ダイハツ工業が試験認証不正の再発防止策を国交省に提出。評価できる点、できない点。試験認証不正の問題の本質を理解していないのではないか?との印象。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年2月9日、ダイハツ工業が試験認証不正の再発防止策を国交省に提出しました。

2024年2月9日付け日経新聞電子版・2月10日付け日経新聞朝刊に私のコメントが掲載されています。掲載されきらなかった部分も含めて、今回は、再発防止策の評価できる点、評価できない点について、です。

第三者委員会の指摘にはすべて応えている

まずは再発防止策全体の構成について、です。

ダイハツ工業が国交省に提出した再発防止策は、第三者委員会が調査報告書の中で指摘した項目ひとつひとつを丁寧に拾い上げて、そのすべての項目に再発防止策を挙げています。

抽象的な内容に留まらずに、指摘された項目一つにつき複数の具体的な再発防止策を列挙する構成になっています。

この点は、誠実に向き合っている印象を受けました。

再発防止策が目的ごとに分類整理されている

次に再発防止策の立て方です。

第三者委員会の調査報告書に対応しているが故に、再発防止策も、

  1. 会社全体の業務運営体制の再構築
    • 経営の改革
    • 風土の改革
  2. 車両開発全体の業務管理手法の改善
  3. 不正行為を起こし得ない法規・認証関連業務の実施体制の構築

という3つの大項目と小項目に分類され、項目ごとに具体的な再発防止策が整理されています。

参考資料①では、個々の再発防止策と狙い・目的との関係性を整理しているので、再発暴策全体を俯瞰でき、わかりやすいと思います。

会社全体の業務運営体制の再構築

経営の改革

会社全体の業務運営体制の再構築として挙げられている再発防止策の中では、

「経営陣からの反省と決意のメッセージを継続的に発信」として、

今後は、法令・ルール遵守及び正しい仕事を徹底していく決意を現場訪問、及び動画にて発信します。企画書等の表紙に同様の文言を記載するとともに、社用 PC の立ち上げ時にポップアップ画面としても表示します。

再発防止策4頁

と挙げていることが、良い意味でも悪い意味でも引っかかりました。

経営陣がメッセージを発信すること自体は悪いことではなく、むしろ良いことです。

繰り返すことで、徐々に浸透するでしょう。

ただ、企画書等の表紙に文言を記載したり、社内PCの立ち上げ時にポップアップ画面を表示するのは、はじめのうちは効果があるでしょうが、1か月も経たないうちに「景色」になってしまうのではないか、と懸念します。

これらは、従業員にとっては受け身の策だから、です。

他方で、受け身にならないよう「役員・従業員一人ひとりが自分事として取り組むための仕掛けづくり」として、

この度の不正行為を当社で風化させないため、12 月 20 日を「再出発の日」と定め、全従業員がすべての業務を止め、法令・ルール遵守を再確認するとともに、風化防止の取組みとしてお客様の声を聴く等、自ら考える時間を毎年作り継続的に実施します。再発防止の実施状況についても合わせて発信します。加えて学習館を設置するなどして、本件の不正行為・それによるお客様とステークホルダーにご迷惑をおかけした事実を展示することで、役員及び従業員一人ひとりがしっかりと受け止め、「自分事」として法令・ルールを遵守し、お客様に安心・安全をお届けできるよう行動に移してまいります。

再発防止策4〜5頁

という試みは、非常に良いと思います。

「再出発の日」は、今後社内イベントを毎年続けていくことで、社内に不正を許さない意気込みを浸透させることができるでしょう。

また、「学習館」での展示は、徳川家康の三方ヶ原の戦いのしかみ像に通じるものがあります。なお、しかみ像の意図については諸説ありますが、本筋と離れるので、ぜひググってみてください。

ただ、「学習館」での展示を役員と従業員に浸透させるためには、こちらも「景色」にならないようにすることが必要です。

例えば、役員会の場に常時展示し役員会は展示を見ながら「不正をしない」と宣誓することから始める、社内・工場など各所に展示し始業時に同様の宣誓をすることから始める、などの運用は工夫した方がいいかもしれません。

風土の改革

また、「上位者に対する意見具申を抑圧するような組織風土の一掃」 「縦方向の報告ラインの機能回復、部署間のセクショナリズムを廃する仕組みの構築」として、

当社は、(中略)コンプライアンスや職場ルール・基準といった大事な軸をぶれさせることなく、間違っている時は間違っていると誰もが言い合える職場風土づくりを目指してまいります。そのためには、マネジメント層に対しては、絶えず職場の状況を把握し続け、メンバーが正しい仕事をできる環境づくりを率先垂範すること、メンバーに対しては、業務遂行に必要な知識・法律といった根拠を学び続け理解し、その基準に合致しない際には、きちんと発言・指摘すること、を実現するための取組みを行ってまいります。

