社内の共有サーバ、共有フォルダでの情報の取扱いには要注意。日興證券従業員インサイダー事件の最高裁判例を振り返る。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

先日、ZOZOの中国子会社役員によるインサイダー取引について証券取引等監視委員会が課徴金を勧告したことについて書きました。

今日は、その中に引用した証券取引等監視委員会の図の中で、わざわざ「職務に関し知った」を強調していた部分に関する話しです。

「職務に関し知った」

上場会社等の役員等と公開買付者の役員等とがインサイダー取引を規制されるのは、インサイダー情報を「職務に関し知ったとき」に限られます。

取締役や執行役員などの役員が取締役会や経営会議などを通じてインサイダー情報を知ったときが典型です。

最近は、インサイダー情報を含むデータファイルなどを社内の共有サーバや部署内の共有フォルダに保存しているケースも少なくありません。

電子帳簿保存法が改正されると、意識しないうちに、共有サーバ、共有フォルダにインサイダー情報を含むファイルを保存していたなどというケースも増えるかもしれません。

そのため、役員に限らず、従業員が共有サーバ、共有フォルダに保存されているファイルを見て、インサイダー情報を知ってしまうことが今後増加することは容易に想像できます。

問題は、情報の保存管理の観点から、インサイダー情報であることがわからないように当事者名など一部情報を匿名にして共有サーバや共有フォルダにファイルを保存していたのに、担当者以外の従業員が共有サーバや共有フォルダでそのファイルの内容を見て、担当者の会話やネット検索によって得た情報を組み合わせるなど独自に調査してインサイダー情報の内容を特定したときにも、その従業員は「職務に関し知ったとき」に該当するのか、です。

「職務に関し知った」に該当するなら、その瞬間からインサイダー規制に復することになります。

これが争点になったのが、日興證券の従業員(当時)によるインサイダー取引事件です。

日興證券従業員インサイダー取引事件(最判2022.2.25)

事案の概要

事件の概要は、次のとおりです(最判2022.2.25から引用)。

C社の業務執行を決定する機関は本件公開買付けを行うことについての決定をし,平成28年7月11日,C社はA社との間で本件公開買付けの実施に向けた支援業務の提供を受けることを内容とするファイナンシャルアドバイザリー契約を締結して,A社のF部(以下「F部」という。)がその業務を担当していた。

F部では,ジュニア(上司の指示を受けて業務に従事する下位の実務担当者)のBを含むA社の従業者数名が本件公開買付けに係る案件を担当し,Bらは,上記契約の締結に関し,本件公開買付けの実施に関する事実を知った。

被告人は,F部のジュニアであり,本件公開買付けに係る案件の担当ではなかったが,Bと同じ室内で執務しており,電話で通話中のBの発言を聞き取ることができた。

F部に所属する従業者は,担当案件の公表前情報が担当外の従業者に知られないようにするため,発言に注意し,案件名等については社名が特定されないような呼称を用いることとされており,本件公開買付けに係る案件は「Infinity」と呼ばれていた

また,F部では,上司がジュニアの繁忙状況を把握できるようにするため,ジュニアは,担当業務の概要をF部の共有フォルダ内の一覧表(以下「本件一覧表」という。)の各自の欄に記入することとされており,F部に所属する従業者であれば本件一覧表にアクセスできた。

被告人は,平成28年7月27日までに,本件一覧表のBの欄を閲覧し,BがInfinity案件を担当しており,同案件は,A社とファイナンシャルアドバイザリー契約を締結している上場会社が,その上場子会社の株券の公開買付けを行い,完全子会社にする案件であるという事実を知った。

被告人は,同月27日,自席において,Bが,その席で電話により上司との間でInfinity案件に関する通話をする中で,不注意から顧客の社名として「C」と口にするのを聞き,Infinity案件の公開買付者がC社であるという事実を知った。

その後,被告人は,インターネットで検索してC社の有価証券報告書を閲覧し,関係会社の中で上場子会社はD社のみであることを確認し,本件公開買付けの対象となるのはD社の株券であるという事実を知った。

