日本生命の営業部長が本人確認書類を偽造して生命保険契約をねつ造。生命相互会社のガバナンスの仕組みはどうなっているか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本生命の営業部長(当時)が、2021年4月から2023年3月にかけて、本人確認書類を偽造して約80件の生命保険契約をねつ造していたことが明らかになりました。

日本システム技術事件では、事業部長が取引先の印鑑を偽造して契約書をねつ造したことについて、取締役の責任が追及する代表訴訟が提起されました。

どちらも契約書の偽造というケースで共通しているので、日本生命の取締役も責任を追及されるのかもしれないとも脳裏をよぎりましたが、同時に、日本生命は株式会社ではなく「相互会社」なので、株主代表訴訟に匹敵する制度があるのだろうか?と疑問に思ったので、調べてみました。

今日は、その調べた知識の整理です。

保険会社のガバナンスの仕組み

監査役会設置会社である株式会社の場合

監査役会設置会社である株式会社の場合、会社法は、

  • 株主によって構成される株主総会
  • 代表取締役・取締役・取締役会
  • 監査役・監査役会、会計監査人

の各機関が相互に牽制し、取締役の責任は最終的には株主が代表訴訟によって追及することを想定しています。

なお、2000年に保険業法が改正され保険相互会社が株式会社化することが認められたため、多くの生命保険会社が株式会社化し、現在は、日本生命、住友生命、明治安田生命、富国生命、朝日生命だけが相互会社です。

監査役会設置会社である生命保険相互会社の場合

保険会社の場合、保険業法と金融庁のガイドライン(保険会社向けの総合的な監督指針)によって規律されています。

監査役会設置会社である生命保険相互会社の場合、保険業法が

  • 総代によって構成される総代会(保険契約者である社員によって構成される社員総会に代わるもの)
  • 代表取締役・取締役・取締役会
  • 監査役・監査役会、会計監査人

の各機関が相互に牽制することを想定しています。

株主代表訴訟に匹敵する制度は、社員による代表訴訟制度があります(保険業法53条の33、53の36が会社法847条を準用)。代表訴訟は総代ではないようです。

金融庁のガイドラインは、これに加えて、

  • 契約者懇談会
  • 評議員会

法律に定めのない任意の組織・機関として想定されています。

任意の組織・機関なので、どの程度の権限が認められているのか、役員への牽制力があるかはわかりません。各保険会社の定款の定め方次第なのかもしれません。

日本生命保険相互会社は、監査等委員会設置会社である相互会社です。具体的な機関については、公式サイトに掲載されていました。指名報酬諮問委員会も独自に設けているようです。

生命保険相互会社での社員代表訴訟の例

生命保険相互会社でも社員による代表訴訟は提起されています(住友生命政治献金社員代表訴訟事件(第一審;大阪地裁2001年7月18日、控訴審;大阪高裁2002年4月11日、上告審(不受理);最判2003年2月27日、日本生命政治献金社員代表訴訟事件(第一審;大阪地裁2001年7月18日、控訴審不明、上告審(不受理);最判2003年2月27日))。

いずれも生命保険相互会社が政治資金規正法の枠内で政治献金を行ったことについて、公序良俗に違反するとして取締役の善管注意義務違反が争われたものの、責任は否定されました。

なお、第一生命保険は、2010年4月1日に株式会社化した後、2004年度から2010年度までに出席予定のない国会議員の政治資金パーティーのパーティー券を購入したことが、政治資金規正法が禁じる「寄付」に該当するなどとして取締役の善管注意義務違反が争われたものの、責任は否定されました(第一審;東京地裁2015年5月28日、控訴審;東京高裁2016年7月19日)。

過去に起きた代表訴訟はいずれも政治色の強いものでしたが、このように生命保険相互会社でも代表訴訟は提起されています。

株主代表訴訟は6か月前から引き続き株式を保有する単元株主であることが必要でした。そのため、代表訴訟の原告適格を取得するためにある程度の資金が必要でした。

しかし、相互会社の社員代表訴訟では、6か月前から引き続き社員であること、すなわち6か月前から引き続き生命保険契約者であれば代表訴訟の原告適格を取得することができます。原告になるハードルが低いです。

そのため、今回のケースに限らず、今後、生命保険相互会社で不正・不祥事が起きた場合には、取締役のガバナンス(内部統制)に対する責任を追求する代表訴訟は、株式会社以上に起きやすいかもしれません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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