ダイハツが側面衝突試験の認証申請に不正があったことを公表。親会社であるトヨタの見事なグループ・ガバナンス対応。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

4月28日、ダイハツは、海外向けの4車種の側面衝突試験の認証申請に関して不正があったことを公表しました。

この件で親会社であるトヨタのグループ・ガバナンスの振る舞いが素晴らしかったので、今日はその点を取り上げます。

※2023/12/22追記

ダイハツ工業が第三者委員会の調査報告書を公表したので、それを受けて新たに記事を書きました。

※2024/02/10追記

ダイハツ工業が国交省に提出した再発防止策を読んでの感想を新たに書きました。

ダイハツが側面衝突試験の認証申請で不正

不正の内容

4月に内部通報があったので調査したところ、「車両の側面衝突試験において、認証する車両の前席ドア内張り部品の内部に不正な加工を行っており、法規に定められた側面衝突試験の手順・方法に違反」が確認できたというものです。

内部通報がきっかけで発覚

最近の不正・不祥事と同じように、このケースも内部通報がきっかけで発覚したものです。

内部通報があった4月中に調査を終えて公表し、かつ、記者会見にまで至った点で、ダイハツが内部通報を大切にして真摯に向かい合っている企業姿勢が伝わります。

トヨタの対応とグループ・ガバナンス

親会社であるトヨタへの影響

今回不正が見つかったヤリスエイティブなど4車種は、親会社であるトヨタとのOEM供給契約・共同開発契約によって、ダイハツが開発から各種認証試験の合格までを実施し、トヨタが車両型式の認可を審査機関・認証当局から得て、トヨタブランドで発売されるものでした。

そのため、ダイハツは、ヤリスエイティブなどを海外に出荷することを停止しました。
トヨタは海外で販売することができなくなる、という影響を受けたのです。

トヨタの迅速な対応

これを受けて、トヨタは、同日、会長声明を出すとともに、YouTubeチャンネルのトヨタイムズで、豊田会長と佐藤社長が「ダイハツ工業の認証申請における不正行為発表を受けたトヨタイムズ緊急生配信」を行いました。

極めて迅速な対応です。

また、YouTubeを利用したことは、この件に関心を持つ多くのユーザーや世の中の人たちにトヨタの真剣さを伝える意味でも効果的だったと思います。

配信から1週間で18万回も視聴されていて、関心を持っている人が非常に多いことがわかります。

なぜトヨタが迅速な対応を行ったのか

あくまで当事者となるのは不正を起こしたダイハツです。

しかし、トヨタは同日に会長声明を出し、なおかつ、会長と社長が出席して緊急生配信をするほど迅速に対応しました。

その理由としては、

  • 問題となった車種がトヨタブランド名義で販売される車なので、当事者としての側面があること

  • 100%子会社であるダイハツで発生した問題なので、トヨタは親会社としてグループ・ガバナンスを機能させなければならないこと

  • 側面衝突試験での不正は、お客さまからの安全性への期待に応えるというコンプライアンスに関わる問題であること

などが考えられます。

ここでは、グループ・ガバナンスに関する部分を取り上げます。

トヨタのグループ・ガバナンス

グループ・ガバナンスというのは、

子会社であるダイハツでの不正・不祥事の発生を予防するための体制作りや、不正・不祥事が発生した後の危機管理について、トヨタが親会社としてコントロールしなければならない

という意味です。

子会社であるダイハツ任せにするのではなく、トヨタが主導権を握る必要があると言ってもいいでしょう。

会長のコメントにも

今後、トヨタおよびグループ各社のクルマづくりのオペレーション上の問題については、執行トップである社長の佐藤が責任をもって改善に取り組み、ガバナンスやコンプライアンスに関する部分は、会長であり、リコール問題を経験した私自身が責任をもって取り組んでいきたいと思っております。

と、今後の主導権を意識した部分がハッキリと書かれています。

また、社長は、より具体的に、ダイハツの社内風土や社内環境に関して、

「十分に法規に適合する実力があるのに不正が行われているのは根が深いNGをOKに書き換える以上に深刻だと考えている。」
「切り込みを入れて弱い部分を意図的につくり、乗員へのダメージを下げる工夫は、通常の開発でも日常的に行われている。ドアトリムの変形パターンをコントロールしたいというエンジニアとして純粋な行為をなぜオープンにできなかったのか。この変更が必要だと主張できる環境であれば、不正にはならなかった

とコメントしました。

このコメントから察するに、社長は、今回の不正が発生した根本的な問題について、

  1. 単に組織や社内ルールの整備や運用の問題ではないのではないか

  2. 実力を発揮して認証申請を順を追って訂正すればよいのに認証申請をやり直すという煩雑な手続を避けたい社内の雰囲気や仕事への取り組み方にあるのではないか
    (例えば、他社でも、申請担当者に手続の修正を依頼すると嫌がられるので、手続の修正を避けて、現場で黙って行ってしまうケースなどがよくあります。今回のダイハツがどうなのかはわかりません)

  3. 不正への抵抗感がない(ハードルが低い)社内風土があるのではないか

  4. 社内で従業員がお互いに考えていることを主張できない、コミュニケーション不足の環境があるのではないか

という問題意識を持っている、と理解できます。

要は、再発防止のためにダイハツの社内でカイゼンしなければいけないポイントをある程度当たりを付けているということです。

こうした問題では、往々にして、親会社は子会社からの報告を待つという受け身の姿勢であることが多い印象があります。

また、親会社は子会社の組織やルール作りに目を向けて管理を強めるだけ強めて無個性化され、企業風土までは手を突っ込まないことが目立ちます。

しかし、トヨタは受け身ではなく積極的に前のめりにコメントを出し、表面的ではない企業風土こそがガンではないかと実質論で捉えています。

会長も社長もグループ・ガバナンスへの問題意識が非常に高い印象を受けました。

まとめ

子会社・グループ会社で不正や不祥事が発生した後のグループ・ガバナンスでよく見られるのは、子会社に代わってあるいは子会社と一緒に、親会社の公式サイトで情報を発信する、親会社も記者会見をするというものです。

今回のトヨタの対応は、子会社であるダイハツへのグループ・ガバナンスを親会社が主導で行うという宣言、親会社の立場から子会社の企業風土などをどう見ているかの問題意識まで具体的に宣言したことで、初期対応としては、他社よりも一歩先まで行っている印象を受けました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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