武田塾がFC加盟校から130m離れた場所に直営校を開校しようとするも、裁判所が、優越的地位の濫用を理由に差止を認める。東大阪のセブン・イレブン店舗との違いは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年11月21日、武田塾が、FC加盟校から130m離れた場所に直営校を開校しようとしたことに対し、東京地裁は、FC加盟校が徴収された広告宣伝費等を300万円の返還を求めて武田塾を提訴している訴訟への報復の意図が主であるとして、開校の差止を認める仮処分決定を出しました。

独占禁止法の優越的地位の濫用を根拠とする差止(独禁法24条)が認められるのは、珍しいケースです。

武田塾のケースが報じられた後、ネット上では、セブン・イレブンが東大阪の店舗とのFC契約を2019年に解除し店舗の引渡しを求めて提訴し、かつ、2021年には店舗のすぐ隣に新たに別の仮店舗を設置して直営店の営業を始めたケースとの違いに疑問を呈する声も見られました(セブン・イレブンの請求は認容されました。控訴審;大阪高判2023年4月27日)。

今回は、武田塾のケースを分析し、かつ、セブン・イレブンのケースとの違いを説明します。

武田塾直営校開校差止仮処分(東京地決2023年11月21日)

独禁法が禁止する優越的地位の濫用

独占禁止法が優越的地位の濫用として禁じている行為は、

  • 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、
  • 正常な商慣習に照らして不当に、
  • 独禁法2条9項5号イ〜ハ所定の各濫用行為をすること

です。

解釈指針として、公正取引委員会は「優越的地位の濫用の考え方」をガイドラインとして出しています。

武田塾開校差止仮処分決定の理由

決定全文がまだ判例データベースにも掲載されていないので、詳細はわかりません。

仮処分を申し立てた法律事務所のWEBサイトによると、東京地決2023年11月21日が差止を認めた理由は、以下のとおりです。

「債務者(=フランチャイザー)によるこのような行為は、債権者(=フランチャイジー)が、現在又は将来において、本件フランチャイズ契約に関し、債務者に対して訴訟提起を含めた自己の権利を行使したり、債務者との間で交渉を行うこと等について大きな萎縮効果をもたらすものであり、債務者としても、そのような萎縮効果が生ずることを当然に認識していたと推認されることにも照らすと、債務者が本件直営校の開校を決めたのは、主として債権者の別件訴訟提起に対する報復の意図によるものであったとみられ、その主たる目的は不当なものであったというべきである。」

早稲田リーガルコモンズ法律事務所WEBサイト

WEBサイトに掲載された部分と報道されている内容からは、FC加盟校が広告徴収費等の300万円の返還を提訴している状況で、FC加盟校から130m離れた場所に開校しようとしたことが、

  • 「正常な商慣習に照らして不当」に該当するか
  • FC契約での広告宣伝費に関する取引条件をFC加盟校に応じさせるため(提訴を取り下げさせるなど)ものであり、「その他取引の相手方に不利益となるような取引の条件の設定もしくは変更」に該当するか

が主たる争点になったのだろうと推察できます。

この決定の注目すべき点は、裁判所が結論を出すまでの判断過程=論理展開です。

裁判所は、

  • 武田塾が130m離れた場所に直営校を開校しようとした行為だけではなく、その行為がどのような効果をもたらすかといった客観的事実
  • 開校しようとした行為がもたらす効果に対する武田塾の認識といった主観面

を総合して、

  • 開校しようとした武田塾の主たる意図を評価し、

主たる目的は不当と結論づけています。

客観的事実だけでなく主観面までも推認して、主たる意図・目的を判断したのは、過去の裁判例と比較しても丁寧な印象を受けます。

セブン・イレブン深夜営業差止等請求事件の判断過程との比較

フランチャイズに関わる優越的地位の濫用を根拠とする差止に関し、丁寧な判断をした過去の訴訟としては、セブンイレブン深夜営業差止等請求事件があります(一審;東京地判2011年12月22日、控訴審;東京高判2012年6月20日、上告審;最判2013年6月12日)。

