第三者委員会の調査報告書はすべて信用できると誤解していませんか?第三者委員会の調査報告書の事実認定・評価が裁判所に否定されるケースもある

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年5月17日に、第三者委員会の設置と会社の信頼回復に関する記事を投稿しました。

この記事では、不正・不祥事を起こした会社が第三者委員会を設置することについて、

  • 不正・不祥事は当事者が調査するよりも第三者が調査した方が、公正・中立な調査、徹底した調査が行われた「雰囲気」が出ること
  • 第三者が調査して問題がないとの結果が出たとしても、その調査結果によって信頼を取り戻せるかは、第三者委員会のメンバーの公平・中立性が確保されているかと、第三者委員会に依頼した調査の目的・内容次第であること

を書きました。

これに関連する話題として、5月20日の産経新聞に、第三者委員会の調査結果の事実認定・評価が裁判所によって否定されたスルガ銀行の事例を紹介する記事が掲載されていました。

そこで、今回は、第三者委員会を設置した取締役・取締役会は、調査報告書の内容をどこまで信用してよいのか、調査報告書が信用できるかどうかはどう判断すべきか、について考えます。

第三者委員会を設置した取締役・取締役会の目線での記事です。

スルガ銀行の第三者委員会の調査報告書の事実認定・評価を否定した裁判例

かぼちゃの馬車事件とは

スルガ銀行の第三者委員会の調査報告書の信用性が問題になったのは、シェアハウス向け不正融資(かぼちゃの馬車事件)を主導したことを理由に2018年11月に懲戒解雇された元専務執行役員が、懲戒解雇の有効性などを争った裁判例です。

かぼちゃの馬車事件の内容をわかりやすく要約すると、以下のとおりです。

  • 女性専用シェアハウス(かぼちゃの馬車)の所有を希望する者1258人に対して、スルガ銀行は、不動産を取得するための資金として総額2035億円を貸し付けた。
  • 行内での審査を通しやすくするため、あるいは、より多額の融資を受けられるようにするために、スルガ銀行の行員が書類を改ざんして、借り入れ希望者の年収、預貯金額、土地売買価格を水増しするなどの不正が行われた。

この事件で、元専務執行役員が、絶大な権力を背景に審査部門に圧力を加え無理に融資を承認させたことを理由に懲戒解雇されたのです。

調査報告書と関係者の処分

スルガ銀行は2018年5月15日に危機管理委員会による調査結果を受領し、同日、第三者委員会を設置。9月7日、第三者委員会の調査報告書を公表しました。

スルガ銀行は調査報告書で認定された以下の事実をもとに関係者の懲戒処分を行いました。

  • 9月7日、代表取締役会長、社長ら5名の役員が引責辞任
  • 11月27日、元専務執行役員は、審査部門に強い圧力を加えて融資審査を形骸化させたこと、副社長による指示に反し不適切融資を自ら積極的に推進・継続させたこと、部下・営業店社員に対する管理監督義務を怠ったことを理由に懲戒解雇
  • 11月27日、その他117名の従業員が懲戒処分

これに対し、元専務執行役員が、懲戒解雇の有効性(無効性)等を争って訴えを提起したのです。

東京地裁2022年6月23日の判断

東京地裁2022年6月23日は、懲戒解雇事由を認めるに足りる証拠がないことを理由に、懲戒解雇を無効と判断しました。

元専務執行役員が審査部門に強い圧力を加えて融資審査を形骸化させたと第三者委員会が認定した部分について、以下のように判断し、調査報告書の事実認定を覆しています。

なお、引用中の原告が元専務執行役員、被告がスルガ銀行です。

日時や対象となった案件の具体的内容、審査部と原告との意見の具体的な対立点等が特定されているものは極めて限られており、その余については各証言を裏付ける客観証拠もなく、また、審査部に所属し、シェアハウスローンを巡る一連の問題に係る責任の所在に強い利害関係を有しており、原告に不利な証言をする動機を有する者らによるものであることを考慮すると、原告の上記主張を裏付けるに足りるものとはいえない

(中略)

原告が、審査部幹部及び審査役に対し、審査を承認するよう強く求めることがあったとしても、原告は、平成16年4月以降は営業本部△△本部長として、平成27年4月から平成29年3月までは営業本部長(カスタマーサポート本部長)として、同年4月からは営業本部△△長として、営業を推進する立場にあったのであるから、この点において、審査部とは本来的に対立関係にあったといえ、個別の融資案件についても、原告と審査部との意見が対立することは当然に想定されるところである。審査担当者には、適正に融資審査をすべき職責があるのであるから、原告の要求について業務として正当化される程度を超える問題があると考えるのであれば、審査部長又は審査部管掌取締役に対して対応を求めたり、信用リスク委員会や経営会議、取締役会等で問題にしたりすることによって是正を図るべきなのであって、そのような措置も取らないまま、原告からの要望であることを弁解として稟議書等に記録するのみで、不適切と考える融資の審査を承認していたとすれば、当該審査担当者は職責を放棄していたといわざるを得ない。そのような審査担当者の不適切な対応の結果、原告が承認を求めた融資案件の審査が承認されたからといって、原告が「無理に押し通した」と評価することはできない

