沢井製薬が医薬品の品質モニタリング試験を2015年以降、承認書と異なる方法で継続的に実施。発覚したきっかけと、なぜ不適切な検査が継続して行われてしまうのか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

少し投稿が滞った間に、複数の企業で不祥事が明らかになりました。今回取り上げるのはジェネリック医薬品で知られる沢井製薬のケースです。

沢井製薬の九州工場で製造するテプレノンカプセル 50mg「サワイ」の安定性モニタリングの溶出試験において、承認書と異なる試験方法を実施していたことが明らかになりました。

具体的には、2015 年以降、カプセルから内容物である顆粒を取り出して別の新しいカプセルに詰め替える作業を行った上で、当該詰め替え後の検体を用いて溶出試験を実施し合否判定を行う不正行為が継続的に実施されていた、というものです。

詳細は調査報告書にて確認してください。

製薬業界では、

  • 2021年に日医工が承認外の方法で医薬品を製造したことをきっかけに、事業再生ADR手続に至り上場廃止したケース
  • 2023年9月にアクティブファーマも同様の理由で富山県の立入検査を受けたケース

が相次いで明らかになっています。

今回の沢井製薬も承認外の方法による検査であり、同種の事案と言ってよいでしょう。

製薬業界各社は、承認外の方法による医薬品の製造や試験を実施していないかを点検することが喫緊の課題です。

発覚の経緯

調査報告書によると、沢井製薬で今回の不適切な検査が発覚したのは、九州工場の品質管理課に所属して半年程度の試験担当者が溶出試験を行ったところ、カプセルが溶解しないなどの試験結果が出たこときっかけです。

この試験結果を受けて品質管理課が調査を進めたところ、別の試験担当者から従前からカプセルの詰め替えを行っていたとの供述を得、全容が明るみになりました。

ポイントは、品質管理課に所属して半年程度の試験担当者による発見がきっかけという点です。

要は、不適切な検査を行うことについてまだ染まっていないが故に、不正と認識して声を挙げられたのです。

2015年に発覚した東芝不正会計事件も同様でした。東芝不正会計事件も異動して間もない従業員が会計の内容に疑問を抱いたことが端緒で、証券取引等監視委員会への告発があり、世の中を賑わす事態に発展しました。

不正が行われていることが当然の環境に身を置いていると、「ゆで蛙」のように、不正が行われていることに悪いことだとの抵抗感がなくなっていきます。不正であるとの認識すら芽生えないこともあります。

会社が把握したときには不正が開始されてから長年が経過し、その間に誰も違和感を覚えずに声を挙げていなかった、という例はよくあります。

社内不正を発見するためには、特定の部署の空気が淀み、滞留しないようにすることが必要です。

人事を随時ローテーションすることは、その点からも重要であることがわかります。

なぜ2015年以降継続してしまったのか

調査報告書では、不適切検査が2015年以降継続して実施されてきた原因を、人的要因(個人に原因があるもの)と、物的要因(物理的な点に原因があるもの)の2つの観点から整理しています。

人的要因

人的要因に起因する問題として、

  1. 安定性モニタリングを軽視する風潮の蔓延
  2. 上司の指示に疑問を持たずに従う傾向
  3. 試験関与者のGMP に対する理解の欠如

を挙げています。

このうち、1の安定性モニタリングを軽視する風潮や3の理解の欠如は、「何のためにこの試験を行っているのか」という試験の目的意識や制度趣旨を浸透させられていなかったと整理することもできます。

本件に限らず、業務の内容をマニュアル化していくと、往々にしてありがちです。

マニュアルどおりにそつなく、効率よく仕事を流すことにばかり重きが置かれ、なぜこの業務フローになっているかといった根本的な理由を浸透させられていないのです。

また、2の上司の指示に疑問を持たずに従う傾向も、効率化・合理化の偏重と、日頃の社内の空気の問題もあります。

沢井製薬の部署内がどのような空気感かは知りませんが、「上司の命令は絶対で、意見することは許されない」という雰囲気になると、部下は「自分を持って意見しても無駄なだけ」と次第にやる気がなくなり、上司の言われるがままに仕事を進めるようになります。

上司が部下に対して指揮命令権を持っていることは大前提とした上で、上司に疑問を呈したり意見できる余地は残しておきたいところです。

物的要因・組織的要因

物的要因に起因する問題として、

  1. 品質管理・品質保証の観点からの実効的な監督体制の不備
  2. 試験記録管理の不十分さ
  3. 試験を担当する品質管理部の業務過多及び人員不足

を挙げています。

この3つの理由を見ると、物的要因は組織に原因があるものと言い換えることもできます。

1の実効的な監督体制の不備や2の記録管理の不十分さは、業務や自社製品の安全性に対する過信も一因です。

今回は承認外の方法でモニタリング試験を行いました、

この一因として考えられるのは、「自社から安全性に問題がある製品が製造されることはない。だから承認された方法で試験することは時間も手間もかかって無駄なことだ」という思い込みです。これが過信といっても良いでしょう。

医薬品が人の口に入り、生命・身体の安全性にも影響があるとの認識が不足していたと言ってもよいかもしれません。

3の業務過多と人員不足は、沢井製薬に限らず、国内企業の多くが直面している問題です。

コンプライアンスやガバナンスの要請が高まるに連れ、チェックをしなければならない項目や手続が増え、それに対して人を割きたいのだけれど、社内にそれほど人はいない。また、求められる技術水準をもった人員も不足している。だからといって人件費のコストを考えると、そう簡単には増員できず、他社から技術を伴った人材をヘッドハンティングすることも難しい。というジレンマがどこの会社にもあります。

正直に言えば、会社が大きくなり上場し、社外からROA、ROE、ROIなどの指標によって判断され、それを意識した経営をすればするほど、業務過多と人員不足、さらには人的要因の元となった業務の効率化・合理化への偏重が起きやすいのではないかと思います。

上場なんて止めてしまった方が業務の質が上がるのでは?__と本件に限らず、成長が停滞している国内企業を見ていると、そんな疑問をずっと抱いています。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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