こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
不当なクレーム(カスタマーハラスメント)に適切に対応することは、組織の法的利益と職員・従業員の安全を守るために極めて重要です。
そこで今回は、直近で話題になった「震災の日に赤飯を提供することへのクレーム」や「新校名の名称変更を求める運動」などを題材に、行政がとるべき対応の指針について解説します。
直近の行政へのクレーム事例
2025年末以降、行政に対するクレームとして以下の2つが話題になりました。
3月11日の赤飯提供への抗議
1つ目は、福島県いわき市の中学校5校にて、卒業祝いの学校給食として赤飯を出そうとした際、「震災の発生日に赤飯はいかがなものか」と、震災の日にお祝いを連想させることを批判する趣旨の1本の電話が寄せらたケースです。
これを機に、いわき市は、用意していた赤飯約2100食分を廃棄しました。
「桜花(おうか)」という校名への抗議
2つ目は、福岡県大牟田市内の2つの中学校を統合再編した後の新校名「桜花」に対し、「戦時中の特攻兵器を連想させる」として名称撤回を求める動きがあったケースです。
これは、言葉の特定の側面のみを強調した主張と言えます。
こうした類の抗議やクレームの多くは、プライバシー侵害や名誉毀損など法的な権利侵害によるものではなく、個人の感情や特定の価値観や思想の押し付けに基づいています。
行政と民間企業における対応の比較
不当なクレームに直面した際、行政と民間企業では立脚する法律や判断基準が異なります。
民間企業の場合、基本的には「契約自由の原則」に基づき、特定のお客様との取引を拒否したり、自社のブランドイメージを守るために独自の営業判断を下したりすることが可能です。
過度な要求に対しては、従業員に対する安全配慮義務に基づく対応が優先され、カスタマーハラスメントとして毅然と拒絶する流れが一般化しています。
ちなみに、2026年10月1日からカスハラ対策が義務化されます。
これに対し、行政(公務)は「公平性」と「中立性」が強く求められます。
一部の市民から強い抗議を受けたからといって、正当な手続きで決まった施策を安易に変更することは、その施策を支持する他の市民の利益を損なうことにつながります。
また、不当な要求に屈して予算を割いたり方針を変えたりすることは、「行政の歪み」を生じさせる公金支出上の問題にもなり得ます。
したがって、行政は企業以上に、個人の主観的な感情論と、客観的な法的妥当性を明確に切り分ける姿勢が求められます。
行政がとるべき具体的対処法
不当なクレームに対し、行政の意思決定者は以下の3点を徹底する必要があります。
正当性の再確認と「NO」の明示
クレームを受けた際、その行為(赤飯の提供や校名の決定)に法的な不備がなく、適正なプロセスを経て決定されたものであれば、撤回する必要はありません。
感情的な要求に対して安易に謝罪や変更を行うと、「言えば変わる」という誤った認識を広め、同様の不当要求を増長させます。
担当者個人任せではなく組織として対応する
担当者個人に責任を負わせず、組織として対応窓口を一元化しましょう。
担当者を守ることになると同時に、誰に言っても抗議やクレームが通用しないことを理解させるためです。
合理的な説明を尽くしても納得せず、同じ主張を繰り返す場合は、「これ以上の説明は困難です」と告げ、対応を終了します。
電話や面談で大声を出される、長時間拘束される場合は、すべてのやり取りを書面に限定します。
法的措置の検討
要求の内容が「業務の停止」や「金銭の支払い」などに及んだ場合、あるいは職員への威迫行為がある場合は、速やかに弁護士や警察と連携します。
具体的な「断り方」のセリフ例
合理的な説明を尽くしても納得が得られない場合や、社会通念上相当な範囲を超えた要求(撤回・謝罪の強要など)に対しては、以下のステップで対応を終了させてください。
結論を変えない意思表示
特定の価値観や思想に基づく抗議に対し、手続きの正当性を主張する場合の文言です。
「本件(給食の献立・校名の決定)については、法令および定められた内部規定に基づき、適切なプロセスを経て決定しております。ご意見は真摯に承りましたが、現時点で方針を変更する予定はございません」
内容の合理性を主張する場合も同じように表現すれば良いです。
繰り返しに対する対応の打ち切り
同じ主張が執拗に繰り返され、業務に支障が出る場合の文言です。
「本件に関しましては、既にお伝えした通り組織としての回答を差し上げております。これ以上お話しできる新たな事実はございませんので、本件に関する対応はこれで終了させていただきます。これ以降の電話(または面談)への対応は控えさせていただきます」
威圧的な言動への警告と退去要請
大声、机を叩く、長時間拘束などの不当な行為が見られる場合の文言です。
「そのような大声を出される(または長時間にわたる)行為は、私どもの業務の妨げとなります。これ以上続けられるようでしたら、退去(または通話の終了)をお願いすることになります。改善されない場合は、不退去罪や威力業務妨害として警察へ通報せざるを得ません」
まとめ
行政の意思決定者は、現場の担当者が「一人の反対意見」に振り回されないよう、組織としての最終回答を早期に確定させることが重要です。
往々にして、抗議やクレームへの対応は相手を説得することに力を注ぎがちです。
しかし対応のゴールは相手を納得させることではなく、組織の決定事項を淡々と伝え、業務を継続することです。
目的が何かを見誤ることなく対応することを心がけてください。

