こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
公正取引委員会は2025年9月29日、Olympicに対し、下請法違反となる禁止行為「下請代金の減額」があったことを理由に勧告を行いました。
Olympicによる「下請代金の減額」
例の如く、公正取引委員会の公表資料にある事案の概要がわかりやすいので、こちらを引用します。

公表資料と上記概要にあるとおり、下請法の親事業者に該当するOlympicが、下請事業者に支払うべき、食料品等の製造・時計の修理に係る下請代金から、
- 「割戻し」の名目で、下請事業者10名に支払うべき下請代金から、下請代金額に一定料率を乗じた額合計約1716万円から差し引いた
- 下請事業者の金融機関口座への振込手数料を、下請事業者の負担とすることについて書面で合意を得た上で、下請事業者16名に支払うべき下請代金額から、振込手数料を超える額約11万円を差し引いた
以上の2点が、下請法で禁じられている「下請代金の減額」に当たると判断されました。
中小受託事業者の同意を得ても、振込手数料を製造委託等代金から減額することは違法
下請法は2025年5月に改正され、2026年1月1日から取適法(中小受託取引適正化法)が施行されます。
これまで下請法の親事業者だった会社は「委託事業者」となり、下請事業者だった会社・個人は「中小受託事業者」に代わります。
また、これまで下請法が適用されなかった資本金の規模の会社も、委託者・受託者双方の従業員数次第では取適法が適用されることになります。
ビジネスパーソンが全容について知るには、公正取引委員会が出している「取適法ガイドブック」を読むのが良いと思います。
Olympicのケースを機に、2026年1月1日からの取適法の施行に先立って再確認して欲しいのが、委託事業者から中小受託事業者への製造委託等代金を支払う際の振込手数料の負担に関するルールです。
取適法の運用基準(2025年10月1日に発表されました)にて、
3 代金の減額
(1) 法第5条第1項第3号で禁止されている代金の減額とは、「中小受託事業者の責めに
帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること」である。
代金の額を「減ずること」には、委託事業者が中小受託事業者に対して、(中略)
カ 中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くこと。
キ 毎月の代金の額の一定率相当額を割戻金として委託事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。
等も含まれる。
として、中小受託事業者の同意を得ても、振込手数料を中小受託事業者に負担させること(製造委託等代金から差し引くこと)は禁止行為であることが明示されています。
なお、キには、Olympicが「割戻し」として下請代金から差し引いた行為が、取適法でも禁止行為であることが明示されています。
委託事業者は、契約書のひな型の見直しが必要
取適法では、これまでの下請法よりも、法の適用対象となる取引の範囲が拡大します。
今まで取適法についてほとんど意識したことがない会社も、取適法を意識した契約書のひな型を用意しなければならなくなりました。
上記の振込手数料の負担について、今までは「振込手数料は受託者が負担する。製造委託料から振込手数料を控除して支払う」などとしていた取引も、取適法が適用されることになると、たちまち違法になってしまいます。
まずは、契約書を見直して、「振込手数料は委託者が負担する。製造委託等代金から振込手数料を控除してはならない」という内容になっているのかを確認し、必要に応じて修正してください。
もちろん、取適法が適用されない取引においては、振込手数料を受託者が負担することが適法であることは今までどおりなので、その場合には、振込手数料の負担に関する見直しをする必要はありません。