エア・ウォーターが不適切会計を機に監査等委員会設置会社に移行し、社外取締役を議長に。オリンパスと比べて見る、ガバナンスを機能させる社外取締役の資質

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

エア・ウォーターは2026年9月22日付で監査等委員会設置会社へ移行し、独立社外取締役の加藤三紀彦氏を取締役会議長に選定しました。新体制では、取締役15人のうち9人を社外取締役が占めています。

同社では、前会長が容認した不適切な会計処理がグループ37社に広がっていました。今回の移行は、その反省から監督を強めるための体制変更です。

ただ、同社にはこれまでも社外取締役がいて、指名・報酬委員会もありました。それでも、在任中のトップの不正を止められませんでした。

社外取締役を議長に据え、人数を増やしても、トップが不正に手を染めたときに取締役会がそれを止められるとは限りません。

同じように体制を変え、のちに在任中のCEOに辞任を求めたオリンパスと比べながら、体制変更を実際の監督につなげるために何が必要かを見ていきます。

社外取締役も委員会もあったのに、前会長の不正は止まらなかった

東京証券取引所は2026年4月30日、エア・ウォーターを特別注意銘柄に指定しました。経営トップが不適切な会計処理を容認し、トップに忖度した経営陣や管理部門の責任者が関与・黙認したことで、内部統制が実質的に無効化されていた、としています。

特別調査委員会の調査報告書によると、グループ各社では、実在しない在庫の計上、評価損や廃棄損の先送り、検収前の売上計上、引当金の計上回避などが行われていました。

子会社のエコロッカでは、約4億8,000万円の損失を一括で処理しようとしたところ、当時の会長が否定的な発言をしたため、5年に分けて処理する計画に変わったと記載されています。

本来こうした問題を見つけるはずの監査室も、トップの側にいました。

報告書には、監査室の室長が損失を一括で処理しない方法を提案し、監査法人に発覚しないための方策を検討した資料を作って経営トップに説明していたことが記されています。監査役会との情報共有も十分ではなかったと指摘されています。

同社は2022年8月、取締役会の諮問機関として指名・報酬委員会を設置していました。形のうえでは、トップを監督する仕組みは設けられていたのです。

しかし、不正を容認していたのは経営トップ自身で、不正を見つけるはずの監査室長はトップに隠し方を説明していました。

社外取締役や委員会に問題が伝わるルートが、機能していなかったのです。

オリンパスでは2011年にガバナンスが機能せず、2024年に機能した

2011年の社長解職

オリンパスでは2011年、就任したばかりのマイケル・ウッドフォード社長が過去の買収に伴う不明朗な支出を問題にしました。しかし取締役会は同年10月14日、ウッドフォード氏を解職しました。

当時も社外取締役はいましたが、解職は全員一致だったと報じられています。その直後、長年の損失計上の先送りが明るみに出ました。

機関設計の変更と2024社長辞任

その後、同社は2019年に指名委員会等設置会社へ移行し、取締役会議長と法定の3委員会の委員長をすべて独立社外取締役が務める体制にしました。

同社は2024年10月28日、シュテファン・カウフマン社長兼CEOの辞任を発表しました。

違法薬物の購入に関する通報を受けて外部の法律事務所と事実確認を行い、取締役会が全会一致で辞任を求めたと公表しています。

同じ会社で、2011年にはガバナンスが機能せず、2024年には機能しました。

機関設計を変えたことだけでは、この違いは説明できません。

社外取締役に求められる資質と振る舞い

再任への遠慮

トップが大株主として議決権を握っている会社や、エア・ウォーターのように人事・報酬の権限がトップに集中していた会社では、社外取締役の再任もトップの意向に左右されます。

「トップに異を唱えれば、次の株主総会で候補者から外れるかもしれない。」

社外取締役にこうした計算が働くと、「少し確認させてください」と言うべき場面で口を閉ざすことが容易に想像できます。

しかし、本来、社外取締役は本業を持ち、その会社の役員報酬に生活を依存していません。外に収入と居場所があるから、トップに遠慮なく意見を言えます。そのために社外から招かれているのです。

再任を気にしてトップの顔色を窺う社外取締役は、肩書きが社外であるだけで、社内取締役と変わりません。

ガバナンスの機能を期待されていない人

社長の知人や友人として招かれた人は、トップとの関係を壊したくないため、トップの判断に異を唱えにくくなります。

コンプライアンスやガバナンスの重要性を理解していなければ、疑問があっても「まあ、いいんじゃないですか」で済ませてしまいがちです。

知名度や女性比率の数合わせ、事業への助言を期待されて選ばれた人も、同じことになりがちです。本人は助言役のつもりで席に座っており、トップの不正を調べて辞任を求めるなどしてガバナンスを機能させることを、自分の仕事だと思っていない可能性があります。

社外取締役の人数は開示されても、何を期待されて選ばれたのかは外から見えません。

オリンパスで在任中のトップに手を打てた事情

週刊文春の報道によると、カウフマン氏の薬物取引を告発する文書は、本社や竹内康雄会長の自宅だけでなく、社外取締役の市川佐知子弁護士が所属する法律事務所と、社外取締役の藤田純孝氏の自宅にも届いたとされています。

トップの不正を示す情報が、執行側の誰かによって取捨選択される前に、社外取締役の手元に届いていたことになります。

受け取った市川氏は、2021年から社外取締役を務める弁護士です。藤田氏は伊藤忠商事の出身で、損失隠し後の2012年4月に社外取締役に就き、当時は取締役会議長を務めていました。

監督を期待して選ばれた人が情報を受け、トップの不正を止めることを自分の役割と理解し、その役割に徹したから、約1か月で辞任を求めるところまで進めたのでしょう。

執行側も、外からの監督を受け入れてきました。

改革を主導した竹内会長は、日本の組織を変えるには外圧が必要だと東洋経済のインタビューで述べています。執行のトップがこうした姿勢を示していれば、社外取締役もトップに遠慮せずに判断できます。

エア・ウォーターの新体制に必要なこと

エア・ウォーターでは、問題を見つけるはずの監査室の室長が、隠し方を経営トップに説明していました。監査室の報告が経営トップにしか上がらない形のままでは、議長を社外取締役にしても、トップが関わる不正は取締役会に届きません。

監査室の報告先を監査等委員会と取締役会議長にも直接つなぎ、役員の不正の通報が監査等委員会に届く窓口を設けることが必要です。

通報があったときは監査等委員会が調査を指揮し、執行側を通さずに外部の弁護士を起用する手順も、平時のうちに決めておくことが現実的です。

ただし、情報と手順がそろっても、社外取締役が再任を気にしたり、監督役であることを自覚していなかったりすれば、判断は下されません。

会社は社外取締役一人ひとりに何を期待して選んだのかを株主に説明し、社外取締役の側も、職を失うことをためらわずにトップを止める立場にいることを自覚する必要があります。

同社では2026年6月、それまで議長だった社外取締役の千歳喜弘氏が社長に就任しています。

かつて議長席にいた人を監督の対象として扱えるかどうかが、新しい取締役会に最初に問われることになりそうです。

自社の取締役会を点検するときも、社外取締役の人数より先に、トップに不都合な情報が社外取締役まで届くルートがあるか、届いたときに社外取締役が遠慮せずに動けるかを確かめておくことが、実務的な備えとして必要です。


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アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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