日本共産党の申し入れで「水着撮影会」が中止に。表現活動・営業活動に対して政治的圧力やクレームを受けた場合、会社は危機管理上どう対応すべきか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公益財団法人「埼玉県公園緑地協会」が、日本共産党からの申し入れをきっかけに、2023年6月10日、11日、24日、25日に埼玉県の川越水上公園、しらこばと水上公園のプールで予定されていた水着撮影会への貸出を禁止したことが、SNSを中心に大きな話題になっています。

水着撮影会という表現活動、営業活動に対して政治的圧力やクレームが入った場合、撮影場所を提供している管理者や撮影会を運営していた会社はどのように対応すべきでしょうか。危機管理の観点から考えたいと思います。

政治的な意見の偏りについて意見するつもりはないので、そこは誤解しないようにしてください

表現活動や営業活動に対する政治的圧力やクレーム

水着撮影会に限らず、会社などが行う表現活動や営業活動に対して政治的圧力やクレームに入ること、場所を提供している管理者に政治的圧力やクレームが入ることが少なくありません。

最近では、2023年4月に八王子市で行われた市議会議員選挙では、八王子市が作成した投票を啓発するポスターに女性アイドルを起用したことについてジェンダー平等に反しているなどとクレームがありました。これに対し、6月1日、八王子市の第三者委員会は「男女共同参画に反していない」との結論を出しています。

2022年3月には厚労省が追加公表した複数種類のカスタマーハラスメント対策を啓発するポスターにも「老人をクレーマー扱いするのか」「女はヒステリックと思っている人が作ったポスターだ」などの批判がSNSに散見されました。

会社や場所の管理者がクレームをすべて受けいれていたらキリがありません。中には傾聴に値するクレームもあるかもしれませんが、そうではない場合には、会社や場所の管理者はクレームを拒絶することも必要です。

特に政治的圧力を受けいれることは、選挙で多数派になったわけでもない政党や議員の意見に屈することになり民主主義に反します。政治的圧力の内容が正しいなら法令・条例を改正する、行政処分をするのが正しい運用です。

日本国内の「危機管理」の歴史

政治的圧力やクレームへの対処法の基本は、「昔ながらの危機管理」の原則を思い出すことが必要です。

「昔ながらの危機管理」とは何かを説明するためにも、本題に入る前に、日本国内で「危機管理」という言葉が意味する内容の変遷を振り返ってみましょう。おそらく歴史を知っている人も少なくなってきたと思うので・・。

元々、日本国内で「危機管理」と言った場合、一般的には、オイルショックや災害対応などを意味していました。今で言う事業継続計画(BCP)はこの「危機管理」です。

会社に限って言えば、1960年代〜2010年頃は、総会屋や反社会的勢力からのクレーム対応の「危機管理」がメインでした。1981年に商法(当時)が改正されて利益供与が禁止になったり、久保利英明弁護士が総会屋対策で株主総会の一括上程・一括審議方式を確立したのは、この一環です。人権活動などを表向きの理由に反社会的勢力が作った書籍や新聞を会社に購入させたり、啓蒙活動と称した活動をしていたのもこの時期が中心です(これよりも前からそういう手法をとっていた勢力もいます。未だに役所が特殊な書籍や新聞を購入したままになっているとの話しもあります)。多くの会社では総務部、法務部が「危機管理」の中心でした。

1980年代からは消費者からのクレーム対応が「危機管理」の中心になっていきました。特に、2ちゃんねる(当時)黎明期の1999年に起きた東芝クレーマー事件はクレームがインターネットやネット掲示板に馴染むことを世の中に広く知らせる契機となり、消費者クレーム対応の危機管理に関する書籍も多く出版されました。多くの会社が総務部から切り離して、お客様相談室などを作ったのもこの頃です。

私が「昔ながらの危機管理」と言っているのは、この反社会的勢力対応と消費者クレーム対応です。

2000年に雪印乳業集団食中毒事件と三菱自動車リコール隠し事件が相次いで発生すると、会社の不正・不祥事発生後の事後対応、クライシスマネジメントとしての「危機管理」が知られるようになりました。問題意識の高い会社では、この頃から「危機管理広報」に取り組み始めていますが、まだまだ世の中には「危機管理広報」は知られていない時期です。まだ多くの会社では総務部・法務部が危機管理の中心部署だったと思います。