フランチャイザーであるセブン・イレブンが加盟店に対して公共料金収納代行サービス等に係る業務及び深夜営業を行うことを求めたことに対し、加盟店が、優越的地位の濫用であると主張して、同業務と深夜営業の強要禁止とFC契約から条項の削除を求めたケースです。

一審である東京地判は、

  • 被告における収納代行サービス等の推移や実施状況,被告の加盟希望者に対する情報提供,本件対象業務の内容やこれによる負担の軽重等に照らすと,被告が原告らに対して本件対象業務を行うことを求めることは,正常な商慣習に照らして不当に原告らに対して不利益を与えるものではない

と判断して差止請求を棄却し、

控訴審である東京高判は、

  • 本件深夜営業は,本件条項に基づく控訴人らの法的義務であるから,控訴人らが,本件深夜営業が経済的に不利益であると感じた後に,被控訴人が控訴人らに対し本件深夜営業を続けるように求めることが,直ちに優越的地位の濫用に当たるとはいえない。

と判断し、控訴を棄却しました。

なお、上告審も上告棄却、上告不受理でした。

一審、控訴審どちらも客観的事実を根拠に「正常な商慣習に照らして不当」かどうかを判断しています。

なお、優越的地位の濫用に基づく差止が争われた三光丸事件(東京地判2004年4月15日)、アールエコ事件(一審;岡山地判2005年12月21日、控訴審;広島高裁岡山支判2006年12月21日)も、客観的事実だけで「正常な商慣習に照らして不当」かどうかを判断しています(いずれも不当性を否定)。

こうした前例と比べると、武田塾開校差止仮処分決定の理由は主観面をも考慮した点が特徴的です。

セブン・イレブン建物引渡等請求訴訟との違い

武田塾の仮処分決定が報道された後、SNSを中心にネットでは、セブン・イレブンが東大阪の店舗とのFC契約を2019年に解除した後、2021年には店舗のすぐ隣に新たに別の仮店舗を設置して直営店の営業を始めたケースを例に挙げ、武田塾開校差止仮処分決定との結論の違いに疑問を呈する声が見られました。

店舗のすぐ隣に別の仮店舗を設置し直営店の営業を開始したことが、武田塾が130m離れた場所に直営校を開校しようとしたことと類似していることからの疑問だと思います。

しかし、両ケースは、そもそも前提が異なります。

セブン・イレブンの南大阪は

  • フランチャイザーであるセブン・イレブンがFC契約を解除していること
  • 解除後もフランチャイジーが建物の引渡しに応じないために仮設の直営店舗を設置して直営店の営業を始めた

というケースです。

これに対して、武田塾は、

  • 武田塾(フランチャイザー)とFC加盟校(フランチャイジー)とはFC契約中であること
  • 武田塾とFC加盟校とはFC契約に基づく広告宣伝費の徴収に関して交渉が決裂した後、FC加盟校が300万円の返還を求めて提訴し訴訟係属中であったこと
  • これに対して武田塾が130m離れた場所に直営校を開校しようとした

というケースです。

セブン・イレブン東大阪のケースは、FC契約の解除の正当性・有効性が認められれば、その後、元加盟店が建物を引き渡さないことが違法(不当な占有)であり、セブン・イレブンが仮設の直営店舗を設置し直営店の営業を始めることに正当性があります(※自力救済として許されるのかという疑問はありますが)。

そうであるところ、一審である大阪地判2022年6月23日控訴審である大阪高判2023年4月27日は、いずれも、FC契約の解除は加盟店側の異常な接客対応やSNS上での本部に対する誹謗中傷を理由とするものであるとして、解除の正当性・有効性を認め、建物の引渡請求を認容しました。

武田塾の場合も、FC契約を解除した後に130m離れた場所に直営校を開校しようとしたなら、違った結論になったかもしれません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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