経産省が技術流出・軍事転用を防止するために輸出管理を強化することを検討開始。産業スパイの手法と、現時点で行える産業スパイ対策は?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

経産省が、2023年11月1日に開催された産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会で、技術流出・軍事転用を防止するために輸出管理を強化することの検討を開始しました。

検討の内容が内容だけに、配付資料、議事の内容のすべては非公開とされることになりました。

日経新聞の報道によれば、新たな国際安全保障環境に即した輸出管理など外為法関連の制度見直しが検討されるようです。

今回は、この検討の前提となっている産業スパイ事案の手法と、現時点で企業が行える産業スパイ対策について、です。

産業スパイの手法については、以前、網羅的に解説しましたので、そちらも参考にして下さい。

軍事転用可能な技術は、第三国経由で輸出させられる

国内企業が扱っている技術情報が軍事転用可能であることが明らかになった場合、海外の産業スパイは、その技術情報を入手するために、新規の取引を持ち掛けてきます。

当たり前ですが、新規取引を持ち掛けてくるときに「技術流出に協力してほしい」などと言ってくる産業スパイはいません。

産業スパイはその姿を隠し、日本から輸出が可能な国の会社の人間を装って、新規の取引を持ち掛けてきます。

日本から輸出可能な第三国にいったん輸出させ、その第三国から転々して目的地に軍事転用可能な技術を持ち込むのです。

実態に気がつかずに、この取引に応じて輸出してしまうと、外為法違反となるおそれがあります。

また、納期を短期に設定されるなど取引を急かされて、許可が降りる前に輸出してしまって、外為法違反となるパターンもあります。

2020年6月には、利根川精工とその社長が、軍用ドローンに転用可能な高性能モーター150個を中国企業に無許可で輸出しようとしたとして、2021年7月に外為法違反(無許可輸出未遂)で書類送検されました。最終的には2022年7月22日に不起訴になっています。

経産省は、2023年6月30日には、2014年から2022年にかけて生物兵器の製造にも転用可能な濾過用装置などを無許可で中国・ベトナムなどに違法に輸出したとして、貿易会社SEALSに対して、外為法に基づく警告を行いました。

軍事転用可能な技術以外にも、和牛や農産物などが同様に、第三国を迂回して、日本から直接輸出することが禁止されている国に流出しているケースも報じられています。

現時点でできる産業スパイ対策

輸出管理内部規程(CP)を作成する

外為法違反に巻きこまれないためには、担当者任せにするのではなく、輸出を伴う新規の取引を組織的に慎重に判断する、どんなに急かされても経産省の輸出許可をとってから輸出する、輸出に関する規制を網羅するなどの社内手続を整備することが最低限必要です。

そこで、内部統制のためにも、CP(Compliance Program)と呼ばれる輸出管理内部規程を作成することが必要です。

輸出管理内部規程(CP)は経産省に届け出ると、内容が適切であるかどうかを判断してもらえます。経産省が詳細を説明しているので参考にできると思います。

もちろん、規程を作成しても、社内でそれを守らなければ意味がありません。

  • 社内で輸出管理内部規程を周知、浸透させるための従業員教育を実施する
  • 輸出管理内部規程を守っているかをモニタリングすること

なども実施してください。

安全保障貿易情報センター(CISTEC)や商工会議所を積極的に活用する

実際に輸出をしようとする際には、それが外為法違反になるかどうか、許可申請が適切かどうか悩む場合も出てくると思います。

そうした場合には、安全保障貿易情報センター(CISTEC)や商工会議所に相談するのもよいと思います。

安全保障貿易情報センター(CISTEC)

安全保障貿易情報センターは、輸出管理相談や該非判定支援サービスを行っています。

商工会議所

日本商工会議所や東京商工会議所・名古屋商工会議所・大阪商工会議所では輸出管理体制構築に関する「中小企業等アウトリーチ事業」を行っています。

中小企業向けの安全保障貿易管理に関する専門相談窓口として、輸出管理に係る実務経験等が豊富な専門家に無料で相談できます。また、日頃から説明会なども実施しています。

経験や知識がない者が勝手に判断するのではなく、専門家のアドバイスを利用することで、外為法違反になってしまうリスクを回避しやすくなると思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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