プルデンシャル生命の営業社員や元社員106人が、顧客約500人から総額約31億円を不適切に取得した不適切事案が発覚。「信じて任せる」の限界はどこか。営業社員に対するガバナンスを考える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

企業の不祥事対応やコンプライアンスのご相談を受けていると、営業職が取引先からキックバックをもらう業務上横領をした、顧客から金銭を詐取したなど「営業社員をどう管理するか」という悩みによく直面します。

今回は、プルデンシャル生命保険が2026年1月16日に公表した、営業社員や元社員106人が顧客約500人から総額約31億円を不当に取得した不適切事案を題材に、営業社員に対するガバナンスの難しさについて考えてみたいと思います。

きっかけは1人の逮捕、そこから見えた「31億円」の闇

事の発端は2024年6月でした。

プルデンシャル生命保険の金沢支社の元社員が、1999年8月から2023年7月にかけて顧客34 名から投資運用目的で約 7.5 億円を交付させる詐欺の被疑事実で、2024年6月5日に逮捕されたのです。

この逮捕をきっかけに、プルデンシャルは2024年8月より、お手紙、お電話および E メールによって、お客さまへ((元)社員による不審な金銭取り扱い等がないかを伺うご連絡を行うなど、大規模な社内調査を実施しました。

その結果、2026年1月、 3 名の元社員が会社の制度や業務を装い合計8名の顧客から総額約6000万円を詐取した事案が発覚しただけでなく、業務とは無関係な投資勧誘や金銭の貸し借りをしていた社員・元社員が合計で106名、その金額は総額約31億円にのぼることが判明したのです。

同日、経営責任を明確にするため社長が2月1日付けで辞任する事態となりました。

会社は、不適切事案が発生した原因として、 「営業社員への過度な尊重」や「高業績者が称賛される風土」があり、さらにフルコミッション(完全歩合制)に近い報酬制度が、金銭的利益を重視する人材を引き寄せていたことなどを挙げています。

「一生涯のパートナー」という諸刃の剣

プルデンシャル生命といえば、「ライフプランナー」と呼ばれる営業社員が高い専門性を持ち、顧客の人生に寄り添うビジネスモデルで知られています。

このモデルの最大のメリットは、営業社員と顧客との間に極めて強い「信頼関係」が生まれることです。

顧客は「この人なら」と財布の紐を緩め、人生の悩みを打ち明けます。

しかし、この営業社員と顧客との「密な関係」は不祥事の温床になりやすいのです。

今回の調査報告でも指摘されていますが、顧客との関係が密になりすぎると、会社(本社や支社長)の目が届かない「ブラックボックス」が生まれます。

会社の商品ではない怪しい投資話を持ち掛けられても、営業社員と密な関係になった顧客は「あの優秀な〇〇さんが言うなら」と信じてしまうのです。

また、営業社員の裁量が広いため、会社側も「成績を上げているから」と管理を緩めがちになり、高業績者の発言権が強くなって、誰も文句が言えなくなるという弊害も生じます。

一般企業が採用する「癒着防止策」との決定的な違い

一般的に、多くの一般事業会社では、営業担当者が特定の取引先や顧客と癒着し、そこからキックバックなどの業務上横領等が発生することを防ぐため、数年おきに担当替えや転勤を行う「ジョブ・ローテーション」や人事異動を採用しています。

「担当を変える」ことによって、新しい担当者が前任者の不正に気づくきっかけになるからです。

ところが、プルデンシャル生命の掲げる理念は「一生涯に亘りパーソナルなサービスを提供する」ことです。構造的に「担当替え」という最強の不正防止カードを切りにくいビジネスモデルなのです。

一人の担当者が長く深く顧客に入り込むことを「是」とする以上、本来なら、一般企業以上の強固なモニタリング(監視)の仕組みが必要だったはずです。

例えば、営業社員とは別のカスタマーサービス部門が顧客に不定期に連絡を取り、保険以外に金銭を預けていないかをヒアリングするなどしてダブルチェックするなどです。

ところが、実際には、営業社員が不正をしないことを前提とした「性善説」や「成果主義」が勝ってしまったのです。

「縛り」をきつくすれば解決するのか?

プルデンシャルは再発防止策として、営業社員の活動状況(いつ、どこで、誰と会ったか)の報告義務化や、報酬制度の抜本的な見直し(営業成績への過度な連動を改める)を掲げています。

また、担当営業以外の本社部門が顧客へ直接コンタクトを取る頻度も増やすとしています。

これらはガバナンスの観点からは正しい処方箋です。

しかし、同時に大きな課題も孕んでいます。

これまで同社の営業社員が意欲的に働いていた背景には、「プロとしての自由な裁量」や「青天井の報酬」があったはずです。

管理を厳格化し、一般のサラリーマンのようにガチガチに縛ることで、優秀な人材が離れてしまったり、同社特有の強みであった「顧客への迅速で手厚い対応」が損なわれたりするリスクがあります。

「自由と規律」のバランスをどこで取るか。

プルデンシャルに限らず、営業社員に大きな裁量を与えている企業は、ビジネスモデルを根本からひっくり返すことを検討することも必要なのかもしれません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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