三井海洋開発などが決算書を円表記からドル表記へ。会社計算規則57条1項・2項、120条1項との関係について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

今日は解説ではなく知識の整理です。

2024年6月5日の日経電子版を読んでいたら、三井海洋開発などが決算書を円表記からドル表記にしていると報じられていました。

海外との取引が多い企業や、海外に子会社・グループ会社や事業所を持っている会社は、たしかにドル表記のほうが為替の変動に左右されずに実態を把握できそうです。

納得できます。

ただ同時に、この記事を読んで疑問に思ったのが「報じられている決算書はどこまでの書類のことを意味しているのだろう?計算書類ってドル表記で許されるのか?」ということです。

三井海洋開発の決算短信はドル表記になっていました。

また、三井海洋開発が2024年3月に開催した株主総会の招集通知を見ると、「連結財政状態計算書」と「連結損益計算書」はドル表記、「貸借対照表」と「損益計算書」は円表記になっていました。

計算書類の表示について会社法計算規則57条1項・2項は、以下のように定めています。

第五十七条 計算関係書類に係る事項の金額は、一円単位、千円単位又は百万円単位をもって表示するものとする。

 計算関係書類は、日本語をもって表示するものとする。ただし、その他の言語をもって表示することが不当でない場合は、この限りでない。

会社法計算規則57条1項・2項の定めによると、原則は円表記かつ日本語でなければなりません。

しかし、会社法計算規則120条には、次のような「連結計算書類」に関する特則も定められています。なお、121条、122条にも同趣旨の特則があります。

(国際会計基準で作成する連結計算書類に関する特則

第百二十条 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和五十一年大蔵省令第二十八号)第三百十二条の規定により連結財務諸表の用語、様式及び作成方法について指定国際会計基準(同条に規定する指定国際会計基準をいう。以下この条において同じ。)に従うことができるものとされた株式会社の作成すべき連結計算書類は、指定国際会計基準に従って作成することができる。この場合においては、第一章から第五章までの規定により第六十一条第一号に規定する連結計算書類において表示すべき事項に相当するものを除くその他の事項は、省略することができる。

 前項の規定により作成した連結計算書類には、指定国際会計基準に従って作成した連結計算書類である旨を注記しなければならない。

 第一項後段の規定により省略した事項がある同項の規定により作成した連結計算書類には、前項の規定にかかわらず、第一項の規定により作成した連結計算書類である旨及び同項後段の規定により省略した事項がある旨を注記しなければならない。

これを見ると、「連結計算書類」は指定国際基準に従って作成できるので、ドル表記も許されます。

三井海洋開発が「連結財政状態計算書」と「連結損益計算書」はドル表記、「貸借対照表」と「損益計算書」は円表記と使い分けているのは、会社法計算規則57条と120条が根拠になりそうです。

会社法計算規則57条と120条の存在を意識することなく円表記が当たり前だと思っていたので、勉強になりました。

なお、連結計算書類を会社法計算規則120条1項の定めどおりに国際会計基準に従って作成したときには、同条2項・3項の注記が必要になるので、注記を書くことを忘れないようにしたいですね。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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