乱闘が頻発している愛媛県の新居浜太鼓祭りに関し、住友グループ4社が地元企業に「暴力が確認されれば取引停止」などを通知。企業の社会的責任(CSR)は地域の反社会的行為の防止にも及ぶ。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

愛媛県新居浜市で毎年10月に開催されてる新居浜太鼓祭りに関して、住友金属鉱山、住友化学、住友重機械工業、住友共同電力の住友グループ4社が、地元の取引先企業に対し、祭りに参加した従業員らによる暴力行為が確認された場合、取引停止や入構禁止などの対応を取ることを通知したことが報じられました。

「慣習」や「伝統」という大義名分で繰り返される地域社会の反社会的行為への企業の距離の取り方という点で見ると、非常に面白いケースでもあり、また、他の企業にとっても参考になる模範的なケースです。

新居浜太鼓祭り・道後温泉街の秋祭りでの暴行トラブル

新居浜太鼓祭りでは、豪華絢爛な太鼓台(約3トン)が練り歩き、毎年20万人もの観客が訪れる伝統的な祭りだそうです(私は報道まで存在を知りませんでした。岸和田のだんじり祭りみたいなものかなとイメージしてます)。

報道によると、近年、太鼓台を激しくぶつけ合う禁止行為「鉢合わせ」や、担ぎ手による乱闘が頻繁に発生し、関係者が刑事責任を問われる事態が起きています。

松山市の道後温泉街の祭りでも同様に、神輿をぶつけ合う「鉢合わせ」が見所であるものの、暴行トラブルが発生し、参加団体が辞退する事態も生じているようです。

なお、道後温泉街の祭りでは、「中止勧告を無視してけんかを行うなどした場合、違反した団体を1年以上の参加禁止処分」とするルールを定め、参加者にはルール順守の誓約書に署名することを義務づけ、警察に提出しているようです。

住友グループ4社が通知を発した背景

住友金属鉱山、住友化学、住友重機械工業、住友共同電力の住友グループ4社が取引先業に通知を出したきっかけは、地元の新居浜署からの要請です。

新居浜署が、祭りの参加者が多く所属する企業団体や住友グループ4社に、鉢合わせや乱闘は暴行、傷害、器物損壊などの罪に該当する極めて危険な行為であり、「伝統ではなく違法行為。断じて容認できない」とし、「現行犯逮捕を含む厳正な法執行を行う」と明記した要請文を交付しました。

こうした場合、企業は、地域の慣習や伝統を尊重しつつも、コンプライアンスが何よりも優先するという姿勢を示す必要があります。

そうでなければ、「住友グループは、慣習や伝統の名目なら暴力行為を容認する」と見られてしまうリスクがあるからです。

違法行為を容認する企業グループだと見られてしまえば、たとえ地元に影響力がある企業だとしても社会的信用をも失いかねません。

今回通知を発した住友グループ4社は、新居浜市の発展の礎となった別子銅山に起源を持つ企業として、地元に強い影響力を持ちます(この報道を通じて、初めて知りました)。

そのため、同グループが、地元取引企業に対して取った措置は、まさに企業の社会的責任(CSR)と、企業のリスクマネジメントが融合した意思決定と言えます。

住友グループの取引停止・入構禁止を伝える厳しい通知内容の意図

住友グループが通知した内容は、祭りに参加した従業員らによる暴力行為が確認された場合、取引停止や入構禁止などの対応を取るという厳しい内容です。

ここまで厳しい通知にした理由としては、住友グループの本気度を示すためだと推察できます。

警察や行政など公的機関からの要請を単なる事務手続きとして処理するのではなく、厳しい内容を通知することによって、住友グループが地域の社会的責任を果たそうとする意気込みを示すことができます。

しかも、これくらい厳しい通知内容にしなければ、通知を受け取った地元取引先企業やその従業員に「住友グループはああは言っているけれど、表向きに言っているだけだろう」と甘く見られる(舐められる)可能性があるからです。

取引停止や入構禁止になってしまえば地元取引先企業に与える経済的ダメージは非常に大きなモノになります。

そのため、地元取引先企業が自社の従業員に向けて「本当に止めてくれ」と働きかけることも期待できます。

住友グループのリスクマネジメントの側面

住友グループは上記通知を出すだけでなく、、住友化学愛媛工場前を会場として使わないよう求める要望書を提出しました。

これにより、地元の川西地区太鼓台運営協議会は、工場前への太鼓台の乗り入れを断念する意向を表明しています。

これは、自社の所有地や管理権限の範囲において、違法行為や危険行為が発生するリスクを断固として排除するリスクマネジメントの観点からの要望であると理解できます。

地域の「慣習」「伝統」に「コンプライアンス」は優先する

今回のケースに限らず「慣習」や「伝統」の名目で行われているコンプライアンス違反行為は少なくありません。

夏の甲子園で話題になった広島県代表広陵高校での部内の問題も同じようなものです。

今日において、こうしたローカルの「慣習」や「伝統」は通用しにくくなっています。

決して祭りを否定するつもりはありませんが、コンプライアンスの要請に基づいて徐々に変容していくことが必要です。

まして、企業が関与する場合には、企業はコンプライアンスの要請を「慣習」や「伝統」よりも優先させる必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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