公正取引委員会と中小企業庁が原材料価格等の価格に転嫁することについて自主点検を要請。「物流2024年問題」に向けて優越的地位の濫用、下請法違反の規制摘発に本腰を入れる宣言。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年9月20日、公正取引委員会と中小企業庁が「法遵守状況の自主点検の要請(フォローアップの開始)について」と題する声明を公表しました。

一瞥しただけでは意味不明。何回読んでも難解で、何が言いたいのか理解するまでに時間を擁しました。

公正取引委員会と中小企業庁による価格への転嫁を摘発する予告・宣言

公取委と中小企業庁の声明を整理すると、ポイントは以下のとおりです。

  1. 中小企業等が労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に取引価格に転嫁できるようにし、その結果、中小企業等での賃金を引上げられる環境を整備すべし。
  2. そのためには、発注者から中小企業等に対し、積極的に価格を転嫁するよう協議すべし
  3. 公正取引委員会と中小企業庁は、発注者からの協議が行われるように周知徹底していく。
  4. 取引価格への転嫁への消極的な姿勢(転嫁を認めない/認めようとしない)が「優越的地位の濫用」「下請法違反」となることを前提に、事業者・事業者団体は、自主的に点検・改善すべし。
  5. 法令違反が多く認められが故に、点検・改善に取り組むべき業種は27業種あり、その中でも荷主物流を点検・改善すべき業種は8業種ある(下記表のとおり)。
  6. 公正取引委員会と中小企業庁は、これを要請し、結果を2023年内に公表し、さらに続ける。

簡単に言えば、公正取引委員会と中小企業庁からこれらの業種の会社に対して、「労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を中小企業との取引価格に転嫁(反映)させないなら、今後は、優越的地位の濫用や下請法違反で処分する(今のうちに自主点検・改善できるなら大目に見る)」との予告・宣言と理解できます。

背景にあるのは「物流2024年問題」

物流2024年問題と優越的地位の濫用、下請法違反

公取委と中小企業庁の声明が特に荷主物流について言及していることから察するに、問題意識は「物流2024年問題」への対応あると推測できます。

物流2024年問題とは、

  1. 2024年4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限される。
  2. その結果、運送会社は1日に運べる物流量が減るので、従来どおりの売上を確保するためには、適正な取引価格に上げる必要がある(そう簡単には取引価格は上げられない難しさもある)。
  3. 運送会社が1日に運べる物流量を維持・増加するためには、トラックドライバーが運転だけをしていればよい時間を確保できる必要がある(トラックドライバーが荷受け、荷積みのための待機時間を減らし、そのために、荷主が効率的に荷渡し、荷積みをする必要がある)。
  4. トラックドライバーも1日の労働時間が減るので収入が減る。運送会社がトラックドライバーの雇用を確保・維持・増強するためには、トラックドライバーの人件費も上げる必要がある(取引価格が上がらなければ、それも難しい)。
  5. 原材料費、エネルギーコストも上昇しているので、取引価格や人件費を多少上げただけでは、運送会社の売上は下がり、トラックドライバーもなり手がいなくなる(そのためには、取引価格への適正な転嫁が必要である)。
  6. トラックドライバーが荷受けや荷積みを行うことは運送以外の業務なので、運送費とは別料金を支払うべきである。

という複数の要素を考慮して対処しなければいけない問題のことです。

この2と5と6の要素に関わるのが、今回の公取委と中小企業庁の声明です。

人件費、原材料費、エネルギーコストを取引価格に転嫁しなければ、優越的地位の濫用、または下請法の「買い叩き」です。

また、運送以外の荷受けや荷積み業務に費用を支払わずにトラックドライバーに手伝わせることも優越的地位の濫用、または経済上の利益の無償提供として下請法で禁止される行為です。

なお、物流2024年問題については、消費者庁が「送料無料」表示の見直しに取り組んでいることでもニュースになりました。

こちらも、2と5の要素に関わります。

なお、10月1日から始まるインボイス制度に関しても、5月に公正取引委員会は取引価格への転嫁に関して優越的地位の濫用のおそれ・下請法違反のおそれがあることを公表しています。

物流2024年問題への対応と取締役の責任

物流2024年問題に積極的に取り組んでいる会社の中には、既に会社としての方針を決め、対応が終わっているところもあります。

多くの会社は、進捗の違いはあれ、積極的に対応に取り組んでいる最中でしょう。

物流2024年問題への対応が後手になった結果、懇意にしていた運送会社が潰れた、あるいは事業を縮小し、それによって、自社の物流に支障を来したとすれば、それは、取締役の不適切な経営判断の責任と言ってもいいでしょう。

物流2024年問題への対応は、取締役の責任に繋がります。

闇雲に取り組んでも解決策は見えないと思います。物流2024年問題の内容を上記のように分解・整理して、できるところから対応していったらよいのではないでしょうか。

なお、厚労省、国交相、全日本トラック協会からは、物流2024年問題に向けた冊子(ガイドライン)を出しています。

これも参考になるはずです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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