岩機ダイカスト工業が下請法違反の「返品」を行い、公正取引委員会から勧告。抜き取り検査で合格と判断した後に「瑕疵」が見つかった場合に返品するためには・・

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公正取引委員会は2025年8月7日、岩機ダイカスト工業に対して、下請法違反の「返品」を行ったことを理由に、勧告しました。

下請法違反とされた「返品」行為

事案の概要は公正取引委員会の公表資料がわかりやすいので、抜粋引用します。

具体的には、下記の行為が、下請法違反となる「返品」に該当しました。

岩機ダイカスト工業は、下請事業者から製品を受領した後、品質検査をロット単位の抜取りの方法により行っていたが、あらかじめ当該製品に瑕疵があった場合の引取りの条件について下請事業者と合意していないにもかかわらず、受領した合格ロット中の製品に、直ちに発見することができる瑕疵があったことを理由として、令和5年4月から令和7年1月までの間、下請事業者に対し、当該製品を引き取らせていた。

分解すると、ポイントは以下の4点です。

  • 岩機ダイカスト工業は、下請事業者から製品を受領した後、品質検査をロット単位の抜き取りで行った
  • ロット単位の抜き取り検査で合格したものを受領した
  • 受領後に合格ロットの製品の中に、直ちに発見できる瑕疵があることを理由に、返品した
  • 瑕疵があった場合の引取条件について合意していなかった

抜き取り検査した製品には不合格品はなかったので受領したけれども、その後、抜き取っていない製品の中に直ちに発見できる瑕疵があったとして返品したのです。

大量の製品をやり取りする企業間の取引ではありうることだと思います。

ロット単位の抜き取り検査で合格として受領した後に、検査しなかった製品の瑕疵を理由に返品するためには

こうした理由による返品がすべて違法な「返品」になるわけではありません。

下請法の運用基準は、ロット単位の抜き取り検査をして合格として受領した後に、直ちに発見できる瑕疵を理由に「返品」する場合を想定して、次のように定めています。

4 返品
⑴ 法第4条第1項第4号で禁止されている返品とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること」である。
⑵ 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして、下請事業者の給付を受領した後に下請事業者にその給付に係る物を引き取らせることが認められるのは、下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合若しくは下請事業者の給付に瑕疵等がある場合において、当該給付を受領後速やかに引き取らせる場合又は給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合に限られる。ただし、給付に係る検査をロット単位の抜取りの方法により行っている継続的な下請取引の場合において当該給付受領後の当該給付に係る下請代金の最初の支払時までに引き取らせる場合にあっては、あらかじめ、当該引取りの条件について合意がなされ、その内容が書面化され、かつ、当該書面と発注書面との関連付けがなされていなければならない

太字にした部分がポイントです。

  1. ロット単位の抜き取り検査をしている継続的な下請取引であること
  2. 下請代金の最初の支払時までに返品する場合に限る
  3. 事前に、返品の条件について書面で合意し、かつ、発注書面と関連付けられていること

1のとおり、継続的な下請取引が前提となるので、1回限りの下請取引では、ロット単位の抜き取り検査で合格として受領した商品を返品することはできません。

2のとおり、抜き取り検査で合格として受領した商品を返品できるのは、下請代金の最初の支払時までに限られます。

下請代金を分割払いにしている場合に、2回目以降の支払時に瑕疵を発見しても返品できません。

3のとおり、ロット単位の抜き取り検査をしている場合、事前に、返品の条件について書面で合意していることが前提です。

また、発注書面と関連付けられている(紐付けられている)ことが必要なので、基本契約に定めるだけで無く個別契約にも、「今回の取引はロット単位の抜き取り検査を行う。抜き取り検査で合格・受領した後に瑕疵を発見した場合には返品できる。返品は最初の支払時までである。返品の方法、費用負担は、これこれこうである」などを定めておく必要があります。

受発注を伝票で行っている場合には、伝票にもその旨を記載したほうがよいのでしょう。

岩機ダイカスト工業の場合、3のあらかじめの書面での合意がなかったことで、下請法違反の「返品」とされました。

改正下請法=中小受託事業者法(中小受託取引適正化法・取適法)になっても同じ

従来の下請法が改正され、2026年1月1日から中小受託事業者法として施行されます。

・・・内閣官房と公取は「中小受託取引適正化法、通称:取適法」としていますが、どこから「適正」の言葉が出てきたのか・・

中小受託事業者法でも返品の規制はそのまま残っています。

2026年1月1日以降も、今回の考え方がそのまま当てはまると理解しておいてよいでしょう・

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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