阪神タイガースのアレ効果。商標権の使用許諾契約件数が2022年比倍増の1500件超。商標権と取締役の責任。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年9月14日、プロ野球の阪神タイガースが18年ぶりにアレしました。カーネルサンダースの呪いが久しぶりに解けました。

日経新聞の報道によると、阪神タイガースのアレ効果で、2023年4月〜8月、球団が締結した商標権の使用許諾契約が約1500件に達しているそうです。約700件だった2022年同期から倍増です。

これまでも球団の売上高の3割をライセンス収入が占めていたようなので、使用許諾契約の倍増によってますます収入が増えることが見込まれます。

なお、阪神タイガースの登録商標は、特許情報プラットフォームで「阪神タイガース」で検索すると確認することができます。

商標戦略、ライセンスビジネスの重要性は他にも多数論考があると思いますので、今回は、商標戦略を取締役の責任という観点から考えます。

商標戦略を考えることは取締役の義務であり責任

法律を考慮した商標戦略

自社の商品・サービスについて商標権を登録するか否か、どの範囲の権利を保護できるように登録するか、登録した上で使用許諾契約に基づくライセンス収入を得るか、あるいは自社では登録せずに他社から使用許諾を得てライセンス料を支払っていくか、これらすべてが商標戦略の内容です。

阪神タイガース同様、大阪での事例を挙げるなら、2025年の大阪・関西万博に向けて「ビリケンさん」の商標権を登録している田村駒が、商標ライセンス事業を強化することを明らかにしています。

また、通天閣は商標権・著作権の知的財産権を厳しく管理しています。

ライセンシーが訴訟したケース(木久蔵ラーメン)

2023年9月8日には、落語家の林家木久蔵(当時。現、林家木久扇)が代表するトヨタアートから商標権の使用許諾を得て、「木久蔵ラーメン」を製造・販売していた食品会社まあるいテーブルが、2015年に商標権の存続期間が満了していたことを理由に、2021年6月以降の使用許諾料の支払いを止め、かつ、存続期間満了後に支払ったライセンス料の返還を求めたケースで、裁判所は、木久蔵が過去の芸名で著名であり、登録商標でなくても無断使用は「パブリシティー権侵害に当たり得る」ことを理由に、請求を棄却しました(福岡地裁2023年9月8日)。

まあるいテーブルのようなライセンシーの会社が、商標権の存続期間満了後に使用許諾契約を終了させるのか、それとも契約を存続させた上でライセンス料の見直しを求めるのかなどを考えることも、法律を考慮した商標戦略です。

林家木久蔵が代表するトヨタアートのようなライセンサーの会社が、商標権の存続期間を更新するのか、それとも更新しなくともパブリシティー権が発生しているなどと判断することも、法律を考慮した商標戦略です。

商標戦略は経営判断であると同時に内部統制

企業規模がそれほど大きくない会社では商標戦略を社長自らが考えることも少なくないでしょう。他方で、企業規模が大きい会社では商標戦略を知的財産担当の役員に任せている会社がほとんどでしょう。

社長が自ら考えている場合はまだいいのですが、知財担当の役員に任せきりにすることは、取締役の責任という観点からは危険です。

取締役会設置会社の取締役会と、取締役会非設置会社でも会社法上の大会社の取締役は、内部統制システムの一環として「情報の保存管理体制」を構築する義務を負います。構築には、規定や組織を作る意味の整備だけでなく、規定や組織を回していく意味の機能させる義務も含まれます。

情報というと企業秘密(営業秘密)、個人情報などが思い浮かぶと思いますが、それだけではなく、特許・実用新案、意匠、商標、著作権などの知的財産も情報に含まれます。

そのため、商標などの知的財産の保存管理体制として、知的財産に関する部署や担当者を決めるだけでなく、知的財産戦略としての商標戦略を考え、体制を回していくことも取締役の責任です。

商標戦略は、売上・利益など企業価値を最大化するための経営判断の側面があるのはもちろんですが、内部統制システムの一環である知的財産・商標の保存管理体制を機能させる側面もあります。

商標権を侵害したときの取締役の責任

自社の商品・サービスが第三者の商標権を侵害してしまったとき、商標権者から損害賠償請求、差止請求、または今後の使用許諾契約の締結を求められることは、よくあります。

この場合に、商標権を侵害した会社が主たる当事者になりますが、商標権を侵害した会社の取締役も、取締役の対第三者責任に基づいて損害賠償責任を負うことがあります。

加圧ベルト画像著作権侵害事件(東京高判2023年6月21日、東京地判2022年11月4日)

商標権ではなく著作権を侵害した事例で、侵害会社の取締役の損害賠償責任が認められた裁判例があります。

事案の概要と理由は以下のとおりです。

  1. サーナは、自社サイトに、加圧ベルトの画像を掲載していた。画像は商品の写真と説明文を内容とした。商品の写真はアリシアの代表者が撮影会社に商品の置き方やアングルなども指示するなど指揮監督下で撮影された職務著作物であり、サーナに著作権が帰属する。
  2. サーナは、自社サイトに、説明文部分に自社名と自社知的財産権の承諾品であることを記載した。
  3. アリシアは、本件画像の複製物を自社オンラインストアに無断で掲載したことは、サーナの著作権(複製権、公衆送信権)を侵害する。
  4. 本件画像の内容から、サーナが本件画像の著作権を有する可能性があることをアリシアは容易に認識できたにもかかわらず、複製物を無断掲載した。アリシアは、著作権(複製権、公衆送信権)の侵害に、故意があったか、又は少なくとも重過失があった。
  5. アリシアの代表取締役はオンラインストアの責任者で、本件画像の複製物が自社オンラインストアに無断で掲載されることを認識していた。かつ、本件画像の著作権がサーナにあることを容易に認識できた
  6. サーナが著作権を有する可能性のある本件画像の複製物を、アリシアのオンラインストアに掲載しないようにさせるべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠った。任務懈怠について少なくとも重大な過失がある。

第三者の知的財産権を侵害した会社の取締役であるというだけで対第三者責任が認められるわけではありません。あくまでも、第三者の知的財産権であることと、会社が第三者の知的財産権を侵害していることを認識できたのに、それを予防・停止しなかったときに対第三者責任を負います

例えば、阪神タイガースのアレに便乗して、使用許諾契約を締結しないで、タイガースの商標を使用したグッズを製作、販売してしまうと、取締役に賠償責任が生じます。

取締役は自社の商標その他の知的財産権の保護だけではなく、第三者の商標その他の知的財産権を保護しなければならない/侵害してはならない/必要なら使用許諾契約を締結しなければならないとのコンプライアンスの意識を持つことが不可欠です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。