2006年に会社法が改正されると、損失の危機管理体制を整備する取締役・取締役会の義務が生じたので、危機管理委員会が整備されるようになり、第三者委員会による事後調査の「危機管理」が一般的になりました。ダスキン事件判決によって「危機管理広報」の重要性に気付いた会社が増えたのも2006年です。ここで総務部・法務部だけではなく、取締役・取締役会も加わって、危機管理に全社で取り組むようになった印象を受けます。

ちなみに、今や一般的となった第三者委員会を作って調査報告書を作成する「危機管理」ですが、正直に言えば、ただの事後処理と再発防止策であって、時々刻々と変化する中で対処法を考えなければならない本来的な「危機管理」とは緊張感が違います。

私が2000年に弁護士登録したときには、総会屋対策としての危機管理、消費者クレーム対応の危機管理、企業の不正・不祥事対応の危機管理がすべて全盛期を迎えるタイミングだったので、全部経験しました。

本題に話を戻しましょう。

会社や場所の管理者が行うべき「昔ながらの危機管理」

「昔ながらの危機管理」の現代版ポイント10

表現行為に対する政治的圧力やクレームがあった場合に行う「昔ながらの危機管理」とは何でしょうか。

よく「毅然とした対応」との表現が使われることがあります。しかし、「毅然とした対応」の内容がわからないからこそ多くの会社は困っていると思います。「毅然とした対応」という曖昧で抽象的な表現では何も説明したことになりません。

ここでは「昔ながらの危機管理」を現代版にアレンジしたポイントを10個挙げたいと思います。

  1. 政治的圧力やクレームに対する会社の方針をあらかじめ定めておく
  2. 政治的圧力やクレームを馬鹿にしない
  3. 「誰」が圧力やクレームを言っているかで対応を決めるのではなく「内容」で判断する
  4. 政治的圧力やクレームの「内容」を正しく把握する(対応すべきゴールをずらされないようにする)
  5. 政治的圧力やクレームの「内容」と会社が対応・回答した内容(5W1H)を記録する
  6. 担当者一人で対応するのではなく、組織で対応する(複数人以上での対応)
  7. 感情で対応せず、理論で対応する
  8. 「できない」「無理」なものは明確に断る、期待を抱かせない
  9. 弁護士、警察などに積極的に相談する。必要に応じて法的措置を講じる
  10. 事案によっては一連の経緯や会社の考えを公式サイトや公式アカウントにて公表する

各ポイントの内容を簡単に解説します。

[ポイント1]政治的圧力やクレームに対する会社の方針をあらかじめ定めておく

会社の方針が何も定まっていないと、政治的圧力やクレームを受けた担当者やその上司は「断っていいのか」の判断がつきません。

特に「責任を取りたくない」「面倒に巻きこまれたくない」と思っている担当者であれば「断ってややこしいことになる、SNSでつるし上げられるくらいなら受けいれてしまおう」と判断しがちです。

担当者が断った後に「なんで断ったんだ、炎上してしまったではないか」と担当者に責任を押し付けるセコい上司や役員もいます。

会社は担当者が適切に対応するためにも、政治的圧力やクレームに「屈しない」「拒絶して構わない」との方針をあらかじめ定めておくことが必要です。

そうすることで、政治的圧力やクレームを言ってくる人たちから「責任者を出せ」と求められても、「私が責任者です」と容易に拒絶しやすくなり、また「担当者を変えたら、政治的圧力やクレームが通るかもしれない」との淡い期待を砕くこともできます。

[ポイント2]政治的圧力やクレームを馬鹿にしない

政治的圧力やクレームを言ってくる人は、世の中の人たちから見たら「少数派」に属することが多いです。要は、多くの人たちにとっては「異論」です。

だからといって、担当者が、政治的圧力やクレームを言ってくる人を馬鹿にしたり、下に見る言動や態度を示すと、それが火に油を注ぐことになり、余計に政治的圧力やクレームをかけてます。

担当者は政治的圧力やクレームには誠実に耳を傾けることが必要です。

ただし、あくまで耳を傾けるだけであって「屈する」「受けいれる」わけではありません。「端から否定しない」「下に見ない」というだけです。

[ポイント3]「誰」が圧力やクレームを言っているで対応を決めるのではなく「内容」で判断する

政治的圧力やクレームを言ってくる人が議員、士業、NPO法人などの肩書きがある場合、担当者は「断ったらつるし上げられるのではないか」「社会的責任(CSR)に反するのではないか」と考えて、屈してしまいがちです。

