ジャニーズ事務所の記者会見で運営会社FTIコンサルティングが「NGリスト」を作成・持ち込み。危機管理広報の目的を誤解していませんか?そもそもPR会社に任せることの是非。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ジャニーズ事務所が、2023年10月2日に故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に関して行った記者会見の場に、運営を委託されていたFTIコンサルティングが、会見で指名しない記者の名前や顔写真をまとめた「NGリスト」を作成、持ち込んでいたことを10月4日にNHKが報じ、FTIコンサルティングは、10月5日に謝罪のコメントを発表しました。

NHKのニュースサイトに「氏名NG記者」と題されたリストを拡大した写真が掲載されています。

10月6日付けのFRIDAYにはNGリストの実物が載っています。

ジャニーズ事務所は10月5日に関与を否定する声明を発表し、FTIコンサルティングに謝罪を要求していました。

今日は、危機管理広報の観点からNGリストの作成、持ち込みの愚と、そもそも危機管理広報をPR会社に任せることの是非について説明します。

NGリストの作成、持ち込みの愚

危機管理広報としての会見の目的を理解していない

報道によると、FTIコンサルティングは、NGリストを作成した目的について「限られた会場使用時間の中で会見の円滑な運営準備のために弊社が作成し、運営スタッフ間で共有したもの」と説明しています。

一見するともっともらしく聞こえますが、そもそも論として危機管理広報として行う記者会見の意味を間違えて理解しているようです。

危機管理広報として記者会見まで行う目的は、会見を通じて、信頼を回復し、事態を収拾することです。

ジャニーズ事務所が行った10月2日の記者会見では、社名変更、補償完了後の廃業、新会社への移行という大きく3つの内容を発表することで、新しい体制のガバナンスへの信頼を得ることが獲得目標だったはずです。

そうであれば、記者会見が長くなろうが、記者からの質問が出尽くすまでは質問を受け付け、それに真摯に回答し膿を出し尽くすことが、会見のあるべき姿でした。

それを見越して、会見の時間を余裕を持って確保する、不利益な質問にも正面から答えるべきでした。

指名しない記者のリストを作成すること自体が、この目的と真逆の行動です。

報道を見ていると、作成したリストを会場に持ち込んだことに非があるような意見もありましたが、そうではなく、そもそも指名NGリストを作成すること自体が危機管理広報としては間違いです。

そもそもNGリストを作成したら、そのNGリストが漏れたときにどうなるかを想像できない時点で、危機管理の意識の低さが伺えます。

手元資料を隠すことへの意識の欠如

危機管理広報としての会見の目的への理解が不十分なまま指名NGリストを作成し会場に持ち込んでしまったのだとしても、その時には、少なくとも手元にある資料が撮影されているとの意識を持って、手元を見せないことに徹すべきでした。

不祥事の会見をするときに、会見に臨む会社関係者の座席と記者との間にスペースを設ける理由、カメラマンなどにはさらに離れた場所に位置取りしてもらう理由は、手元資料を写させないためです。カメラマンは常に手元を狙っています。

例えば、2016年に三菱自動車が燃費不正の問題を起こしたときの会見では、カメラマンは出席者の手元資料を狙った写真を撮っています(下の写真ではそれに気づいて膝の上に資料を置いています)。

単に見た目が綺麗な会見場をセッティングするためではありません。

こうした目的を理解しないでいると、手元を見せないという意識が欠けてしまうのです。

目的を理解しないで形だけ整えるマニュアル仕事の愚がわかるケースです。

1回あたりの質問数を制御するのは当たり前

だからといって、記者が指示に従わずに質問することまでが許容されるわけではありません。

多くの記者からの質問を受け付けるために「指名された記者は1回につき1問まで、2問目以降があるときにはあらためて指名を待つ」とのルールをジャニーズ事務所側が設定するのは議事整理として当たり前です。

ただし、記者がルールを守らずに指名されずに質問を繰り返しているときには、会見に出席している役員ではなく、司会進行役がそれを制御すべきです。

危機管理広報としての会見をPR会社に任せることの是非

逃げの姿勢と他人事になってしまう

ジャニーズ事務所は、今回、FTIコンサルティングに会見の運営を委託しました。このケースに限らず、最近では、危機管理広報を外部のPR会社に委託するケースが増えてきました。

