テレワークを続けるか、原則出社に戻すか。安全配慮義務や職務執行の効率性確保、ライフスタイルの多様性を考慮して判断を。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

今日はGWの最終日です。
あいにく東京は雨なので、GWとはいえ外出する気分にはなりません。

明日(5月8日)から新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」に移行します。これに伴い、テレワークを止めて出社に戻そうという動きがあるようです。

しかし、原則出社に戻すか、それとも、テレワークを続けるのか(併用も含み)を考えるに当たって、安全配慮義務や職務執行の効率性の確保体制の整備義務についての意見があまり見られないので、今日はその点に触れます。

なお、私自身は出社でもテレワークでもどっちでも良いと思ってますので、うちの事務所では今後も併用を続けます。

テレワークか原則出社か

テレワークを止める会社は、生産性、コミュニケーションなど対面の重要性をその理由としています。IT系であるGAFAでさえ、そうした理由でテレワークを止めようとしています。

これに対して、テレワークを続ける会社は、生産性が下がらなければいい、人手不足の解消などをその理由としています。

どちらの判断も頷けます。

ただ、テレワークを続けるのか、原則出社に戻すかを判断するにあたっては、生産性などの他に安全配慮義務と職務執行の効率性確保体制の整備義務についての視点や、育児や介護を抱える従業員などライフスタイルの多様性の確保の視点も持って欲しいと思います。

安全配慮義務の視点

5類移行後の安全配慮義務の内容

安全配慮義務というのは、従業員が業務によって生命、身体、メンタルに害が生じないように会社と取締役は配慮しなければならない義務です。
配慮ができずに生命を落とした、傷害が発生した、メンタルを病んだなどの場合、会社と取締役には損害賠償責任が発生します。

これを新型コロナウイルスについてあてはめて考えてみましょう。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」に移行しますが、新型コロナウイルスが完全に安全であると評価されたわけではありません。季節性インフルエンザと同等と評価されるようになっただけにすぎません。

つまり、引き続き、会社や取締役は、季節性インフルエンザが流行っている時期と同等の安全配慮義務は負っているということです。

職場や通勤経路で新型コロナウイルスに感染してしまい入院や通院することになった、最悪後遺症が発生したときには、会社や取締役は安全配慮義務違反としての責任が発生する、いうことです。

安全配慮義務の観点から検討すべきこと

季節性インフルエンザが流行っている時期と同等の安全配慮義務としてまず検討すべきことは、

  1. 社内でのマスクの着脱の是非

  2. 体調が悪い者の出社の是非(出社したときの帰宅命令の是非)

です。

最近は街中ではマスクをしない人が増えてきました。私も混んでいる電車の中や人が多い場所を除けば、基本マスクはしていません。

では、原則出社に戻したときにマスクをどういう扱いにすればよいでしょうか?

現時点では、マスクは絶対にして欲しいという人ともうマスクをしなくても良いと考えている人と二分されると思います。

原則出社に戻すなら、会社と取締役は社内でのマスクの着脱についての方針を出すことは必要です。季節性インフルエンザと同等になったというのは、そういうことです。

そうした方針を会社が決めないと、職場が混乱することも容易に想像できます。

新型コロナウイルスに感染していない従業員の生命、身体を守るためにはどうすべきという観点から方針を考えてください。

また、体調が悪い者の出社の是非、出社したときの帰社命令も同様です。

季節性インフルエンザの場合には、風邪様の症状が現れたときには社内にインフルエンザが蔓延しないように出社しないように命じていたと思います。
中には、風邪様の症状を持つ従業員が出社することを許容し、職場がインフルエンザで全滅したということも耳にしますが・・。

同じことをを、原則出社に戻した後にも考える必要があります。

新型コロナウイルスに感染していない従業員の生命、身体を守るという安全配慮義務の観点のほかに、会社の業務を滞りなく継続するためにはどうすべきかという観点から、体調が悪い者の出社、帰社命令についての方針も決めて下さい。

安全配慮義務を負っているのは会社と取締役なので、これらの方針は最終的には取締役会で決める事柄です。人事部任せにしないようにしてください。

職務執行の効率性確保体制の整備義務という視点

取締役・取締役会は、内部統制、ガバナンスの整備義務の一貫として、職務執行の効率性確保体制の整備義務を負っています。
会社法施行規則98条1項3号と100条1項3号に定められています。

原則出社に戻すのかテレワークを継続するのかにあてはめると、どちらがスムーズに職務執行できるのかを考える必要があるということです。

生産性やコミュニケーションの議論は、ここに当てはまります。

通勤のラッシュに飲み込まれないで自宅でゆっくり仕事したほうが生産性が上がるという人がいる一方で、自宅ではONとOFFの切り替えができないので生産性が下がるという人もいます。

仕事中の雑談がないことで自分に与えられた仕事をこなすことに集中できるから生産性が上がるという人がいる一方で、ちょっとした雑談がないからアイデアが生まれず、また同僚に教えてもらうことができないので生産性が下がるという人もいます。

どちらも一長一短です。

職務執行の効率性の確保を考えるに当たっては、情報管理という観点も忘れないようにして欲しいです。

テレワークをきっかけに自宅や個人のPCやタブレットを経由して情報が漏えいしてしまえば、その対処に追われることになり、生産性は著しく下がるからです。

もちろん、会社の信用も低下します。

私の場合は、企業からの相談に関わる仕事や訴訟の準備については守秘義務の問題があるので事務所で行い、一方で、雑誌などの原稿の執筆や集合研修などのレジュメの作成はテレワークで行ったりしています。
情報管理と効率性の確保の観点からの併用です。

従業員のライフスタイルの多様性への配慮という視点

テレワークか原則出社か、周りの動向に合わせながら考えるという会社も多いかもしれません。

その際には、従業員のライフスタイルの多様性も考慮して欲しいと思います。

テレワークが浸透したことによって、小さいお子さんがいる家庭や介護をしている家庭では、自宅で働けるようになったことで働きやすくなった人や、会社を辞めずに働き続けられてよかったという人もいます。

こうした今までには見えにくかった新しい問題が新型コロナ禍で顕在化しました。
特に介護については、団塊世代の高齢化に伴い、今後、増えていくことはあっても減ることは当分ありません

育児や介護を抱えている人が会社を辞めることなく、仕事を続けられるようにするにはどうすればよいか?

画一的に判断するのではなく、ライフスタイルの多様性を意識しながら柔軟に判断して欲しいと思います。

まとめ

原則出社に戻すかテレワークを継続するか、その判断は、会社の事業のことだけを考えるのではなく、従業員の生命や身体の安全、また従業員のライフスタイルにも影響するということを忘れないようにして欲しいです。

介護や育児まで視野に入れながら判断するというのは、実は、企業の社会的責任(CSR)の問題でもあると言えるかもしれません。

CSRまで踏まえて考えると、原則出社に戻すにしても、テレワークを使いたいときに使えるという柔軟な働き方を認めるのが望ましいのではないでしょうか。

つまり、原則出社とテレワークの継続というのは、どちらを選ぶべきかという二択ではないということです。

単に、どのような場合にテレワークができるのかの社内ルールが決まっていない会社は、そのまま放置せず、テレワークができる場合の社内ルール(事前申請なのか当日申請でもよいか、出社とテレワークの比率を定めるか等)を作る必要が出てきただけと整理するのが良いと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。