電力会社の価格カルテルに1010億円の課徴金納付命令。競業他社と価格について情報交換をするのはどこからが違法なのか?

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

2023年3月30日、公正取引委員会は、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力の4社に、総額1010億3399万円の課徴金を支払うように命じました。

2018年秋ころまでに、関西電力が、中部電力、中国電力、九州電力らと価格競争などを止める合意をしたことが、独占禁止法で禁止される価格カルテル(不当な取引制限)に該当する、と判断されたのです。

今回は、このケースを題材に、競業他社との情報交換や愚痴の言い合いはどこまで許されるのか?をご説明します。

※2023/08/02追記

取消訴訟については別に投稿しました。

価格カルテルとは何か

日本は資本主義社会です。そのため、ライバルとなる同業他社とは、品質、価格、数量、取引条件、技術などで競争することが求められています。
反面、競争をしない行為(競争を実質的に制限している行為)は、独占禁止法によって禁止されています。
この中で、価格で歩調を合わせライバルと競争しないように互いに合意することを価格カルテルといいます。
なお、入札などでライバルと競争しないように合意することは談合と呼ばれます。

価格カルテルが成立する要件

商品やサービスの品質や技術などが同等の場合、ライバルとの戦いは価格競争になりがちです。
競争をすればするほど体力(財力)を奪っていくので、お互いに「そろそろ安売り合戦はやめたい」と思っているはずです。

そのため、ライバルの役員や社員同士が業界の集まりなどで顔を合わせたときに、つい、「いくらぐらいで販売するつもり?」と情報交換や腹の探り合いをしたり、「価格競争を止めたいね」と愚痴を言い合うこともあるかもしれません。

では、それだけで価格カルテルになってしまうのでしょうか?

「意思の連絡」が必要

複数の企業が連絡を取り合い、商品の価格や生産数量などを共同で取り決めるなどして、競争を実質的に制限することは「不当な取引制限」として、独占禁止法によって禁止されています。
一般的には「カルテル」といい、その中で、価格について共同で取り決める場合を「価格カルテル」といいます。

カルテルが成立するためには、複数の企業が「意思の連絡」をして、「相互に拘束」することが必要です。

どのような場合に「意思の連絡」があったと認められるか

同業他社の担当者が同じ勉強会やイベントで顔を合わせたりすることもあるでしょう。
そのときに、現在行っている取引の価格や新商品の価格について、「値上げのタイミングはいつにする予定ですか?値上げ幅はどれくらいで考えていますか?」などと情報交換や腹の探り合いをしたり、「価格競争を止めたい」などをグチを言い合うこともあるかもしれません。

この場合、価格についての「意思の連絡」があったとして、価格カルテルになってしまうのでしょうか?

東芝ケミカル事件高裁判決(東京高裁1995年9月25日)は「意思の連絡」について、次のように判断しています。

  • 「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があること」
  • 「事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる」

ポイントは、「相互に・・認識・予測して、これと歩調をそろえる意思があること」という部分です。

「意思の連絡」を単に「合意」と表現する場合もあります。

しかし、明示的に「合意」していなくても、相手と歩調を合わせる意思があれば、それだけで「意思の連絡」があったと認められ、カルテルは成立します。

例えば、同業他社の集まりで、A社の担当者が、ライバル企業の担当者から「来月から10%値上げすることを予定しています」と聴き出したとしましょう。

これに対し、A社の担当者が「それなら、うちの会社も来月か再来月から10%値上げしようかな」と答える。これだけで「意思の連絡」があったことになります。「うちの会社も来月から10%値上げすることを約束します」というほどの答は必要ありません。