しかし、議員、士業、NPO法人などの肩書きがあるからといって、政治的圧力やクレームの内容が正しいとは限りません。

例えば、今回の水着撮影会への申し入れは会社ではなく公益財団法人に対するものですが、申し入れの理由について、日本共産党埼玉県議会議員団は「明らかに『性の商品化』を目的とした興業」であり、都市公園法第1条の「都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」などと主張しています。

公益財団法人は、この主張している内容が正しいのかどうかを吟味してから、クレームを受けいれるかどうかを判断する必要があるのです。

まず、日本共産党は、そもそもプールでの水着撮影会が「性の商品化を目的とした興業」と主張しているけれども、公益財団法人は、その主張が正しいのかをキチンと判断することが必要です。

また、都市計画法1条の「目的」を主張していますが、「目的」と「手段」は別です。都市計画法を定めた人たちは「目的」を達成するために必要な手段を2条以下に定めているのであって、2条以下に定めていない手段は、目的を達成するための「手段」としては不要だと考えていたもの、想定していないものです。

「目的」を達成するために水着撮影会を実施してはならないとの政治的圧力やクレームを受けたのであれば、都市計画法の具体的などの条項に違反するのかを明確にしてもらう、あるいは都市計画法を改正してもらうことが必要だと思います。

[ポイント4]政治的圧力やクレームの「内容」を正しく把握する(対応すべきゴールをずらされないようにする)

政治的圧力やクレームを会社が拒絶すると、往々にして起きるのが「ゴールずらし」です。

主張される内容を拒絶すると「男女不平等、ジェンダー差別を助長する」などと広い話しにゴールをずらされたりすることが典型です。

堂々巡りになったり、次から次への新しい論点に発展してキリがなくなることを防止するために、会社は政治的圧力やクレームの内容を正しく把握し、その内容についてのみ拒絶したことを明確にすることが必要です。

[ポイント5]政治的圧力やクレームの「内容」と会社が対応・回答した内容(5W1H)を記録する

ポイント4とも共通します。

政治的圧力やクレームを拒絶した場合、政治的圧力やクレームを言ってきた人が自分たちにとって都合の良いところだけを切り取り、都合の悪いところは隠して、次なる政治的圧力やクレームを仕掛けてくることは少なくありません。

会社はどんな内容の政治的圧力やクレームに対し、どのような対応・回答をしたのかを記録に残し、時には録画や録音をし、都合よく切り貼りされないようにしておくことが必要です。

そのためには口頭だけで対応するときには録音しながら対応する、あるいは書面で回答するなどの後から第三者(主に裁判所を念頭に)に説明できるようにして欲しいです。

[ポイント6]担当者一人で対応するのではなく、組織で対応する(複数人以上での対応)

会社が政治的圧力やクレームに「屈しない」「拒絶しても構わない」との方針を定めていても、担当者が一人で対応していると、どうしても政治的圧力やクレームを言ってくる人たちの数の力に負けてしまうことがあります。

会社は担当者一人ではなく、組織で担当者を守るためにも、複数人以上で対応することが必要です。

その際には、複数の担当者間で対応に齟齬が生じないようにするために、担当者間での情報共有をマメにしておくことが不可欠です。

情報共有を正しく行うためにも、ポイント5で書いたような記録を残すことが必要です。

[ポイント7]感情で対応せず、理論で対応する

政治的圧力やクレームが「弱者救済」「差別反対」などの感情論である場合、ある意味、政治的圧力やクレームが「もっともらしく」正しいように思えてしまいます。

しかし、会社はその内容が正しいかどうかは「理論」でキチンと判断すべきです。

取締役・取締役会の善管注意義務とも関連しますが、会社は合理的な経営判断をする必要があります。「感情論」ではなく「理論」で説明できなければ、その後の経営判断について株主や監査役などから争われたときに裁判所で勝つことができません。まして支出が伴うときには尚更です。

今回の水着撮影会では、会社ではなく公益財団法人が政治的圧力に屈したことになりますが、考え方は同じです。

公益財団法人は貸出を禁止した理由について、

  1. 成人女性であっても過激な衣装や過激なポーズをしていたこと
  2. 未成年の出演が確認できた

と、貸し出し条件を過去に守っていないことが確認できたから、と説明しています。

他方で、1の条件は2023年1月に、2の条件は2023年6月に定められた条件とのことで、今回の水着撮影会までにその条件に違反したわけではありません。

また、貸出を一度許可したために、水着撮影会を運営する会社は開催に向けて準備しています。

この状況では、公益財団法人から「今回の水着撮影会では1と2の条件が新しくできたので、条件を守るように」と注意喚起すれば済む話しで、3日前になって貸出を禁止するのは理論的ではありません。

