こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
連日のように各企業での社内研修の講師としてお招きいただいたり、地方での企業の勉強会・講演会などにもお声がけていただき飛び回っていたため、ブログの更新が滞ってました。
生成AIとの壁打ちで考察は溜まっているので、少しずつ吐き出しています。
さて、今回は、2026年2月10日に監査等委員会設置会社への移行を明らかにした小林製薬を取り上げます。
小林製薬のガバナンス改革とその課題
小林製薬は2026年2月10日、監査等委員会設置会社へ移行する方針を発表しました。
一般に監査等委員会設置会社のほうが監査役会設置会社よりもガバナンスが効きやすいとは言いますが、小林製薬の場合、ガバナンス改革は成功するのでしょうか。
そもそも、小林製薬がガバナンス改革を求められることになったきっかけは、紅麹問題での初動の遅れです。
紅麹問題では、2024年1月15日に腎疾患の症例報告の第一報を受けた後、社長(当時)の耳に届いたのは2月6日。約3週間がかかっています。事態を公表した3月22日までには、約2か月半を要しました。
現場から社長までの情報の停滞、社長の耳に届いてからの対応の遅さからは、同社のガバナンスや危機管理が機能不全に陥っていたことが伺えます。
機能不全に至った要因としては、現場がリスクを認識しても創業家出身の経営陣に忖度した結果、適切に報告されない/吸い上げられない組織文化の存在が考えられます。
そうだとすると、ガバナンス改革を行うにしても、この組織文化の解消が必須です。
筆頭株主となったオアシス・マネジメントと「創業家」の影
ガバナンス改革を強く求めているのが、2025年12月26日に筆頭株主に浮上した香港系投資ファンドであるオアシス・マネジメントです。
とはいえ、表面的にはオアシス・マネジメントが筆頭株主にはなりましたが、2位以下の小林章浩元社長と創業家の小林財団を併せると創業家関係者だけで約20%を超えています(2025年6月30日現在。半期報告書)。
創業家が実質的な決定権を握ることができる状態であり、依然として、オアシス・マネジメント対創業家という対立構造は残ります。
そうだとすると、監査等委員会設置会社に移行したとしても、あくまで「側(がわ)」を入れ替えたに過ぎません。
監査等委員会設置会社に移行したとして、それだけでガバナンス改革が成功したことにはならず、創業家の影響力を維持することになるのか、それとも過去・創業家との決別になるのかは、今後の行動によって判断されていきます。
ガバナンス改革の成功事例に学ぶ
では、小林製薬のガバナンス改革が成功したと言えるようになるためには、どうしたらいいでしょうか。
過去、同様にガバナンス不全から深刻な不祥事を起こし、体制刷新によって再生を図ったLIXILグループとオリンパスの事例を見ていきましょう。
両社に共通するのは、創業家や旧経営陣の影響力を完全に排除した上で、外部(機関投資家)の厳しい要請を受け入れたという点です。
LIXILグループ(現LIXIL)
1つめは、LIXILグループでのガバナンス改革です。
LIXILでは、2018年10月、瀬戸欣哉社長兼CEO(最高経営責任者)の退任が突如発表され、創業家出身の潮田洋一郎取締役(当時)との対立に発展しました。
2019年6月の株主総会で瀬戸氏が潮田氏側に勝利し社長兼CEOに復帰したものの、ガバナンスの機能不全が指摘されました。
LIXILは、この対立を経て、経営の透明性・公正性・迅速性を高めるため、機関投資家との対話を通じて取締役の大半を社外取締役へと入れ替え、指名委員会等設置会社に移行し、CEO後継者計画の策定などを推進しました。
結果として、経営の透明性が高まり、株主価値の再構築に成功しています。
オリンパス
もう1つは、オリンパスのガバナンス改革です。
2011年に問題化した損失隠し事件以後、社外取締役を過半数起用したほか、指名委員会等設置会社に移行し、外国人CEOを登用するなど、グローバル基準の監視体制と意思決定の迅速化を強行しました。
また、アクティビスト(物言う株主)を経営に迎え入れ、医療機器への事業集中(ポートフォリオ転換)を進めた、創業以来の「内向きな文化」を破壊することで、グローバル企業としての信頼を取り戻しました。
こうしたガバナンス改革が成功した結果、2024年10月にはCEOが違法薬物を購入した疑いがあるとの内部通報をきっかけにCEOに退任を求めることに成功するなど、役員相互のガバナンスが機能する状況になっています。
小林製薬の今後・・
LIXILグループとオリンパスの例を見ると、いずれも指名委員会等設置会社に移行し、社外取締役が過半数を占める指名・報酬・監査の3委員会により、経営の透明性と監督機能の向上を図りました。
もちろん、指名委員会等設置会社にしたからといってガバナンス改革が成功するとは限りませんが、経営と監督の分離により監督機能の向上を図ったことは評価されて良いでしょう。
小林製薬の場合には、監査等委員会設置会社ですから、監査等委員以外の取締役が業務執行と監督の両方を兼ねることが一般的であり、経営と監督とは必ずしも分離していません。
また、監査等委員会設置会社では、指名・報酬委員会の設置は任意であるため、これらの委員会を設置しない場合には、社長や経営陣が実質的な人事・報酬の決定権を持ち続けるブラックボックス化が起こりやすい課題が残ります。
中途半端なガバナンス改革とならないためには、自己保身が先に来ることなく、創業家株主に気を遣わずに経営陣がお互いに対して物を言えるかどうかが鍵となりそうです。
機関投資家が必ずしも正しいとは思いませんが、ある意味、オアシス・マネジメントが他の一般株主への影響力を持つようになることこそが、ガバナンス改革の命運を握るようにも思います。
