大麻取締法違反で逮捕されたこと(以下、薬物事案とします)をきっかけに第三者委員会を設置。

11月17日には、第三者委員会の調査報告書で指摘された事項を真摯に受け容れることを前提に、管理運営体制の再構築を図るべく「第三者委員会答申検討会議」を設置していました。

この答申検討会議が作成した改善計画案をもとにして理事会で決議し、文科省に提出したのが、「今後の対応と方針」です。

日大のガバナンスに関する問題と、その本質

今回の薬物事案では、アメフト部と日大の両方のガバナンスに関する問題と、その本質が浮き彫りになりました。

1つはアメフト部のガバナンスの問題です。

2018年にタックル問題を起こし指導者を総入れ替えするなど解体的出直しをしたはずにもかかわらず、今度は寮内で複数の部員が薬物事案に関与していることが明らかになりました。

部内で誰も止めようとする者はいなかったのか、わずか4年足らずで部内の規律が乱れてしまう要因が残っていたのかなどの問題です。

もう1つは日大という大学組織のガバナンスの問題です。

日大は2021年に発覚した田中前理事長らによる背任事件をきっかけに大学の体制を一新しました。

にもかかわらず、薬物事案では、澤田副学長が2023年6月30日に警視庁から提供された大麻を告発する匿名メールの存在を危機管理統括責任者である理事に共有せず、また、部員から大麻片である可能性が極めて高い植物片が保管されている缶を預り12日間保管し続けていた結果、差押えを受けるに至るなど不適切な行為を繰り返し、かつ、酒井学長が澤田副学長に適切な指導・監督をしていなかったことが明らかになりました(「今後の対応と方針」29ページ)。

また、林理事長も、澤田副学長らから缶の写真を見せられたにもかかわらず、危機管理統括責任者である理事に報告せず、情報を共有しないなどの不適切な危機管理をしていたことが明らかになりました(「今後の対応と方針」34ページ)。

日大が世の中から徹底的に糾弾され、まだその余韻が浸っている中で、理事長、学長、副学長らが適切な危機管理ができない意識の低さ、自覚の無さなどの問題です。

アメフト部、大学のどちらにも共通するのは、「情報を共有しようとしない」「是正しようとしない」「適切に対応しようとしない」意識の低さ、自覚の無さです。

意識が低く、自覚が無いが故に、「適切な危機管理を講じないと一大事になる」との考えに至らず、適切な危機管理を講じようとの行動に繋がらないのです。

この意識の低さ、自覚の無さが、日大のガバナンスの問題の本質です。

「今後の対応と方針」の内容

日大は、「今後の対応と方針」にて、薬物事案の原因、今後に向けた決意表明、方針を述べた後、アメフト部の廃部の検討に加え、対応すべき項目として以下の7点を挙げています(目次と5ページ以下)。

  1. 薬物事案における役教職員の責任の明確化
  2. ガバナンス体制の抜本的見直し
  3. 役員の選任解任制度等の再構築、懲戒処分規程の整備
  4. 危機管理体制の再構築
  5. 競技スポーツ体制の再構築(違法薬物使用等の再発防止)
  6. 情報管理体制の抜本的再構築(会議資料・内容の漏えい防止)
  7. 危機管理広報体制の抜本的再構築

いずれも大学組織の価値を低下させる事象の発生を予防し、かつ、組織の価値を低下させる事象が発生した後に価値の低下を最小限度に留める体制の構築に関するものです。

今回の薬物事案を踏まえて構築すべきガバナンス体制の項目として不足はありません。

また、これらの項目は、2025年4月1日から施行される改正私立学校法に沿っている、とも理解できます。

改正私立学校法では、一部の者に権限が集中して専横が行われないように、

  • 理事、監事、評議員及び会計監査人の資格、選任及び解任の手続等
  • 理事会及び評議員会の職務及び運営等の学校法人の管理運営制度に関する規定
  • 理事等の特別背任罪等の罰則

