小林製薬の紅麹原料問題に関して情報発信源が複数存在することにより情報が錯綜している状況と、それを防ぐためのリリースの出し方、情報の一元化など危機管理広報のあり方

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年3月22日に明らかになった小林製薬の紅麹原料に関連する事態の収束が見えません。

初動の遅れを招いた危機意識の希薄さ都危機管理体制の機能不全については、以前にブログ記事にしました。

今回は、3月22日の記者会見以後の報道を見て、あれやこれやと情報が小出しになっていることで、かえって消費者や世の中の人たちの不安をあおることになっている危機管理広報の失敗について取り上げます。

紅麹原料問題に関する情報発信源が複数存在することへの対応

紅麹原料問題に関して情報が小出しになっている理由の一つは、情報の発信源が、当事者である小林製薬のほか、厚労省、消費者庁、大阪市と複数存在することです。

現在の小林製薬の情報発信

小林製薬は、当初から自社サイトに「重要なお知らせ」として「紅麹関連商品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ(第○報)」と題するリリースを掲載し、4月5日からは自社サイトのトップページにお詫びと「紅麹関連製品に関して」と詳細ページへのリンクを貼っています。

詳細ページでは、お詫び文に続けて、死亡者などの事例数のほか、その確認方法、医療費の処理、厚労省が公表したQ&Aへのリンクを掲載しています。

このサイトを見ると、一見すると、小林製薬は情報発信を頑張っているようにも見えます。

しかし、以下に示すような、ちょっとした工夫が足りない印象を受けます。

リリースのタイトルの付け方の課題

一つは、リリースのタイトルの付け方、です。

すべてが「紅麹関連商品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ(第○報)」となっているので、関心をもって小林製薬のサイトを訪れた人は、そのリリースを開くまで、リリースの中に何が書かれているかを知ることができません。

これは、情報を知りたい人に一手間を掛けさせることになるので、イライラさせる要因になります。

例えば、第8報は「インターネットによる返品受付開始」をお知らせする内容ですし、また、第9報は「電話による返品受付時間の延長」が内容になっているのですから、タイトルそのものを内容がわかるものにするか、サブタイトルとして並記する工夫をして欲しいです。

情報発信源を一本化できないなら、小林製薬がポータルサイト化する

もう一つが、小林製薬が情報発信源としてポータルサイト化することです。

理想的なのは、小林製薬、厚労省、農水省、消費者庁、大阪市が統一して情報を発信することですが、実際には、官庁・地方公共団体と小林製薬とは監督する者・監督される者の立場の違いがあるので、それは無理です。

例えば、大阪市は回収命令を発し、農水省と厚労省は食品衛生法などの観点から報告を求め調査したうえで情報を発信し、消費者庁は機能性食品「表示」問題として報告を求め調査したうえで情報を発信し、小林製薬はそれぞれに応じる立場です。

この場合、小林製薬は、大阪市から回収命令を受けたこと、その後、行政処分を受けたことは公表していますが、農水省、厚労省、消費者庁に報告した内容については情報発信していません。

4月12日に一斉に各メディアが、原料を製造していた大阪工場(既に閉鎖)で、床に落ちた材料を使った事例が過去にあったことが報じた際に、「本件とは関係がない」との小林製薬のコメントもメディアの報道にはありますが、小林製薬のサイトには掲載されていません。

結果、SNSでは「床に落ちた食材が今回のサプリメントに使われたのか」などと不安視する声もありました。

小林製薬が情報を発信しなかったことと相まって、各社の報道が小林製薬に不利な印象を与えるミスリーディングを招いたとも言えます。

また、厚労省は、4月9日には、小林製薬から報告のあった死亡例5人のうち3人に既往歴があったこと、70歳代が3人、90歳代が1人、不明が1人とする年代も公表しましたが、この内容も、小林製薬のサイトにも掲載されていません。

サイトに掲載されていなければ、たとえ小林製薬が官庁や地方公共団体には説明していたとしても、消費者や世の中の人たちは「小林製薬は説明する気がないのではないか」と不安を覚えます。また、小林製薬の企業姿勢を悪いように受け止め、いつまでも信頼回復に繋がりません。

消費者や世の中の人たちの「(情報が)あったらいいな」をかたちにしての声に応えることが信頼を取り戻します。

小林製薬の立場からは、「○月○日に○○省の求めに応じて、・・・・という内容を報告しました。」などとして、報告内容の全部ではないにせよ、報告内容の一部分を公表し、また、自社のコメントを一緒に発表することはできるはずです。

そうすることによって、小林製薬が自主的に情報を発信する内容のほか、官庁・地方公共団体に報告した内容のすべてを、小林製薬のサイトで一覧で確認できるようにする、要するにポータルサイト化することが、早期の信頼回復に繋がり、また情報の発信源がバラバラであることによる情報の錯綜を避けることも可能になるのではないでしょうか。

ポータルサイト化でいえば、今年の能登半島地震直後に政府サイトがポータルサイト化した手法が、情報を整理する危機管理広報として参考になると思います。

以前に記事にて解説したので、こちらも参考にして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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