会社にしてみれば、危機管理広報に馴染みはないので自前ではなく外部の専門家に頼りたい気持ちはわかります。PR会社もそこを狙って営業をしています。

しかし、この会社の発想は非常にリスキーです。

というのは、この発想の根幹には「会見の場、記者からの追求を何とか乗りきりたい」との逃げの姿勢が見えるからです。

危機管理広報としての会見は、不正・不祥事に会社役員一同が正面から向かい合う姿を示し、それによって膿を出し尽くし、それを見た人たちからの信頼を得るために行うものです。

本来であれば、記者からコテンパンにやられるくらいのほうがいいのです。

コテンパンと言うと語弊があるかもしれません。

厳しい追及を受け、それが世の中の見方であることを実感し、その反省を生かして、再発防止策やガバナンス体制、コンプライアンス体制の再構築を図る契機にすればいいのです。

テクニックでその場を乗り切ってしまうとそれを実感し、反省する機会がなく、その後も再発防止策などが中途半端になってしまいがちです。事後で見ると、会社のためにはなりません。

もっと言えば、そもそも危機管理広報としての会見まで行う場面とは、会社にとっては命運を賭けた一大事の局面です。

自分の会社が死ぬかもしれないと言ったときに、その命運を外部のPR会社に託して、なんとかなりきろうというのは、役員の覚悟や本気度が足りないように見えてしまいます。

外部のPR会社に託した瞬間から他人事になってしまいます。

あくまでも役員や広報部門などが一丸となって自分たちでやるべきことはやり、その上で、わからない部分だけ手助けしてもらうくらいの関係であるべきです。

これは、危機管理広報としての会見だけではなく、不正・不祥事の調査を自社で行わずに、何でもかんでも第三者委員会に任せようとする最近の風潮でも同じです。あくまで自社で調査し、自社だけでは公平性や信頼性に欠くきらいがあるときにだけ第三者委員会に任せればいいのです。

会見にしろ調査にしろ何でもかんでも第三者に任せるなら、社長一同役員は不要な存在です。

情報統制の観点から

危機管理広報としての会見を行う場面では、そこで取り扱う情報はほぼすべて会社の命運に関わる情報です。

自分の会社が死ぬかもしれない局面で、正直に、外部のPR会社に会社の命運に関わる情報を提供できるでしょうか。

その覚悟があるなら、会見で記者に向けて説明すれば済む話しです。

PR会社を使う動機の一つに「出したくない情報があるから出さないで済む方法はないか」というのがあります。

そんな動機を抱いた時点で、危機管理広報としての会見としては失敗です。

また、危機管理広報としての会見を行う場面では、会社の命運に関わる情報のほとんどはインサイダー情報です。

外部のPR会社に委託する際には守秘義務契約は交わしているとしても、第三者にインサイダー情報をすべて共有することに抵抗感を感じないようなら、情報管理の意識も低いと言わざるを得ません。

危機管理広報としての会見の判断や内容に関わる会社の命運に関わる情報は自分たちで管理し、運営面だけはPR会社に任せるなどの棲み分けも必要です。

とはいえ、ジャニーズ事務所の1回目の会見では、司会進行役の女性が偉そうなどというコメントもSNSでは散見されました。危機管理広報で、私と同姓ということなら、もっとしっかりやってよーと忸怩たる思いでした。

危機管理広報の基本を学ぶためには

今日書いた内容は、拙著「危機管理広報の基本と実践」(古い本で今は中古でした入手できないようで済みません)で説明した内容や、10年以上前から危機管理広報のセミナーで広報担当者に向けて話してきたことです。

最後に宣伝です。

今年も10月16日に企業研究会主催で「危機管理広報の基本と実践」セミナーを行います。

新型コロナ禍に入ってから小規模開催になってしまっていますが、危機管理広報のテクニックだけではなく、「なぜそうすべきなのか?」という理由や実例を知りたい方はぜひ受講していただければと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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