知人のEにあらかじめD社の株券を買付けさせて利益を得させる目的で,本件公開買付けの実施に関する事実の公表前にEに対して同事実を伝達し,Eにおいて,法定の除外事由がないのに,同事実の公表前である同月28日から同年8月3日までの間,証券会社を介し,東京証券取引所において,D社株券合計29万6000株を代金合計5326万8100円で買い付けた。

太字で強調したとおり、このケースでは、従業員(当時)は、アクセスすることができる共有フォルダ内のデータファイル(一覧表)を閲覧して、担当者と上司との電話での会話内容、ネット検索による有報の閲覧によって、TOBの対象がC社(イトーキ)の子会社であるD社(ダルトン)であると特定しました。

最高裁は、

F部に所属するA社の従業者であった被告人は,その立場の者がアクセスできる本件一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,F部の担当業務に関するBの不注意による発言を組み合わせることにより,C社の業務執行を決定する機関がその上場子会社の株券の公開買付けを行うことについての決定をしたことまで知った上,C社の有価証券報告書を閲覧して上記子会社はD社であると特定し,本件公開買付けの実施に関する事実を知るに至ったものである。
 このような事実関係の下では,自らの調査により上記子会社を特定したとしても,証券市場の公正性,健全性に対する一般投資家の信頼を確保するという金融商品取引法の目的に照らし,被告人において本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが同法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知つたとき」に当たるのは明らか

と、「職務に関し知った」に該当すると判断しました。

インサイダー情報を入手し、その内容を特定するまでの経緯がポイント

判例の言い回しをよく見ると、「本件一覧表を閲覧する」「Bの発言を知る」という職務に関して情報を取得する行為が2つ存在し、それによって、C社が上場子会社D社のTOBを行うことを決定をしたことまでを「知った上」で、最後に、有報を閲覧して自ら調査し、D社であると「特定」したとしても、「職務に関し知った」に該当すると判断したようです。

断片的な情報を組み合わせたときが、すべて「職務に関し知ったとき」に該当する、と判断したわけではないように思えます。

「職務に関し知った」に該当しない場合

例えば、裁判所は、インサイダーに関する課徴金の事例ですが、情報を入手した経路が以下の場合に「職務に関し知った」に該当しないと判断しています。

  • 証券会社の機関投資家向け営業員が、機関投資家からある会社の公募増資に関する憶測情報を入手したうえで、当該会社担当者に問い合わせて公募増資を認識し、友人に情報を伝達したケース(東京高判2017年6月29日)。
  • 証券会社の機関投資家向け営業員が、複数の顧客からある会社が公募増資をするのではないかとの噂を聞き、当該会社担当者に問い合わせて公募増資を認識し、友人に情報を伝達したケース(東京地判2019.5.30)。

これらの裁判例を整理すると、インサイダー情報を入手したきっかけや、その内容を特定するまでの経緯が「職務に関し知った」の判断の分かれ目のようです。

日興インサイダー事件は、情報を入手したきっかけが社内での職務行為で、内容を特定したのも社内での職務行為です。

これに対して、上記2例はいずれも、情報を入手したきっかけが外部からの憶測や噂で、その後に当該会社担当者に問い合わせて特定し認識したために、「職務に関し知った」に該当していない、としています。

今後の情報管理のあり方

インサイダー情報の漏えいを防ぐ情報管理の観点からは、共有サーバや共有フォルダにインサイダー情報を含んだデータファイルを保存しないことが理想です。

他方で、データファイルを個人が使用しているPCやタブレットなどの媒体に保存させることも、情報の散逸や外部からのウイルス感染対策などの点から避けたほうが無難です。

共有サーバや共有フォルダにデータファイルを保存することを前提に、共有フォルダへのアクセス権限、データファイルへのアクセス権限、ファイルに記録している情報に関する社内外で会話などは、今まで以上により一層注意をしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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