を定めらています(参考資料;文科省作成「私立学校法の改正について」)。

特に「今後の対応と方針」の2、3、4は、私立学校法の改正点と合致します。

ガバナンス体制を「整備」しても「機能」しなければ絵に描いた餅

日大の理事会が決議した「今後の対応と方針」どおりに各体制の抜本的再構築が実現すれば、ガバナンス体制の「整備」をしたことにはなると思います。

しかし、今回の問題の本質は、林理事長、酒井学長、澤田副学長だけではなく、競技スポーツに所属する学生の問題意識の低さ、自覚の無さです。

学長と副学長は辞任しますが、林理事長は今後も残ります。

また、日大の競技スポーツはアメフト部だけではありません。他の部員もいます。

「今後不退転の覚悟で大学運営の健全化をはかり、社会からの信頼回復と教育機関としての使命を果たすべく努力して参ります。」と述べてはいますが、問題意識の低さ、自覚の無さが改善されない限り、再起することは難しいでしょう。

理事長の意識を高めるために取り組むこと

「今後の対応と方針」でも、問題意識の低さ、自覚の無さ故に適切な危機管理ができなかったことを踏まえて、以下の内容を指摘しています。

しかし,本事案においては,第三者委員会から不適切な行為が発生した原因として「林理事長が,理事長の責務を正しく認識し,それを果たすことができる態勢を整えることは,本法人のガバナンスを機能させる上で不可欠であるといえよう。本法人が巨大な組織であることに鑑みれば,これは理事長個人の責任というよりは,理事長が正しく判断することができるよう体制を整備するという組織的対応の問題であるともいえる。」と指摘され,また,改善策として「組織の問題としては,本事案への対応をみるに,理事長,学長を,専門的知識を持ったスタッフがサポートしていないということも指摘すべきである。」との提言を受けています。
そのため,本法人は,いわば理事長室・学長室のように,理事長・学長を直接補佐・支援する部署を設置し,法務部門や広報・経営企画など,幅広い経験と専門知識を持つスタッフを配置することで,理事長・学長のガバナンスの礎となる情報の収集をサポートします。また,理事長を補佐するために理事長推薦理事を置いたことを再認識し,理事長・学長の補佐体制を組織的に強化します。

「今後の対応と方針」13ページ

林理事長の問題意識が高まるのが最もよいですが、「今後の対応と方針」では、理事長個人任せにするのではなく組織的に対応する、という内容になっています。

林理事長がスタッフから提言・進言されたことを素直に受け容れるタイプなのか、その度量があるか。それによって、この組織的対応がうまくいくかどうかの結論は変わります。

万が一にも林理事長が素直に受け容れないタイプや進言に苦言を呈するタイプだとしたら、スタッフは次第に進言しなくなるでしょう。理事長のパーソナリティが結果を左右します。

結局のところ、林理事長がガバナンス、危機管理に対する問題意識を高め、「今の日本大学が世の中の人たちからどう見られているか」をしっかり理解し、自覚を持つしかありません。

競技スポーツの部員の問題意識を高めるために

林理事長が問題意識を高めても、競技スポーツの部員が意識を高めなければ、また数年後に別の競技スポーツから問題が発生してしまいます。片手落ちの対策となってしまいます。

「今後の対応と方針」では違法薬物の使用の再発防止に重点が置かれています(20頁以下)。

しかし、寮内での薬物使用の蔓延を防ぐことはもちろん、宝塚歌劇団で問題になっているような部員同士のいじめ、ハラスメントなどへの予防策も不可欠です。

寮に「寮監」を置いたとしても、競技スポーツは部活動への影響をおそれて自分たちに不都合な情報を報告せずに隠しがちです。日本学生野球連盟の処分事例を見ても、高野連に報告しない、あるいは報告遅れなどを理由としたケースが多数発生しています。

そのため、競技スポーツの部員からの内部通報制度、競技スポーツの各部から大学への報告が遅れたときには各部の部員のほか部長、監督などの指導陣にも責任が生じる仕組みづくりが必要に思います。

また、学生は4年で入れ替わります。さらに、指導者も不定期で入れ替わります。そのため、アメフト部でも2018年にタックル問題が起きたときに在籍していた部員は既に部に在籍せず、タックル問題の教訓が引き継がれていなかったが故に今回の薬物事案に繋がったのではないでしょうか。

競技スポーツで結果を残すことだけに偏重せず、指導者が学生の心を育てる必要性があることを意識する、大学が結果を残すだけでなく心を育てられる指導者を大事にすることも必要に思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。