「意思の連絡」があったと認められる3つの要素

これでは、同業他社とオチオチ情報交換もできないと心配してしまうかもしれません。

実際には、「意思の連絡」があったかどうかは、もう少し慎重に判断されます。
検討される要素としては、次の3つが挙げられます。

  1. 相互に拘束しているかどうか
  2. 事前の交渉(コミュニケーション)が存在しているかどうか
  3. 自由競争にどれくらい影響するか

まず、「1.相互に拘束」から説明します。

カルテルは「意思の連絡」なので、お互いが相手の企業も値上げなどをすることをわかっている(認識・認容)していることが必要です。

ライバルが値上げした後に気付いて、後追いして値上げする場合は、お互いが認識していないので、カルテルにはなりません。

ただし、先陣を切って値上げする企業が「まず、わが社が値上げするので、後から値上げしてください」などと、ライバルが「歩調を合わせる」ことを期待し、ライバルもそれをわかっているときには、「相互に拘束」していると評価される可能性があります。

次に「2.事前の交渉」です。

2023年春先のように世界的に物価、原材料の価格が値上がっているときには、業界全体が同じタイミングで値上げすることや、ライバル企業が値上げしたのを見て後追いで値上げすることはありえます。

これは偶然の一致なので「意思の連絡」はなく、カルテルにはなりません。

そうではなく、値上げの前にライバル企業と「原材料の価格が高騰してきたから、値上げしようと思っている」などとコミュニケーションをした後、同じタイミングで値上げした。

このような場合には「意思の連絡」があったと評価されやすいです。

1と2の要素を考慮すると、社内で値上げなどを検討しているときには、同業他社となるべく接触しない、価格に関する話題で情報交換や会話しないことなどを、担当者には厳しく命じておいた方がよいかもしれません。

今回の電力会社のケースでは、「1.相互に拘束」も「2.事前の交渉」も認められました。

中部電力及び関西電力は、遅くとも平成30年11月2日までに、中部電力管内又は関西電力管内に所在する大口顧客に対する安値の見積り提示による電気料金の水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限することを合意し、中部電力ミライズは、令和2年4月1日、電気の小売供給を行う事業の全部を中部電力から承継することにより、同社に替わって当該合意に参加した。

中国電力及び関西電力は、遅くとも平成30年11月8日までに、中国電力管内又は関西電力管内に所在する相対顧客に対する安値の見積り提示及び中国電力管内の官公庁入札での安値の電気料金の提示による電気料金の水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、
(ア) 互いに、相手方の供給区域に所在する相対顧客の獲得のための営業活動を制限する
(イ) 関西電力にあっては、中国電力管内において同日以降順次実施される官公庁入札における入札参加及び安値による入札を制限する
ことを合意した。

九州電力及び関西電力は、遅くとも平成30年10月12日までに、九州電力管内又は関西電力管内の官公庁入札等における安値の電気料金の提示による電気料金の水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、互いに、相手方の供給区域において同日以降順次実施される官公庁入札等で安値による電気料金の提示を制限することを合意した。

旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について

最後は「3.競争に与える影響の程度」です。

「意思の連絡」があったとしても、自由競争には影響しない場合には、カルテルとまでは評価されないことが考えられます。

しかし、現実は、事前に交渉がありお互いを拘束して値上げなどに至れば、ほぼほぼすべて「意思の連絡」があり、価格カルテルが認められます。
そのため、競争に与える影響の程度が小さくても価格カルテルは成立すると思っていた方がよいです。

まとめ

同業他社との情報交換や腹の探り合い、愚痴の言い合いのすべてが禁止されるわけではありません。
しかし、同業他社と接触したときの会話の内容や、接触のタイミングによっては、「意思の連絡」があったと評価され、価格カルテルが認められてしまいます。
値上げについて社内で検討し始めようとした時には、同業他社との接触はなるべく避け、価格に関する話題を避け、情報交換や競争についての愚痴の言い合いもしないようにしてください。

なお、今回の電力会社のケースでは、関西電力は課徴金減免制度(リーニンシー)を利用しました。そのため、課徴金の支払いを命じられていません。
リーニンシーについては別の機会で触れたいと思います。

※2023/07/15追記

経産省は、2023年7月14日に電気事業法に基づいて業務改善命令を発しました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。