愛知県東郷町町長のハラスメント発言をきっかけに不信任決議へ。ハラスメントへの感度が時代遅れ。どんな言動がハラスメントに該当するかの判断基準を今一度。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年11月13日、愛知県東郷町の井俣町長が職員らに対してパワーハラスメント、セクシャルハラスメントに該当する言動を繰り返していたことが明らかになりました。

議長のハラスメントに対する感度があまりに時代遅れだったため、今一度、どんな言動がハラスメントに該当するのかを解説します。

時代遅れのハラスメント感度

明らかになった経緯は、東郷町の男性職員が、町長の言動が目に余るのをきっかけに、自主的に職員約230人に調査したことです。

72人から回答があり、うち39人がハラスメントの被害にあった、または目撃したと回答しています。

具体的には、「お前は本当に頭が悪いな」「お前の頭は帽子をかぶるだけだな、考えるためじゃない」「死ね」「殺すぞ」「三流大学以下の奴ばかりだ」「採用してもらってラッキーだったな」などの発言があったことや、手術をする女性職員に対して「いつ巨乳になって戻ってくるの?」などと発言していた、と報じられています。

これに対し、井俣町長は、11月15日に町議会議員らに釈明し、16日に記者会見を行いました。

その内容は

  • 「私自身がジョークを挟んだ会話を好む傾向があるということもあり、ジョークや軽口を挟むようなことが多々ありました。そこにいる職員の間でも笑いも起きたりしながら、仕事が進んでいた」
  • (「いつ巨乳になって帰ってくるの」という発言)「以前から冗談を言い合う関係でもあり、冗談のやりとりと認識してくれているのでは」

というものでした。中には、職員の家族を揶揄する言動もあったようです。

パワハラ、セクハラ、マタハラなどハラスメントが法律上の規制され、企業内ではハラスメントに対して厳しい教育が繰り返さ、処分も行われている現代において、町長のハラスメントに対する感度があまりにも時代遅れな印象を受けます。

ハラスメントの成否に関する基準

ハラスメントの感度を高めるためには、ハラスメントの成否の基準を抑えておくことが不可欠です。

法律上の基準(最低限の基準)

ハラスメントが成立するか否かの基準は、「人格権」の侵害かどうかです。

典型的なハラスメントであるパワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントについては、「人格権」侵害かどうかを判断する基準(定義)が法律に定められています。

詳しくは、厚労省が作成したパンフレットを見てください。

最近では、マタニティハラスメントだけではなく、父性を背景とするパタニティハラスメントも問題になっています。こちらは以前に取り上げました。

法律上「ハラスメント」に該当しない言動でも許されないことがある

法律上「ハラスメント」に該当しない言動だとしても、そのすべてが許されるわけではありません。

ひとつひとつの言動を個別に見れば「ハラスメント」の定義に該当しない言動であっても、言動を総合的に見たときに「人格権」を侵害するときには、不法行為であり違法です。

上司から部下に対する言動なら指揮命令の裁量を逸脱して違法、と評価することもできます。

また、「人格権」侵害とまで行かない言動でも、その言動がきっかけで、従業員が働きにくい職場環境になっているのであれば、会社・取締役は内部統制や安全配慮義務の一貫である職場環境・体制の構築義務違反です。

「ハラスメント」という言葉の定義を小さくして、定義に該当しない言動をすれば問題がない、となるわけではありません。認識を改める必要があります。

過去に裁判例になっている事例も多いので、そうした事例を参考に慎重な言動をしてください。

ジョークなら許されるのか~海遊館事件判決~

東郷町の町長は、「ジョーク」「軽口」「冗談」などと釈明しています。

悪意を持ったハラスメントではない(だから許される)と弁明したかったのでしょうが、これがハラスメントに対する感度が世間や企業人の感覚と大きくズレているところです。

海遊館事件判決(最判2015年2月26日)では、管理職の男性ら2人から女性従業員(派遣社員と受託業務に従事する取引先の社員)に対する言動について、女性従業員からの明確な抗議はなかったけれども、セクシャルハラスメントの成立を認めました。

判決の前提となったセクハラの具体的な言動は、厚労省のサイトにわかりやすく整理されています。

この判決では、以下のように判示し、女性従業員から明確な抗議がなかった事実は、加害者や職場での人間関係に気を遣っただけの可能性があるから、セクシャルハラスメントの成立を否定する要素(言動が受け容れられている要素)にはならないと評価しました。

職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心で著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、人間関係の悪化等を懸念して加害者に対する抵抗や被害申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくないことから、被害者が抗議等をしなかったことを加害者に有利に斟酌することは相当でない。

海遊館事件(最判2015年2月26日)

東郷町長の言動にあてはめると、町長はジョーク、冗談、軽口のつもりで、職員らはその場で笑ったり、町長と冗談を言い合ったとしても、それは、町長との関係の悪化を懸念して気を遣っているだけの可能性がある、ということです。

ジョーク、冗談、軽口だからといって、ハラスメントの免罪符にはならない、とも言えます。

最終的には、第三者である裁判所が見て、その言動が「優越的・性的な関係を背景とする言動」であって「業務上の必要性や相当性を欠く」と判断されれば、ハラスメントは成立してしまいます。

別の言い方をすれば、東郷町長に限らず、人の上に立つ役職についた者は、部下が常に自分に気を遣って迎合しているだけで、本気で笑いやジョーク、冗談につき合ってくれているわけではないこと、を理解・覚悟したうえで、部下に対する言葉を選ばなければならないのです。

にもかかわらず、東郷町長は、釈明や会見の後もなおもハラスメントのおそれがある言動を繰り返していると報じられています。

報道のとおりだとすれば、反省の意識がなく、ハラスメントに対する感度が上がっていない印象しか与えません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。