ドンキホーテHDの元社長がインサイダー取引(取引推奨)の報告義務違反を理由に約1億6700万円の損害賠償を命じられる。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年12月7日、ドンキホーテHD(現、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の元社長がインサイダー取引規制違反(取引推奨)した件に関して、会社に対する報告義務違反があることを理由に、約1億6700万円の損害賠償を命じられました。

共同通信社の配信では「自らの違法行為を報告すべき義務を怠った」と、会社法の報告義務違反であるように書かれています。

他方、日経新聞の記事では「元社長には取締役としての善管注意義務などに基づき、自らの金商法の違法行為を会社の取締役会に報告すべき義務があった」と、会社法の報告義務そのものではなく、報告義務の根拠が善管注意義務にあるような書きぶりになっています。

本記事執筆時点では判例データベースには判決全文が掲載されていないので、どちらが正しいのか気になるところです。

ドンキホーテHD元社長のインサイダー取引規制違反(取引推奨)

ドンキホーテHD元社長のインサイダー取引規制違反(取引推奨)の事案の概要は、次のとおりです。

  1. ドンキホーテHD(当時)とユニー・ファミリーマートHD(当時)とが資本・業務提携を協議
  2. 2018年8月頃にドンキホーテHDの社長(当時)が友人にドンキホーテHDの株式を購入するよう取引を推奨し、2018年9月に友人は76,500株を購入
  3. 2018年10月11日にユニー・ファミリーマートHDがドンキHDの株式公開買い付け(TOB)を公表し、友人はこれに応じて6900万円の利益を得た
  4. 2020年4月27日、ドンキホーテHDの社長(2019年に辞任)は金商法のインサイダー取引規制違反(取引推奨)で懲役2年、執行猶予4年の有罪判決(東京地裁)
  5. 2023年12月7日、違法行為の報告義務違反を理由に約1億6700万円の損害賠償を命じる判決(東京地裁)

インサイダー取引規制違反(取引推奨)で刑事責任が認められた事例としては、IRジャパンの元副社長のケースもあります(東京地裁2023年10月5日)。以前に記事を書きました。

取締役の報告義務

今回、ドンキホーテHDの元社長は、インサイダー取引規制違反(取引推奨)の報告義務違反を理由に約1億6700万円の損害賠償が命じられました。

取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役や監査等委員会(これらの機関がない会社は株主)に報告する義務を負っています(会社法357条1項。なお、指名委員会等設置会社では取締役に業務執行権限がないので、報告義務はありません(419条3項))。

そもそも取締役は株主に対して善管注意義務を負い、企業価値の最大化を図る責任を負っています。また、監査役や監査等委員会は、取締役が企業価値を毀損する違法行為の差止請求権限を持っています。

そのため、自らが行った違法行為など企業価値を毀損させる行為をしたときには、監査役・監査等委員会・株主に報告しなければならないのです。

その意味では、報告義務は、善管注意義務の内容の一つを明確にした義務とも言えます。

取締役であれば毎月の取締役会や経営会議で自分の担当業務について報告することによって、他の取締役と情報を共有し、かつ、他の取締役からの監視を受けているはずです。

この毎月の取締役会や経営会議での報告に際して、売上・利益にプラスとなる情報を共有するだけではなく、報告義務を意識して、企業価値を既存するおそれのある情報を盛り込むのです。

法人の両罰規定に基づく損害賠償の可能性

取締役がインサイダー取引規制違反をしたときには、取締役個人に刑事罰や課徴金が課されるだけではなく、法人も両罰で5億円以下の罰金を課されることもあります。

取締役のインサイダー取引規制違反によって法人に罰金が課されれば、それは法人にとっての損害ですから、法人は取締役個人に損害賠償を請求します。

なお、今回のドンキホーテHDの元社長のケースは、まだ判決文がデータベースで見られないので、何をもって報告義務違反による「損害」と主張したのかがわかりません。

会社が損害賠償を請求しなければ、株主が取締役個人に対して代表訴訟を提起することもあり得ます。

ドンキホーテHD元社長のインサイダー取引規制違反ではドンキホーテHDには罰金は課されていないようですが(未確認)、もし罰金が課されることがあれば、これもまた損害賠償請求の対象になるでしょう。

取締役が安易に友人に取引推奨すると、刑事・民事の責任が問われる想像以上に悪い未来が待っていることを覚悟してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。