再発防止策8頁

と宣言しています。

現実問題として、この取り組みが効果を発揮するかは、すべては上に立つ役員・管理職の意識・度量次第です。

違法・不当なことを発見した現場の従業員が意見具申をしても、上に立つ者がそれを隠蔽・否定はせずとも「良い顔をしない」態度や反応を見せるだけでも、下の者は「違法・不当なことを報告しても、嫌な顔をされると、報告した自分の方が気分が悪くなる」と考え、「嫌な気持ちになるくらいなら報告しないでおこう。とっとと転職してしまおう」という行動に出ます。

上に立つ者を選ぶための人事評価から変えていく必要があるかもしれません。

車両開発全体の業務管理手法の改善

試験認証不正が発生した原因は、要約すると、「時間・予算」「開発人員の数・能力」「精神的(心)」に「余裕が無かったこと」です。

詳しくは以前に書きました。

再発防止策では、

  • 従来同時に製作していた KS(確認試作)車と NS(認証試作)車を日程上切り離す
  • 開発スケジュール全体を従来比約 1.4 倍とした標準日程を社内規程化
  • 各プロジェクトにおいて運用していく中で修正すべき点が生じた場合は各機能長がアンドンを引き部長が問題提起します。認証日程の見直し及び発売時期の延期も視野に入れた議論を行い、新車進行会議にて関係本部長(品質統括本部、営業 CS 本部、くるま開発本部)が合議の上、議長(生産調達本部長)が開発規模に応じた上位会議への上程を指示する。

などが挙げられています(再発防止策11頁以下)。

「時間」の「余裕の無さ」に対応しているように思います。

他方で、「開発能力・人材」「予算」の「余裕の無さ」には言及がありませんでした。

短期開発の問題は、人員不足でも現場が工夫して開発して達成したことが端緒でした。

そうなると、「開発能力・人材」をどう増強していくのか、人員計画についても言及して欲しかったです。

また、各機能長があんどんを引き部長が問題提起する、新車進行会議にて関係本部長が合議の上、議長が上位会議への上程を指示する点は、結局は、あんどんを引く各機能長に精神的なプレッシャーがかかるのではないか(プレッシャーを感じる人が現場の試験担当者から各機能長に移っただけ)、上位会議である経営会議や取締役会が新車進行会議の合議の結果をどれだけ尊重するのか(合議の結果を伝えても、「工夫すればできるのではないか」と反対されれば、仕組みが機能しなくなる)、という疑問があります。

不正行為を起こし得ない法規・認証関連業務の実施体制の構築

再発防止策では、

  • 法規認証室(試験グループ)の人員を 2023 年 1 月比で 6 倍へ増員。今後、2024年 6 月を目途に、2023 年 1 月比で 7 倍へ増員。
  • 安全性能評価に関わる人員は2023 年 1 月比で 1.5 倍に増員し、安全性能開発に関わる人員としては、過去に安全性能に精通した知見者2023 年 1 月比で 2 倍に増員

などが挙げられています(再発防止策17頁以下)。

試験認証不正や安全性を事後的にチェックする部署を強化することは、試験認証不正や安全性担保の最後の砦となる部分を増強することになります。

再発防止策に欠けている軸

以上のように、再発防止策は第三者委員会の指摘事項に応えているので、実効性で疑問になる点はあれど、それなりに評価できるようにも思えます。

しかし、全体を読んだときに感じたのは「軸がない」or「軸とすべきものが違うのではないか」ということです。

調査報告書によれば、そもそも試験認証不正が起きたきっかけは、収益構造を改善するために短期開発に取り組んだことです。

短期開発を推し進めた結果、安全性を確保するために開発や試験に注ぐべき時間、予算、開発人材の確保、試験の丁寧さが犠牲なりました。

つまり、収益確保のために安全性が軽視された結果、試験認証不正が起きたのです。

しかし、調査報告書は安全性への言及はほとんどなく、法令遵守できる体制に再構築することに軸足が置かれていました。

本当の再発防止策の主眼として置かれるべきは、第三者委員会が指摘した個々の項目に応えることだけではなく、役員・経営陣が今後の経営方針や開発計画を立てる中で安全性をどれだけ意識できるか、多少収益性が悪くても安全性に勝るものはないと腹を括れるか、安全性が損なわれる・安全性が担保できないなら経営方針や開発計画を見直す覚悟があるか、などです。

できれば、これらを冒頭の「抜本的な再発防止策の概要」や「会社全体の業務運営体制の再構築」の中に、今後の経営方針や事業計画、役員の覚悟として明示して欲しいと思いました。

そのため、第三者委員会から問われたテストへの答えとしてはよくできているかもしれないけれど、今回の試験認証不正の本質を理解できていないのではないか?と、ちょっと物足りないなと感じてしまいました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。