こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
東京大学大学院医学系研究科の教授が2026年1月24日、一般社団法人「日本化粧品協会」の代表理事から、銀座の高級クラブやソープランドで接待を受けていたなどの収賄の被疑事実で逮捕されました。
接待された内容のワイドショー的な面白さもあり連日報じられていますが、コンプライアンスの観点から見ると、この事件は、民間企業が公務員(あるいはそれに準じる立場の人)に対する営業活動などの付き合いをする上で、「どこまでがOKで、どこからがアウトなのか」を学ぶきっかけにして欲しいケースです。
「東大教授・収賄事件」の概要
まず、今回の事件の概要を整理しましょう。
東京大学大学院医学系研究科の教授は、一般社団法人「日本化粧品協会」の代表理事から、産学連携である大麻成分(CBD)の研究講座の設置や運営で便宜を図る見返りに、飲食や性風俗店での接待を受けていたことが収賄と疑われています。
その規模は、2023年3月から約1年半の間に、教授だけで約30回、金額にして約180万円相当の接待を受けたとされています。 部下の元特任准教授への接待も含めると、総額は460万円超に上るとみられています。
銀座の高級クラブや吉原のソープランドなどが使われ、1日で85万円(高級フレンチからクラブへのはしご)が支払われた日もあったようです。
しかも、これらの店や日程は、教授側が指定していたとも報じられています。
普通は、こんな接待を催促することなど「弱みを握られる」ことに繋がるので、リスク意識があればできないのですが、リスク意識よりも欲望が買ってしまったのでしょう。
また、これほどの癒着があれば、教授側だけでなく日本化粧品協会側も秘密にしようとするはずですが、今回は、日本化粧品協会側が警察に「恐喝未遂」のような形で被害相談をしたことなどを発端として発覚しました。
同協会は、教授らを相手に「高額接待を強要された」として損害賠償を求める訴訟まで起こしているようです。
邪推ですが、教授らと協会との間でよほど決裂するできごとがあったのかもしれません。
ビジネスパーソンが絶対に知っておくべき「公務員接待」のルール
贈収賄とは別の「国家公務員倫理法・倫理規程」
さて、ここからが本題です。
東大教授のように、国立大学の職員は「みなし公務員」と呼ばれ、職務に関しては公務員と同じ扱いを受けます。
そのため、教授の職務に関し、金銭やソープ接待等欲望を満たす一切の利益の要求、提供やその約束をすれば、それだけで刑法の贈収賄罪が成立します。
一般の民間企業が公務員に対して営業活動をする場合には、万が一にも贈収賄にはならないように、営業担当者は最善の注意を尽くしていると思います。
民間企業が、贈収賄以外に、もう1つ注意しなければならないルールとして「国家公務員倫理法・倫理規程」があります。
これは国家公務員側を名宛人とする法律・規程ですが、公務員やみなし公務員と取引や許認可のやり取りがある企業の担当者は、国家公務員に違法行為をさせないようにするために、以下のポイントを再度確認する必要があります。
「国家公務員倫理法・倫理規程」の詳細は以前に別のブログ記事にまとめましたので、今回は概要だけをかいつまんで整理します。
「利害関係」がある場合には「接待」は原則禁止
許認可を申請中だったり、補助金を受けようとしていたり、あるいは契約を結ぼうとしている場合、企業側は国家公務員にとっての「利害関係者」になります。
この場合、ルールは非常に厳しく、以下のとおりとなります。
- 供応接待は原則禁止です。「一席設けてご馳走する」のは許されません。
- ゴルフ・旅行は割り勘であっても一切禁止です。一緒にゴルフに行くこと自体が、癒着を生むとして禁じられています。
- 金銭・物品の贈与も禁止です。お中元やお歳暮もNGです。
「割り勘」や「ランチ」ならいいの?
接待や飲食が完全にダメかというと、例外的に許容される範囲もあります。
- 1万円以下の割り勘: 利害関係者であっても、国家公務員が自分の飲食代を自分で払う(かつ自己負担が1万円以下)なら、一緒に食事をすることは可能です。ただし、1万円を超える場合は事前の届け出が必要になるため、公務員側が嫌がることが多いでしょう。
- 簡素な飲食として、会議の際に出すお弁当や飲み物、あるいは茶菓子程度であれば認められることがあります(3000円程度までが目安です)。
- 20人以上が参加する立食形式のパーティーでの飲食は、密室性が低いため許容されています。
「相手に要求されたから」は言い訳にならない
今回の東大のケースのように、「先生(公務員側)に行きたいと言われたから」というのは、法律上、企業を守る理由にはなりません。
刑法の贈賄罪は「渡した側」も処罰されますし、何より「あの会社は公務員に対する接待攻勢で仕事を取っている」という噂が立てば、企業の社会的信用は低下します。
公務員や大学教授との付き合いは、「李下に冠を正さず(疑われるようなことはしない)」が鉄則です。
「これくらいなら大丈夫かな?」と迷ったら、会社の法務担当や弁護士に相談するか、下記の人事院が出している「国家公務員倫理規程解説」等を確認することをお勧めします。
- 人事院「国家公務員倫理規程解説」
- 人事院「国家公務員倫理規程質疑応答集」
- 人事院「倫理規程論点整理・事例集(令和5年版)」


