正直者が馬鹿を見ない社会を作りたい

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

GW2日目、いかがお過ごしでしょうか。
私は、事務所の営業的には休業日にしていますが、ちょっとだけやることがあるので事務所には来ています。

今日も休みモードとして堅い法律やニュースの話題ではなく、私の弁護士として「志」の話をしようと思います。

よく訊かれる「志」に関する質問や話題

この仕事をしていると、お客さんや友人から「志」というか、心の持ちようについての質問や話題がよく出ます。

よく訊かれるベスト3は、

  1. 「相談ばっかりうけて、ストレス溜まりませんか?」
  2. 「悪いことをした会社から相談を受けるとき、どういうモチベーションでやってるのですか?」
  3. 「なんで弁護士になったんですか?」

でしょうか。

これらの質問に答えようとすると、仕事の内容や特徴から順を追って説明する必要があります。

相談の多くは、社内で結論が出ないものや極秘案件

私の場合は、お客さんは会社です。しかも、相談される内容の多くは、不正や不祥事に関わる危機管理案件です。

それ故に、私のところに持ち込まれる相談の多くは、不正や不祥事の内容について、社内で十分に調査、議論、検討を重ねた末、それでも判断に悩むもの、結論がでないもの、結論は出したけれど自信がないものです。

社内で検討して結論を出しても自信が無い場合には、「社内で協議してここまで行ったけれど、これで良いか?今後の方向性はこう考えているけれど、それでよいか?」と確認しにくる会社もあります。

また、社長や一部の役員しか知らない案件が相談されるときもあります。
経営を左右する問題であったり、役員に直接送付された内部告発などです。

不正や不祥事の規模が小さくても、社内で判断が分かれたり、経営陣がわざわざ社外の弁護士に相談したいという案件であれば、それはその会社にとっては重大事です。

せっかく頼りにしてくれたのに、私が判断を放棄するわけにはいきません。

「今日は結論が出せないから、考えておきます」などと長引かせて逃げることもできません。

難しい案件でも正面から向かい合って結論を出し、それがピタリとハマって、私が出した結論や具体策で危機が解消すれば、これほどのやりがいはありません。

緊急事態、危機管理という特性

不正や不祥事が起きた、会社の存亡や生死に関わる重大な不祥事が発覚した、事故が発生したという緊急事態であれば、なおさら、私が判断を放棄したり、逃げることはできません。

30分〜2時間という短い時間の内で

  • 事実関係を整理する。
  • 社内での議論の状況、なぜ判断が分かれているのかを伺う。
  • 結論を出し、お客さんが会社に戻った後に何をやるべきかを具体的に落とし込んで提案し、その理由や目的も含めて説明する。
  • 時には他社事例なども踏まえて紹介する。

こういったことをしなければなりません。

ここで私が出した結論や具体策が間違っていれば、相談された案件の内容が悪化します。
最悪の場合、会社にダメージが発生し、潰れてしまうかもしれません。

そうなると、私の責任は重大です。

しかも、わざわざ私のところに相談に来ていただいているお客さんが期待しているのは、法律論だけで片付けるのではなく、会社の信頼回復や信頼維持に繋がるような危機管理の側面からの結論や事案解決策の提案です。

弁護士であることを盾にして「法律ではこうなってます」と答えるだけなら、相当気楽でしょう。

しかし、ありきたりの答えをするだけだったら、私へのニーズはありません。

  • 「法律ではこうかもしれないし、内容もそれで十分だけれど、相手への説明の仕方を失敗すると火に油を注ぐことになる。こういうアプローチをした方がいいのでは」
  • 「CSRの観点を踏まえると、ここではこういう対応や対外公表をしないとお客さんだけではなく、世の中や従業員の心が離れていきます」
  • 「お客さんに言われるがままに対応すると、余計な支出をしたことになり、今度は株主から取締役が責任追及されます」
  • 「最近の傾向では、他社では、この案件では、ここまでやるのが一般的になっている。最低限の対応だけでは、法的責任は満たしたことになるかもしれないけど、時代遅れの会社に見られます」

などと、社会的責任(CSR)や最近の他社事例のトレンドと、会社や取締役の責任とのバランスを考えながら、結論を出すことが求められています。

それだけに責任は重大ですし、やりがいもあります。

相談された件数に比例して責任も増える

お客さんにとっては、私に相談しているのは、その1案件限りかもしれません。

しかし、私にとってのお客さんは、その1社、その1件だけではありません。

1つの会社からでも複数案件の相談を受ければ、その案件数に比例して、私の責任は重大さが増えます。
複数の会社からの相談を受ければ、相談を受けた数に比例して、私は責任の重大さを抱え込みます。

だからといって、責任から逃れようとして、1社、1案件を軽く見て、手を抜くこともできません。

わざわざ相談しに来てくれた目の前の会社に失礼です。

そもそも前提として、正直な会社が信頼を回復しようと真面目に取り組んでいるなら、そういった会社を助けたいと思っています。

なので、そうした会社のためなら頑張れます。

私の「志」

前置きが長くなりました。

冒頭に書いた3つの質問への答えは

  1. 「相談ばっかりうけて、ストレス溜まりませんか?」

    ⇒責任の重大さ故にストレスは溜まります。ただ、ストレスが溜まっても、自分がやりたい仕事、つまり、正直な会社が信頼を回復しようと真面目に取り組んでいるなら、そういった会社を助けたいという気持ちがあるので、耐えられます。

  2. 「悪いことをした会社から相談を受けるとき、どういうモチベーションでやってるのですか?」

    ⇒幸い、私のところに相談に来る会社は不正や不祥事から信用を回復するために、本気でまじめに取り組む会社ばかりです。
    そうした正直な会社、まじめな会社が馬鹿を見ないように助ける
    これがモチベーションになっています。

  3. 「なんで弁護士になったんですか?」

    ⇒自己紹介の日記でも書きましたが、元々は不正を糺す検察官志望でした。検察官になりたかった理由は、不正を糺す姿が格好良かったからです。しかし、司法修習時代に、企業から相談を受けることで、不正や不祥事の発生を予防する、不正や不祥事を起こした時に自浄努力で対処する方法があることを知りました。検察官として処罰を目指すよりも、直接、企業に入っていけるなら、その方が不正を糺すという目的は達成しやすい。そう考えて弁護士になりました。

結局、すべての根幹になっているのは、「正直者が馬鹿を見ない社会を作りたい」という想いです。

正直にコツコツやっている会社より、不正を働く会社が栄えるのはおかしい。
不正や不祥事を起こした後にまじめに取り組む会社より、不正や不祥事を隠したり、見て見ぬ振りをする会社が栄えるのはおかしい。

正直に働く会社、コツコツとやっている会社の助けになれる存在になりたいと思っています。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。