(中略)

原告の不当な圧力により、回収可能性に問題のある融資が次々と実行され、被告の融資審査が形骸化させられたことは、承認すべきではないと考えたものの承認せざるを得なくなった審査担当者の無念な思いが審査記録中に記録された事例が200件以上あることから裏付けられるとも主張し、資料(乙15の1、15の2)を提出する。
 しかし、上記資料の記載内容からは、具体的にどのような融資案件が対象になっているのか(例えば、どのような点で回収可能性に問題がある案件であったのか、実際に融資を受けた顧客に債務不履行が発生した案件なのかどうか)、原告からどのような圧力を受けたのかも判然としないものであって、上記資料の記載をもって、原告の不当な圧力によって審査が歪められ、回収可能性に問題のある融資が次々に実行されたことを認定することは困難である。審査部には、融資実行に否定的な意見を有する場合には、審査を通さない権限と責任があるのであって、原告から不当な圧力を受けていると認識した場合には、審査部長又は審査部管掌取締役に対して対応を求めたり、信用リスク委員会や経営会議、取締役会等で問題にしたりすることによって是正を図るべきなのであって、それをせずに、審査部限りでの記録を残しただけでは、審査部としての責任を果たしたことにはならない

2022年6月23日東京地裁平31年(ワ)5925号 

スルガ銀行判決の内容から学ぶ、信用性がある調査報告書の作り方

この判決から学べるのは、第三者委員会が作成した調査報告書だとしても、第三者というだけでは事実認定や評価などに信用性があるわけではなく、信用性できるかどうかは報告書の内容次第である、ということです。

では、取締役・取締役会は、第三者委員会が作成した調査報告書で認定された事実や評価を信用できるかどうかは、どのような基準で評価・判断したらよいでしょうか?

東京地裁が、スルガ銀行の第三者委員会による事実認定・評価を覆した理由は3点に集約できます。

  1. 元専務執行役と対立する部署の人たちの証言だから信用できない
  2. 圧力を掛けられた審査がいつ、どのような内容か具体的に特定できていないどこに問題がある審査案件だったのか、圧力によって何が変わったのかが不明確)
  3. 不当な圧力については部署内だけではなく組織的に是正を図るべきなのにそれをしていない

の3点です。

そうだとすると、調査報告書が認定した事実や評価を信用できるかどうかは、

  1. 不正・不祥事が部署の対立から起きた場合には両部署からヒアリングしているか。
    ハラスメント案件なら加害者側・被害者側の両方からヒアリングしているか。
  2. 不正・不祥事の指示や圧力の内容は5W1Hを可能な限り特定され、かつ、指示や圧力があったことで何がどうかわったのか前後の差分を明確になっているか。
  3. 社内のガバナンス体制(特に相談、報告体制や監視、牽制機能)が利用されたか、利用されなかった理由はなにか。

まで言及されているかを考慮して判断する必要がある、と言えます。

要は、取締役も、裁判官と同様に、調査報告書に記載されている事実や評価が、どのようなプロセスを経て、その事実を認定したのか、その評価をしたのかを確認する必要がある、ということです。

事実認定や評価のプロセスが調査報告書に記載されていない場合には、取締役・取締役会は、調査報告書の内容を鵜呑みにしてはいけない、ということです。

第三者委員会が恣意的に偏った調査報告書を作成する可能性があること、先入観に基づいて調査報告書を作成する可能性があることなどを考えれば、どのようなプロセスでその事実を認定したのか、評価をしたのかを確認することは、ある意味当然です。

第三者委員会の目線でいえば、裁判官による判決起案と同程度に思考プロセスを調査報告書に記載する必要があるということです。

まとめ

第三者委員会を設置する場面は、会社が不正・不祥事を起こしたときなので、どうしても会社の取締役・取締役会は弱い立場です。

そのため、第三者委員会が提出してきた調査報告書に「信用できない」「調査不足」などと不平・不満を言いにくいかもしれません。

しかし、「第三者」が作成したからといって鵜呑みにすることは許されません。

いわゆる「信頼の原則」(内容が不合理であるなど疑義がない限りは、取締役・取締役会は信頼してよい)は、第三者委員会の調査報告書にも当てはまります。

第三者委員会を設置した取締役・取締役会も自分たちの目で、内容の合理性、具体性などに照らして調査報告書の信用性を独自に評価することが必要です。

場合によっては、第三者委員会に再調査を求めることがあっても良いでしょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。