宝塚歌劇団がファンアート禁止宣言。二次創作の限界と、著作権を保有している企業のスタンスを考える。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

宝塚歌劇団が、4月20日、ファンアートを禁止する回答を公式サイトに掲載したことがSNSで話題になっています。

そこで、今回は、二次創作が著作権やパブリシティ権に照らしてどこまで許されるのか、二次創作の限界と、著作権を保有している企業のスタンスについて考えてみようと思います。

宝塚歌劇団の見解

宝塚歌劇団は、公式サイトの「よくある質問」の中に「著作権」というカテゴリーを設けています。

ここに「出演者のイラストを描きました。SNSに投稿してもいいですか?」との質問と、その回答を掲載しました。

要点は、以下の2つです。

  • 商用利用・個人利用に限らず、イラスト化は肖像権やパブリシティ権の侵害にあたる可能性がある
  • イラストを個人利用する場合は制限はない。しかし、SNS・ネットへの投稿、SNSのアイコンやヘッダーでの利用、印刷物への掲載、その他すべて許可のない掲載は認めない

宝塚歌劇団という歴史と品格のある歌劇団という特性があるからでしょう。
宝塚歌劇団の品格などの世の中からのイメージを守るために、イラストという二次創作に対して結構厳しい姿勢を示した印象を受けます。

一般的な事業会社に置き換えれば、自社そのもののイメージ、自社の商品やサービスのイメージが下がらないようにあらかじめ対処した、と理解できます。

宝塚歌劇団の出演者の写真(舞台写真およびそれ以外もすべて含みます)、公演チラシ・ポスター、映像、芸名、台詞・歌詞、衣装、音源、小道具・舞台装置、各種ロゴマーク等の著作権・肖像権・パブリシティ権は、宝塚歌劇団やその他の権利者に属します。
商用利用・個人利用に限らず、これら宝塚歌劇団が権利を有する著作物等や出演者の肖像を流用することはお断りしており、イラスト化に関しても肖像権やパブリシティ権の侵害にあたる可能性がございます。
個人様が描かれたイラストをご本人様が所持されることに関しての制限はございませんが、個人様のホームページやブログでの掲載、Twitter、Instagram等のSNSを含むインターネット上への投稿、SNS等のアイコンやヘッダーでの利用、印刷物への掲載、その他すべての許可のない掲載はご遠慮くださいますようお願いいたします。

宝塚歌劇団よくあるご質問お問い合わせ

二次創作は著作権・パブリシティ権の侵害なのか?

原則として著作権・パブリシティ権の侵害

宝塚歌劇団が禁止したイラストのような二次創作は著作権・パブリシティ権の侵害といえるのでしょうか。

二次創作は著作権法では二次著作物という表現をされます。
二次著作物は、原則として、原著作物の著作権侵害です。

著作者の同一性保持権(意に反して改変されない権利)、翻案権(脚色して、原著作物の内面は維持しながら外面だけ変更する権利)の侵害になるからです。
SNSなどネットに投稿すれば公衆送信権の侵害にもなります。

そのため、宝塚歌劇団の男役や女役などの出演者が演じる歌劇、ロゴマークなどをイラスト化することは、著作権侵害になります。

また、宝塚歌劇団にとって男役や女役などの出演者は人であると同時に商品です。
出演者としての人気や知名度、役柄、ポジションなどがお金に変わります(パブリシティ権)

宝塚歌劇団が写真からカレンダーや写真集を作成したり、出演者のグッズを販売することなどが典型です。宝塚歌劇団がイラスト化して商品化することも可能です。
そのため、許可なく二次創作することは、人の肖像権や商品のパブリシティ権の侵害にもなるおそれがあります。

今回、宝塚歌劇団が質問に対する回答という形で見解を示したのは、今後、著作権・肖像権・パブリシティ権の侵害を取り締まる可能性があることを示唆したものだと言ってよいでしょう。

二次創作の著作権侵害が問題になった事例

二次創作が著作権を侵害するとして刑事事件に発展した事例や多額の損害賠償を請求された事例も発生しています。

有名な事例としてはピカチュウ同人誌事件があります。

1998年に、任天堂が告訴したことにより、ポケットモンスターのピカチュウをアダルト漫画した同人誌の作者が著作権侵害を理由に逮捕・勾留され、略式起訴により罰金10万円を科せられたという事件です。

なお、二次創作と言えるかは微妙な事例ですが、マリカー(MARIモビリティ開発)がレースゲーム「マリオカート」の略称「マリカー」を社名などに用い、利用者にマリオのコスチュームを貸与していたケースでも、任天堂は、不正競争防止法違反や著作権侵害を理由に、マリカーとその代表取締役に対して差止や損害賠償などを請求しました。損害賠償は5000万円が認められました(最高裁が被告らの上告を棄却・2020年12月24日)。

