ジャニーズ事務所の性加害問題に関する調査報告書の無意味さ。事実認定はどこまで信用できるのか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年8月29日に、ジャニーズ事務所は、創業者である故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に関する外部専門家による再発防止特別チームによる調査報告書を公表しました。

率直に言えば、ジャニー喜多川氏による性加害があったかどうかについては、あまり関心がありません。

それでも、この問題を取り上げるのは、一方当事者であるジャニー喜多川氏が亡くなった現状で、この調査を実施することにどんな意味があるのか、その意義がよくわからないからです。

調査報告書の事実認定、評価はどこまで信用できるのか

調査報告書は性加害問題が存在することを前提にしたもの

調査報告書によると、今回の調査の目的は

  1. ジャニーズ事務所の過去の対応にどのような問題があったのかを厳正に検証する
  2. 検証結果を踏まえて、ジャニーズ事務所のガバナンス上の問題に関する再発防止策を提言し、実行を求める

の2点です。

1は、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題があったことを前提として、同氏に対する当時の役員らによる相互の監視監督義務に関する問題と、同氏による性加害問題を予防・防止するガバナンス体制の整備・機能に関する問題と整理することができます。

2は、1の取締役相互の監視監督義務が機能していなかったこと、性加害問題を予防・防止するガバナンス体制が整備されていなかった・機能していなかったことを前提として、その再発防止策に関する提言と整理できます。

いずれも、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題があったことが前提となっています。

調査報告書の事実認定に信用性はあるのか

調査報告書には、週刊文春が性加害問題を曝露したことにジャニーズ事務所が名誉毀損で損害賠償を請求した訴訟でも性加害問題の存在は事実認定され、ジャニーズ事務所の請求は棄却されたことも記載されています。

週刊文春との訴訟で認定されている事実を踏まえると、故・ジャニー喜多川氏による性加害がある程度は存在したことは事実だと思います。

しかし、調査報告書が、それ以外の、一方当事者である被害者からのヒアリングの結果だけをもとに、性加害問題の存在や内容を事実認定した部分には、信用性に疑問がないわけではありません。

相当程度迫真性のあるヒアリング結果が記載されているので、すべてが虚偽であるとまでは思いません。むしろ、その多くは真実なのだろうと思います。

とはいえ、一方当事者からのヒアリング結果だけで認定することは、ヒアリングされた当事者に都合がいいことだけが内容になっている可能性があります。

また、ヒアリング結果があるだけで、それを裏付ける物証や客観的な事実との整合性(被害を証言した者の年齢と実際の年齢の相違、被害にあったという日時・場所に被害者が実際にいたのかどうか)なども確認されていません。

ジャニー喜多川氏は亡くなっているため「死人に口なし」として、その言い分を弁明することができません。

そのため、本当に、その事実認定の全部を鵜呑みにして信用してよいのだろうかと躊躇してしまいます。

なぜ、このような躊躇をするかというと、次に紹介するスルガ銀行事件訴訟のように、裁判所が第三者委員会の調査報告書での事実認定を覆すケースも存在しているからです。

スルガ銀行事件訴訟

過去には、かぼちゃの馬車事件で、スルガ銀行の元専務執行役員が、審査部門に強い圧力を加えて融資審査を形骸化させたことなどと第三者委員会の調査報告書で事実認定、評価されたことを理由に懲戒解雇されたケースがありました。

このケースでは、元専務執行役員が懲戒解雇の無効を争ったところ、裁判所は、元専務執行役員と対立する人たちの証言であり、圧力の内容も具体的ではないことなどを理由に、第三者委員会の調査報告書での事実認定、評価を覆し、懲戒解雇の無効を認めました。

詳細は、以前の投稿で説明していますので、そちらをご覧下さい。

この裁判例の存在を知っていると、一方当事者だけからのヒアリング結果だけで事実認定しているジャニーズ事務所の調査報告書を信用することができるのか躊躇してしまうのです。

ジャニーズ事務所の調査報告書の意義

取締役相互の監視監督義務

ジャニーズ事務所の調査報告書での事実認定のすべてを鵜呑みにすることには躊躇を覚えても、でも、週刊文春との訴訟の結果を見る限り、故・ジャニー喜多川氏からの性加害がある程度存在したことは事実だろうと思います。

そうなると、どんなに遅くても、週刊文春との訴訟でジャニーズ事務所の敗訴が確定した時点で、ジャニーズ事務所の他の役員(取締役、監査役)は、この時点で所属タレントからのヒアリング調査を実施し、訴訟にはなっていない類似事例を明るみに、かつ、故・ジャニー喜多川氏に対する監視監督義務として代表取締役社長からの解職を決議するほか、非難する決議などをすべきだったように思います。

この点は、調査報告書の中でも指摘されています。

こちらは、過去にあったセイクレスト事件が参考になると思います。

再発を予防するためのガバナンス体制の整備・機能

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題の存在が、週刊文春との訴訟で事実認定されたのであれば、他の取締役は、遅くともこの時点で再発を防止し、被害が拡大することを防止するための体制を整備し、その後、その体制を機能させ続けることが必要でした。

具体的現実的な体制

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が発生した要因として、故・ジャニー喜多川氏の自宅等に所属タレントを宿泊させるなどがあります。

そのため、所属タレントを故・ジャニー喜多川氏の自宅に招くことを禁止する/招いたとしても宿泊は禁止させる/地方遠征のときにはホテルは別にするなどの対策は立てられたのではないかと思います。

内部通報制度を設置すべきタイミング

週刊文春との訴訟が最高裁で確定したのは2004年2月24日なので、今のガバナンスの議論や水準を前提に、その時点で内部通報制度を設置することまで求めるのは酷な気はします。

公益通報者保護法が成立したのは2004年6月に成立し、2006年4月1日から施行されました。2004年2月当時も金融機関を中心に内部通報制度に類似する窓口を設置している会社はありましたが、まだまだ少なかったのが現実です。私が経団連で加盟企業向けに内部通報制度の設置や運用をテーマにしたセミナーを行ったのも、この前後だったように記憶しています。公益通報者保護法が成立してから施行までの間に上場会社やそのグループ会社を中心に一気に設置されるようになりました。

とはいえ、2006年4月1日以降公益通報者保護法が施行されているので、その時点以降は、従業員や所属タレントが通報できる窓口を設置すべきでした。

調査報告書によると、ジャニーズ事務所が窓口を設置したのは2023年4月とのことです。これはあまりにも遅すぎ、故・ジャニー喜多川氏に対する牽制は効いていなかったと言ってもいいでしょう。

メディア、業界に対する提言

調査報告書では、メディアや業界に対する提言も記載されています。

ただ、責任逃れで、他責にしているようにも読めてしまいます

調査報告書として記載するなら、メディアや業界がジャニーズ事務所、故・ジャニー喜多川氏に気を遣って報道による批判をしない体質になった背景事情、例えば、ジャニーズ事務所を批判したら所属タレントを出演させなくなった実績、雑誌に掲載させなくなった実績が過去にあったことなどを指摘した方がよかったのではないかと思います。

そうすれば、メディアや業界に気を遣わせる、報道させないジャニーズ事務所の体質、姿勢の問題となり、ジャニーズ事務所による独禁法の優越的地位の濫用などの問題として捉えることができたのではないでしょうか。

ジャニーズ事務所の問題として捉えることができれば、ジャニーズ事務所とメディアや業界との今後の付き合い方を改める(批判を歓迎する、批判しても所属タレントの出演停止などはしない)という再発防止策に繋げることができたはずです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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