公益財団法人は、水着撮影会を運営する会社から契約締結上の過失などを理由に損害賠償請求されたときに、理屈上戦えるのでしょうか。

※2023/6/12下記追記

埼玉県知事がTwitterで対応を表明しました。だいたい上に書いたとおりの内容に落ち着いたようです。

[ポイント8]「できない」「無理」なものは明確に断る、期待を抱かせない

ポイント1とも関連しますが、担当者が政治的圧力やクレームに対して「できない」「無理」と答えた後にSNSなどで炎上した場合に、上司や役員が「なぜ拒絶したのだ」などと担当者に責任を押し付けると、担当者はあいまいな対応しかできなくなります。

その結果、「できない」「無理」と断ることができず、中途半端な態度で、政治的圧力やクレームを言った人に「主張が通るかもしれない」と期待を抱かせることにもあります。

最終的に断ると「あの時、できると言ったじゃないか」などと更なる圧力やクレームに発展しがちです。

はじめから淡い期待を抱かせないように対応することが必要です。

[ポイント9]弁護士、警察などに積極的に相談する。必要に応じて法的措置を講じる

政治的圧力やクレームに対して会社だけで対応しようとしても限界がある場合もあります。

自分たちだけでは判断ができない難しい内容で政治的圧力やクレームをかけられた場合や、担当者のメンタルを削るようなクレーム、危害を加えることを匂わせる場合です。

こうした場合には、会社だけで対応しようとせず、弁護士や警察などに積極的に相談することが必要です。時には、逮捕に発展することもあります。

水着撮影会の場合、日本共産党からの申し入れを受けたのは公益財団法人ですが、貸出を禁止される被害を受けたのは水着撮影会を運営する会社です。

水着撮影会を運営する会社は、今回の水着撮影会で貸出条件に違反したわけではないのに直前で貸出を禁止され損害を被ったのですから、公益財団法人、県、日本共産党に対して損害賠償請求することを考えて良いと思います。

※2023年6月15日追記

今回問題になった水着撮影会のうち、近代麻雀水着祭を主催する株式会社KARINTOWは、2023年4月に開催した近代麻雀水着祭2023でルール違反があったことを認め、6月24日・25日の開催を中止することを決定したことを公表しました。

過去にルール違反があった場合には、水着撮影会の中止に理由があったことになるので、損害賠償を請求することは難しくなります。

[ポイント10]事案によっては一連の経緯や会社の考えを公式サイトや公式アカウントにて公表する

政治的圧力やクレームを拒絶すると、圧力やクレームを言った側が「拒絶されました」などと自分たちの言い分をSNSやWEBサイトに公表することがあります。

この場合に放置しておくと、圧力やクレームを拒絶された側が正しいかのように誤解されて世論が掲載されてしまうこともあります。特に、拒絶された側に都合の良いところだけを切り貼りされたときには尚更そのリスクが高まります。

政治的圧力やクレームを拒否し、その内容が拒絶した側に都合の良いところだけを切り貼りしているのが見える場合には、自社の公式サイトで経緯、反論をすべて掲載する対応も必要です。

インターネットやSNSが普及する前まではこのように対応することは「昔ながらの危機管理」のマニュアルには入っていないことが多いです。

しかし、インターネットやSNS全盛の今になっては、ネット上に記録を残し、かつ多く人に情報を伝えるためにも公表することも考えた方がよいでしょう。

2023年3月には、秋田県能代市の第一観光バスが、カスタマーハラスメントの増加に関し、地元紙に「お客様は神様ではありません」と題する意見広告をして話題になりました。

大阪府の高槻市営バスは、お客様の声をすべて公式サイトに掲載し、ドライブレコーダーの記録をもとにクレームに反論などしています。

まとめ

表現活動、営業活動に対して政治的圧力やクレームが入った場合、安易に屈することは「政治的圧力やクレームを言えば、応じてもらえる」と理解され、次なる政治的圧力やクレームを招きます。テロや恐喝に屈することが次のテロや恐喝の呼び水になるのと同じです。

安易に屈して、それによって自社や関係者に損害が生じたときには、その損害について会社が責任を負わなければならない事態に発展することを理解し、「昔ながらの危機管理」を踏まえた対応をしましょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。