最近では、ファスト映画事件があります。

2000年に、映画を10分〜20分ほどに短縮して編集したダイジェスト映画(ファスト映画)を配信したYouTuberが著作権侵害を理由に懲役2年、執行猶予4年、罰金200万円の有罪判決となった事件です(仙台高裁2021年11月16日)。

ファスト映画では、映画会社が20億円もの損害賠償を請求し、2022年11月7日には5億円の損害賠償が認められた事例もあります。

安易に他人の著作物を題材にすると、想像以上の制裁が課されることは認識しておいた方が良いと思います。

許される二次創作

二次創作(二次著作物)が一切許されないかというと、そうではありません。原著作物の同一性保持権、翻案権、公衆送信権やパブリシティ権を侵害していなければ許されます。

設定を題材にしただけの場合

同一性保持権、翻案権、公衆送信権、パブリシティ権を侵害していなければ、二次創作は許されます。

有名なのは、ルパン三世です。

この作品は、モーリス・ルブランの「探偵小説アルセーヌ・ルパン」をもとに、その孫という設定で創作されています。

設定(思想・感情)を題材にしただけなので著作権侵害にはなりません。また、キャラクター(小説の背景)には著作権が発生しないので、こちらも著作権侵害にはなりません。

例えば、宝塚歌劇団と似たような歌劇団という設定で、オリジナルのキャラクターやオリジナルのストーリーで小説や漫画を描いたときには、著作権の侵害にはなりません。

著作権者の二次創作のガイドラインの範囲内で使用している場合

原著作物の著作権者が承諾すれば、二次創作することは著作権侵害にはなりません。

最近では、Cygamesがウマ娘プリティダービーの二次創作を認めていることが良く知られています。

ただし、ウマ娘プリティーダービーもまったくの制限がないわけではありません。Cygamesは二次創作をする場合のガイドラインを出しています。

ガイドラインの中には、守れないときには法的措置を検討する場合もあることが明示されています。著作権侵害になるからです。

「ウマ娘 プリティーダービー」の二次創作のガイドライン

「ウマ娘 プリティーダービー」の二次創作のガイドラインについてご案内いたします。

本作品は実在する競走馬をモチーフとしたキャラクターが数多く登場しており、馬名をお借りしている馬主の皆様を含め、たくさんの方々の協力により実現しております。
モチーフとなる競走馬のファンの皆様や馬主の皆様、および関係者の方々が不快に思われる表現、ならびに競走馬またはキャラクターのイメージを著しく損なう表現は行わないようお願いいたします。
具体的には「ウマ娘 プリティーダービー」において、以下の条項に当てはまる創作物の公開はご遠慮ください。
本作品、または第三者の考え方や名誉などを害する目的のもの
暴力的・グロテスクなもの、または性的描写を含むもの
特定の政治・宗教・信条を過度に支援する、または貶めるもの
反社会的な表現のもの
第三者の権利を侵害しているもの

本ガイドラインは馬名の管理会社様との協議のうえ制定しております。
上記に当てはまる場合、やむを得ず法的措置を検討する場合もございます。

本ガイドラインは『ウマ娘』を応援していただいている皆様のファン活動自体を否定するものではございません。
皆様に安心してファン活動を行っていただけるよう、ガイドラインを制定しておりますので、ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。

また、本ガイドラインに関するお問い合わせには、個別でのお答えはいたしませんのでご了承ください。

ウマ娘プロジェクトは名馬たちの尊厳を損なわないために、今後も皆様とともに競走馬やその活躍を応援してまいります。

「ウマ娘 プリティーダービー」の二次創作のガイドライン

ウマ娘プリティーダービーに限らず、最近では、こうした二次創作のガイドラインを出しているケースが増えています。

もし、二次創作でイラストを作成したり、小説を書いたりや漫画を描こうと考えている場合には、ガイドラインの有無を確認しておいたほうがよいでしょう。

著作権を保有している企業のスタンス

宝塚歌劇団、任天堂、Cygamesの例を見ればわかるように、二次創作を認めるかどうかについては企業の姿勢が分かれています。

現在は、コミケでの同人誌の販売やSNSへの投稿など二次創作を公にする機会が増えています。それに合わせて二次創作そのものも増えている印象を受けます。

そのため、二次創作をされそうな著作物や商品を保有している企業は、著作物の二次創作を認めるのか認めないのかの方針を明らかにするほうがよいでしょう。

先に「うちの会社は二次創作を認めないので遠慮して欲しい」とお願いを宣言している企業と、方針を何も出さないまま、後から「うちの会社は二次創作は一切認めないので訴えます」とする企業と、どちらがファンに優しいかといえば、前者でしょう。

方針を明らかにすることは決してファンを遠ざける行為ではありません。むしろ、ファンの存在を意識している企業として、余計にファンの心を掴むのではないかと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。