2023年6月総会は過去最多の株主提案数。ESGに関する株主提案が増えている。しかし、2024年は「反ESG」かもしれない。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年6月に開催される上場会社の株主総会に向けて、5月31日時点で82社、314議案と、過去最多の株主提案がされている、と報じられています。

日経新聞によると、株主から提案されている議案の内容は、

  • 資本効率に関する提案(ex.自社株買い)
  • ESGのE(環境)に関わる提案(ex.気候変動に関連した情報開示、脱炭素)
  • ESGのG(ガバナンス)に関わる提案(ex.女性取締役の起用、取締役の独立性の確保)

に3分されそうです。

株主提案は2024年以降も増えることは容易に想像できます。

アメリカでも、2023年1月から5月に定時株主総会を開いた米主要3000社に提出された株主提案は682件と、過去5年間では最多に増加しています。

ただ、アメリカでは「反ESG」に関わる株主提案が増えているようです。

そのため、日本でも2024年以降は「反ESG」に関わる提案が増えるかもしれません。

今回は、この話しです。

ESGに関わる株主提案が増えている背景〜エリサ法の改正

そもそも、ESGに関わる株主提案が増えている背景は何でしょうか? 

ここ数年、急に活発になったので「誰が音頭を取っているの?」と疑問に思う方も居ると思います。

発端は2006年に国連が責任投資原則(PRI)を示したことです。これにより、企業の社会的責任(CSR)を意識した投資(SRI)が盛んになりました。

今の流れを決定づけたのは、2023年1月30日から施行されているアメリカのエリサ法の改正です。

エリサ法は企業年金の受託者責任を義務付けた法律です。2022年11月に改正され、企業年金の運用者がESG要素を取り入れて投資対象を選別したり議決権を行使したりできるようになりました。

この結果、アメリカ各州の年金基金や資産運用する機関投資家がESGに前向きな企業に投資するようになり、かつ、既存の投資先企業に対してESGに関する株主提案をするようになったのです。

従来の「反たばこ」「反アパルトヘイト(人種差別)」などを内容とする株主提案からESGに関する提案にトレンドが変わっただけです。

2023年に海外の機関投資家によるESGに関する株主提案が日本で過去最多になったのは、こうした事情があります。

アメリカでの反ESGの動き

他方で、アメリカでは「反ESG」を内容とする株主提案や、連邦議会や州議会での決議も見られます。

反ESGの株主提案

2023年春には「反ESG」を内容とする株主提案が各社で43件に達しています。

ESGを考慮した投資が必ずしも運用成績の向上につながっていないからです。

例えば、電力会社のデューク・エナジーに対して「脱炭素化を進めることが事業にもたらすリスクや欠点を評価する「脱炭素リスク委員会」の設立を要求する株主提案」がされています(株主総会では否決されました)。

反ESGに関するアメリカ連邦議会、州議会の決議

連邦議会、州議会でも「反ESG」を内容とする決議がされるようになっています。

  1. 2022年11月の「年金基金の運用者がESGを考慮した投資先を選別したり議決権を行使する」エリサ法の改正を無効とする決議が、2023年3月1日にアメリカ連邦議会の上下院を通りました。
    なお、バイデン大統領が拒否権を行使したので、エリサ法の改正の効力は維持されました。
  2. 2023年3月にはフロリダ州を含む19の州がESG政策に反対する声明を出し、一部の州は資産運用する会社から州の年金などを引き揚げています。
  3. 2023年5月2日には、フロリダ州で「州・地方レベルのあらゆる意思決定におけるESGの使用を防ぎ、州・地方政府が調達・契約プロセスにおいてESG要素を考慮することを禁止し、さらに州・地方政府による債券発行においてESG要素を使用することを禁止する」法律が成立しました。

政治的な主義・主張の違いも影響するので、ESG投資が全面的に受け入れられているわけではないようです。

なお、最近では、ESGやSDGsなどへの取り組みは「意識高い系」資本主義などと揶揄されています。

日本への影響

株主総会への影響

アメリカの「反ESG」の現在の動きは、国内各社の株主総会にも影響してくるでしょうか?

日本の会社法関連の動き、政府、証券取引所の規制やガイドラインの多くは、アメリカの一周遅れでやってきます。

代表的なのは、最近のLGBTの動きです。

アメリカやEU諸国ではLGBTに積極的に取り組んだ反動で、現在はLGBTへの取り組みを見直す動きに変わっています。しかし、日本では、LGBTにこれから積極的に取り組もうとしています。一周遅れです。

内部統制の動きも同じです。

2001年から2002年にかけてアメリカでエンロンやワールドコムが粉飾決算によって経営破綻したことをきっかけにサーベンスオックスレー法(Sox法)ができ、内部統制が強く要求されるようになると、日本も後追いで内部統制が厳しくなりました。一周遅れです。

そうなると、「反ESG」の動きも一周遅れで、日本に上陸することは容易に想像できます。

2023年はESGに関連した株主提案の動きが目立ちますが、2024年以降には「反ESG」の株主提案が出てくるのではないでしょうか。

経営判断への影響

では、今のうちから、ESGや反ESGに関連して、どのようなことを意識して経営判断すべきでしょうか?

2006年頃からの企業の社会的責任(CSR)の流れに照らせば、ESGを上場会社が無視することはできないように思います。

しかし、機関投資家が推し進めるESGに関わる提案を上場会社が盲目的に受けいれるべきか、また政府などが提言するESGへの取組を「御上からの要請」として受けいれるべきかといえば、NOです。

会社の本来の役割はあくまでも「営利」社団法人ですから、まずは売上や利益の向上に資する取組を最優先に考えるべきでしょう。

とはいえ、売上や利益のことだけを考えていれば良いわけではなく、ESGなど企業の社会的責任(CSR)への配慮が必要であることも間違いありません。

売上や利益の向上を軸に置きつつ、ESGなど企業の社会的責任(CSR)も果たしながら企業価値を最大化する。結局、今の経営者に求められるのはバランス感覚です。

そもそも、売上や利益の向上と企業の社会的責任(CSR)とは相反する概念ではありません。

エーザイのESG経営のように、ESGへの取り組みを売上や利益の向上に貢献させることに成功している企業もあります。

「世の中がESGに取り組んでいる。機関投資家がESGを要求している。うちもやらないと取り残される。なにかやらないといけない。あああ・・・」と外部要因に振り回されてESGに闇雲に取り組むことは止めましょう。

大事なのは、「わが社の存在価値、わが社の事業が世の中に必要されている理由はなにか?」を考え、「わが社の事業が世の中をより良くするために、何が工夫ができるだろうか。特にESGの観点でできることはあるだろうか」と、経営判断する際に考慮する要素の一つにESGを取り入れることです。

逆に、「機関投資家から要請された内容がESGに視するとしても、わが社にとっては、自社の売上や利益の脚を引っ張るだけ」だと考えたときには、「採用しない」と堂々と経営判断することを選択してください。

トヨタが機関投資家から「気候変動に関連した情報開示」を定款に追加することを株主提案されたことに反対意見を述べたことは、その例です。

取締役や執行役員などの経営陣だけではなく、ESGに取り組む部門の担当者も自分たちの軸をもって判断して欲しいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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