豊田自動織機がフォークリフト、建設機械用エンジンのほかトヨタから受託している自動車用エンジンでも認証不正。本当の原因と再発防止策で見落としている点は?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年1月29日、豊田自動織機は、 2023年3月17日に公表した現行機種のフォークリフト、建設機械用エンジンの排出ガス性能に関する国内認証での法規違反に加えて、 フォークリフト、建設機械用の旧型も含めた産業車両用エンジン、および、新たに一部の自動車用エンジンの法規違反が明らかになったことを公表しました。

上記リリースは、事実関係を図表に整理し、また違反行為の原因や調査報告書の概要をわかりやすくまとめています。

調査報告書(公表版)調査報告書(概要版)も同時に公表されています。

※2024/2/22追記

2024年2月22日、国交省は豊田自動織機に、是正命令とエンジンサン機種の型式指定取消しの手続きを開始しました。

豊田自動織機による違反行為の原因

リリースによると、違反行為の原因は、以下のとおりです(詳細は調査報告書に書かれています)。

  1. 産業用エンジン
    • 経営、組織として、産業車両用エンジンの排出ガス規制強化という変化点を正しく認識できていなかった
    • 経営資源の手当や、それぞれの現場の課題に寄り添うコミュニケーションが十分でないまま、認証取得、量産管理を正しく行えない環境を生み出した
    • 自らの責任、独力で、規規制強化等の社会情勢の変化に対応するような行動様式が身についておらず、排出ガス規制の本格的な導入という新たな課題に対応できていなかった
    • 開発の難易度を過小評価し、排出ガス規制強化に対応するために必要な開発体制・日程の見直しや、教育・訓練を実施できなかった
    • 各事業部門だけでは対応しきれないリスクや経営課題について、横断的に検討し、全体最適を図るといった経営陣の関与や取り組みが不足していた
    • 不合理な開発スケジュール設定、管理者層の機能不全
  2. 自動車用エンジン
    • 出力試験の委託元であるトヨタ自動車とのコミュニケーションが不足し、試験のプロセス、守るべき手順などが十分にすり合わされていなかった
  3. 両エンジン共通
    • コンプライアンス意識の欠如
    • 法規を遵守しつつ、開発生産を進めるために必要な組織・体制の不備

主語をつけてリリースを読み直すと本当の原因がわかる

リリースの文章は要約されているので、誰がという「主語」が欠けています。

そこで、「主語」となるべき「誰が」をつけながら、リリースの違反行為の原因を読み直してみましょう。

取締役が排ガス規制強化という変化点を認識できていない、役員と現場とのコミュニケーションが十分でない、経営陣が開発の難易度を過小評価、経営陣の関与や取り組みが不足・・・と読むと、しっくりきます。

すなわち、違反行為の原因のほとんどで「主語」に当てはまるのは「取締役/経営陣/役員」の類です。

試験での違反行為を行ったのは現場ですが、取締役/経営陣/役員にも違反行為の原因があることがわかります。

それどころ、違反行為の原因として指摘されている内容からすると、取締役/経営陣/役員にこそ違反行為の本当の原因があるのではないか、と推察できます。

本当の原因と再発防止策とのズレ

再発防止策では、しくみづくり、組織体制の構築、企業風土の改善が挙げられています。

どちらかというと現場を規制する方向での再発防止策です。

しかし、違反行為の本当の原因が「取締役/経営陣/役員」にあると推察できるときには、しくみづくり、組織体制の構築、企業風土の改善だけではなく、

  • 取締役/経営陣/役員が時代や規制の変化に追いつくための意識の向上
  • 取締役/経営陣/役員が時代や規制の変化をキャッチアップできる内容の役員研修の実施や日々の取締役会・経営会議の運営スタイルの変更
  • 取締役/経営陣/役員と現場との心の距離を近くしていく

など、取締役/経営陣/役員に向けたアプローチが必要なのではないかと思います。

再発防止策の中にも「社長はじめ経営陣自らが現場に寄り添い、各職場、担当者の「困りごと」や「やりにくさ」をくみ取る、直接対話機会の拡充」とはあります。

しかし、会社が大きくなればなるほど、日頃から社長/取締役/経営陣/役員の扱いが丁重になりがちです。

社長/取締役/経営陣/役員は丁重に扱いすぎ、現場とは異なる扱いを繰り返していると、結果的に、社長/取締役/経営陣/役員と現場とが役職の差以上に心が離れていくことが避けられません。

心が離れている状況下で「社長はじめ経営陣が現場に寄り添って」も、現場は「神の声」「お上の言うことは絶対」などと捉えてしまいます。「直接対話機会」としてわざわざ懇談会を設けても、現場は「本音で話したらクビにされる/飛ばされる/不利益に人事評価されるのではないか」と不安を抱え、本音で話しをしないことは容易に想像できます。

日頃から気軽に声を掛けられる、話しかけられるなどの親しい関係を作っていくことが重要なのではないでしょうか。

ただし、あくまでの役職の上下関係があることが前提です。取締役/経営陣/役員と現場とが友だちになるわけではなく、最低限の敬意・敬語の距離や指揮命令関係までなくすわけではありませんので、誤解しないでください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。